気がついたら悪役令嬢の父でした。

第一章

第2話：つきまとい

「あの、父上、今日はどうされたのですか」

　愛しい我が娘グレイスが困惑した表情で聞いてくる。

「何もしないさ、単なる授業参観だ」

　グレイスの困惑が更に深くなるが、しかたがないのだよ。
　この学園は魔の巣窟なのだ。
　本質は純情可憐なグレイスを、悪女に変えようとする性悪が数多くいる。
　魑魅魍魎のような性悪娘からグレイスを護るためには、俺が常に見張っていなければいけないのだ。

「あの、でも、父上、今日は授業参観日ではありません。
　授業参観日でもないのに父上がここにおられると、わたくし恥ずかしいですわ」

　確かに、グレイスの年齢で学園に父親が来るというのは恥ずかしいだろう。
　それは私にも分かっているが、しかたがないのだよグレイス。
　全てはグレイスを護るための苦渋の決断なのだ。
　グレイスの学園生活を見てみたいとか、グレイスと一緒に学園生活を送りたいとか、そんな邪な気持ちではないのだ。

「よく聞きなさいグレイス、これはとても大切な事なのだよ。
　貴族家の子弟子女はまだまだ未熟な存在で、大切に育てなければいけないのだ。
　貴族の子弟子女の教育に失敗してしまったら、二十年後三十年後に国が滅んでしまうかも知れない。
　だからこそ、ノルマン公爵家は学園に多額の寄付をしている。
　その寄付が正しく使われている事と、教師がしっかりと教えている事を確認する責任が、ノルマン公爵である私に課せられた聖なる役目なのだ」

　私が表面上の理由を口にしたら、教室にいる生徒達の表情が、あからさまな迷惑顔から諦めの表情に変わっていった。
　私は前世から言い訳は得意なのだよ。
　幸い今日は王太子が国の公式行事で登園していない。
　王家と国には、しばらく学園に常駐して監督すると、今日家臣に届けさせた。
　王太子が登園してきたら、私に文句を言うかもしれないが適当に誤魔化せばいい。

　ガラガラガラガラ

「起立、礼、着席」

　教師が教室に入ってきて、チラリと私の方に視線を向けた。
　表情は取り繕っているが、内心の困惑と迷惑な気持ちが透けて見えている。
　前世では人の顔色を見て生きてきたから、その程度の誤魔化しに騙されはしない。
　この世界でも、生死の罠が仕掛けられている社交界では、人の顔色や仕草を見抜くのは生き残るための大切なスキルだった。
　教える相手が貴族の子弟だから、前世の先生のように身勝手には振舞えないだろうが、それでも相手はまだまだ未熟な学生だ。
　今まではその程度の隠蔽でも生徒の眼を誤魔化せたのだろうが私には通用しない。

「みなさんももう聞いているでしょうか、ノルマン公爵キンブル閣下が学園を検分されますから、いつも通りに振舞い、学園が円滑に運営されている事と、みなさんが一生懸命学んでいる事をお見せしてください」

　私はそんな事に興味はない。
　私がここに来たのはグレイスを護るため、それだけだ。