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第二章

第75話:報告と晩餐会

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 俺は辺境伯と所に行ってトゥールダンジョンの変化を報告した。
 先に冒険者ギルドに行って膨大な量のドロップを納税したので、結構な時間を取られてしまい、晩飯を食べながらの話し合いになった。

「何がどうなったのは、さっぱり分からない。
 ショウはどう思っているのだ」

「辺境伯に分からない事が俺に分かるはずがないだろう。
 俺は最近ここに来たばかりなのだぞ」

「私からみると、ショウが来たから変わったように思えるぞ」

「そうは言われても、俺が来たからダンジョンが変わるのなら、ネウストリア、アンジェ、オセール、エノー、ヴァロワ、ホラントなどのダンジョンも変わるはずだ」

「そうだな、来ただけでなく、狩りに入ったから変わったのだと言いたくても、多くのダンジョンで狩りをしているし……」

「根気よく最近何があったのかを調べて検証するしかない。
 女子供は俺が保護して聞き出すから、都市に住んでいた連中の聞き取りを頼む」

「女子供も俺が調べたいのだが?」

「彼女達とは縁がある。
 ポルトスとの関係もある。
 辺境伯の家臣が調子に乗って身分を笠に厳しい取り調べをしたら、俺とポルトスを敵に回す事になるが、分かっているのだろうな?」

「そう言わると困るな。
 能力は兎も角、人格的に信頼できる者は少ない。
 ショウやポルトスを敵に回すのだけは避けたいから、我が家で調べるのは諦めるが、調べた事は毎日報告してくれ」

「ああ、だが期待しないでくれ。
 聞くべき事はほぼ聞いた後だ」

「そうか、だが、落ち着いたら思い出す事があるかもしれない。
 日を改めて何度も聞き返してくれ」

「分かったよ」

 話している間に、料理が運ばれてくる。
 前世で貴族や金持ちが食べていたコース料理ほどではないが、何度かに分かれて運ばれてくる。

 とはいえ、この世界では穀物も野菜も果物もほとんど取れない超貴重品で、牧畜すら軍馬を少数飼っているだけなので、酒がない。

 酒がないから料理を何度かに分ける意味も限られている。
 超貴重な食材を最後に少し食べる以外は、肉料理が続くだけだ。
 肉しかないから焼くか煮るかの違いしかない。

 だが、俺のお陰で安定して野菜を採取できるようになった辺境伯家では、一食に大量の野菜と穀物を食べられるようになっている。

 この世界に来てからは穀物をほとんど食べなくなったが、死ぬ前は最初からメインディッシュと御飯と汁物を一緒に欲しかった。
 ワンプレートや定食の方が好きだったので、辺境伯にもそのやり方を教えた。

 出さないでくれと言ったから俺の前にはないが、辺境伯の前には麦飯が山と盛られている。

 共通して出されているメインディッシュは、新トゥールダンジョンでドロップした茶魔胡狼ロース肉を、辺境伯がリクエストした信頼と実績の超優良企業のバーベキュースパイスカレー味シーズニングを大量に入れて水から煮たもの。

 茶魔胡狼ロース肉だけでなく、人参と大根、茄子とトマト、サツマイモとジャガイモ、白菜とキャベツを試しに入れている。
 俺から見れば簡易な薄味のスープカレーだ。

 俺がリクエストしたのは、灰魔熊ロース肉を、信頼と実績の超優良企業の燻製された岩塩と燻製された黒胡椒シーズニングを振ってから炒めたもの。
 
 最後は二人で試食する事にした、茶魔狸ロース肉を、信頼と実績の超優良企業の燻製された岩塩と燻製された黒胡椒シーズニングを振って焼き上げたもの。

 俺は肉から先に食べたのだが、辺境伯は、灰魔熊ロース肉を炒めた時にでた脂と肉汁で炒めたモヤシが一番先だ。

 目を細めて本当に美味しそうに食べている。
 俺もモヤシの肉汁炒めは大好きだから肉と一緒に食べているが、その後が違う。

 俺はとろろ麦飯を食べない。
 灰魔熊ロース肉炒めを食べる。

 辺境伯は肉料理を試食程度にしか食べない。
 スープカレーに入った野菜を幸せそうに食べている。
 ボイル野菜と食べ比べては目を細めている。

「美味いな、本当に美味い。
 茹でた野菜も美味いが、このカレーと言うので煮た野菜が本当に美味い。
 これが安定して手に入ると思ったのだがなぁ」

「アンジェダンジョンで続ければいいだろう」

「思い描いていた半分になってしまう」

「オセールダンジョンを野菜栽培用にすればいいだろう。
 トゥールダンジョンがネウストリアダンジョンよりも有望になったんだ。
 いっそ本拠地をトゥールに変えたらどうだ?
 防衛上の問題はあるだろうが、長い目で見たらその方が良いだろう?」

