幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

蝦夷地開拓

幕府の事情

　一方幕府にも色々な事情があった。
　一番の問題は、三十一万石もの畑を無駄に出来ないと言う事だった。
　密貿易商人の御陰で、蕎麦と麦が日本国内よりオロシャの方が高値で売れる事が分かった。
　側と小麦をオロシャに売って、その代価でオロシャから俵物を購入すれば、今よりも多くの俵物を清国に販売することが出来る。
　清国に多くの俵物を販売出来れば、今よりも多くの玄米を購入する事が出来る。
　だから絶対に三十一万石の畑を耕作放棄する訳にはいかなったのだ。
一年でも耕作を放棄してしまったら、せっかく開拓した土地が元の原野に戻ってしまう。
　しかし何の処罰もしない訳にはいかないので、開拓地を召し上げるが小作人として耕作させると言う、中途半端な判決となったのだ。
　勿論初年度開拓団が雇っていた小作人に、幕府の領地となった開拓地を直接貸し与える事はしたが、それだけでは三十一万石を無駄なく耕作させる事は不可能だった。
　東国の貧しい百姓を移住させる事や、江戸や大阪の貧民街にたむろする、無宿人を狩り集めて開拓地に送り込む計画もあったが、直ぐに送り込めるわけではない。
　そして何よりも幕府が優先する計画が他にあり、そこに人間を送り込む必要があったのだ。
　それは幕府水軍を強化し、外国の侵攻に備えつつ、蝦夷地と長崎を結ぶ南蛮帆船の建造だった。
　豊富な資金を生かし、見本となる大型南蛮帆船を購入すると同時に、オランダから助人として送られて来た船大工の指導の下、小型の南蛮帆船を独自で建造していた。
　そしてその船に搭載する大砲も、オランダ人技術者に助言を貰っていた。

「快速丸」
排水：五十トン
全長：二十一・八メートル
全幅：五・八メートル
吃水：
一本マストのカッター
六ポンド青銅砲：四門
一ポンド回旋砲：四門
建造費：二千両

「迅速丸」
排水：百トン
全長：二十四・六メートル
全幅：七・〇メートル
吃水：三・〇メートル
二本マストのスクナー
六ポンド青銅砲：十門
建造費：四千両

「千石船甲」
全長：二十三・七十五メートル
最大幅：七・二十四メートル
積石数：五百十二石
帆の大きさ：約百五十五畳

「千石船乙」
重量：約九十トン
全長：三十メートル
最大幅：七・四メートル
積石数：八百六十五石
帆の大きさ：約二百畳

「和船と西洋帆船の比較」
千石船の排水量二百トン（船の重量と同じ）
積載量：千石（約百五十トン）

「大型南蛮帆船」
重量　：一五七六トン
排水量：二二〇〇トン
全長　：六二・一メートル
全幅　：一三・三メートル
吃水　：四・四・メートル
三本マストフリゲート
二四ポンド長砲　　　　：三〇門
三二ポンドカロネード砲：二〇門
二四ポンド艦首砲　　　：二門