「確かこうなった以上本拠地をどこにするかは大問題だ。
 ショウを信用してはいるが、今までと違ってトゥール伯爵領から敵が攻め込めるようになってしまったからな」

 とんでもなく便利な街道を造ったから、俺と戦う気なら大軍を派遣できる。
 とはいえ、俺が造った宿泊用砦が使えないと、魔獣が活発に行動する夜の間に全滅するだろう。

「俺が敵になったら、本拠地がネウストリアでもトゥールでも同じだが、城塞都市で籠城する気なら、トゥールの方が上だろう。
 俺とカミーユの子供に譲る約束だったが、今ならまだ間に合うぞ」

 カミーユは甘味の虜になってしまっているが、まだ手を出していない。
 子供が生まれるはずもないので、跡を継がせるも何もない。
 爵位にも領地にも執着などないし、そもそも今はカミーユの領地だ。

「いや、約束は約束だから、ちゃんと守る。
 ただ、惜しくないと言えば嘘になる。
 草原バランス型の広大なダンジョンを内包する城塞都市なら、養える人間も多くなるし、戦いに必要な武器や防具も手に入る」

「だったらまた爵位を変えればいいだろう。
 カミーユが前に名乗っていたオセール伯爵に戻せばいい。
 俺は気にしないぞ」

「私を試しているのならやめてくれ。
 とんでもない宝を生み出すようになったダンジョンを奪って、ろくなドロップしか落とさない浅層ダンジョンを押し付ける。
 ショウに憎まれるような事はできない」

「辺境伯を試している気はないぞ。
 本気で言っている」

「ショウが俺達と違う常識で生きている事は分かっている。
 特に価値観が全く違うのだと分かった。
 だが、だからと言って、莫大な利を奪うような事はできない。
 そんな事をしたら、それを理由に敵対されても何も言えなくなる。
 ショウがこちらの価値観を尊重してくれているのも分かっている。
 その利を手放すほど愚かではない」

「そういう事なら何か理由を作らないといけないな。
 俺が政略結婚を嫌がっていたのは覚えているな?」

「ああ、覚えている」

「婚約破棄の代償に、子供に継がせる話はなかった事にするのでどうだ?」

「本当にこれ以上私を試すのは止めてくれ」

「嘘偽りなく、試してはいないぞ。
 だったら、トゥールダンジョンで働いていた女子供を、俺がもらうのを理由にしたらどうだ?」

「全く釣り合わないだろう!」

「俺がそれだけの価値があると言っているのだ。
 他のダンジョンで野菜作りをしている女子供ももらう。
 これなら野菜作りができなくなるから、価値が釣り合うんじゃないか?」

「確かに野菜作りができなくなるのなら釣り合うだろう。
 だが絶対にできなくなるわけじゃない。
 女子供がいなくなり、ダンジョンにある種や苗を全部持って行かれたとしても、私がもらった野菜や穀物がある。
 それを種にして育てられるぞ」

「だがそれをすれば、女子供達の時とは違って、必ず作り方が広まる。
 心から信頼できる家臣はほとんどいないのだろう?
 欲に目が眩んで種を盗み出し、他の領主に売る奴が必ず現れる。
 そうなれば独占できなくなるから、大して利益にはならない」

「それはそうだが、ショウに裏切る理由は渡せない」

「だったら俺が作らせる野菜を辺境伯が売ってくれ。
 俺は面倒事が嫌いだから、他の貴族に野菜を売る面倒事を全部引き受けてくれ。
 そうすれば他の領主が野菜を作れるようにはならない。
 それなら俺にも辺境伯にも利があるだろう」

「……そうか、確かにその方法なら俺達で野菜を独占できるな。
 分かった、ショウの利を奪うのだけでなく、ショウに利を与えられるのなら、カミーユの爵位をオセール伯爵に戻そう」
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