柳生友矩と徳川家光

克全

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第二章:出世

第9話:襲撃

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1626年1月16日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳

「わっはははは、これで俺様とお前の身分は大違いになったぞ!」

 上様がいない時を見計らって堀田が拙者を見下す。
 普通なら武士の誇りにかけて斬り殺すところだが、見逃してやる。
 ここで騒ぎを起こしてしまったら、上様の秘密が暴かれる恐れがある。

 本当の忠臣なら、それを考えて身を慎むのだが……
 嫉妬深く愚かで身勝手な堀田にそのような事を求めても無意味だ。
 この二年間で嫌というほど理解した。

「どれほど重い役目に就こうと、本人に実力がなければ意味がない。
 それに、一対一の殺し合いに成ったら武力が全てだ。
 何なら果たし状を突き付けてやろうか?」

「くっ、覚えていろ!」

 ほんの少し殺気を乗せて脅してやったら直ぐ逃げ帰った。
 これだから衆道しか能力のない陰間と悪口を言われるのだ。
 そういう奴だからこそ、正々堂々と戦いを挑んで来る事はない。

 下城の時に襲ってくるか、それとも屋敷に襲撃をかけてくるか?
 兄上が春日局や稲葉一族に堀田の正体を伝えてくれている。
 連中が堀田に味方する事はないだろう。

 堀田の武力は父親から継いだ千石の領地で養える家臣が全てだった。
 だが今回小姓組番頭就任にあわせて五千石に加増されたと聞く。
 とはいえ、そう直ぐに忠勇兼備の家臣が集められるわけではない。

 千石の軍役は騎乗する本人が一騎
 侍が五人
 押足軽が一人
 弓足軽が一人
 鉄砲足軽が二人
 甲冑持中間が二人
 槍持中間が二人
 馬の口取り中間が二人
 草履取中間が一人
 挟箱持中間が二人
 沓箱持中間が二人
 小荷駄中間が二人
 他にも屋敷や領地に残る者もいる。
 正確な人数は分からないが、幕府の軍役を考えれば大体の事は想像できる。
 
 一方拙者は五百石の独立した旗本として軍役がある。
 拙者は当主として騎乗する事になる。
 用人役の侍が一人
 中小姓役の侍が二人
 立足軽が一人
 甲冑持中間が一人
 槍持中間が一人
 馬の口取り中間が二人
 草履取中間が一人
 挟箱持中間が一人
 小荷駄中間が二人
 表向き軍役に関係がない女中と下女が六人もいてくれる。
 彼女らも含めて全員忍びだ。
 柳生家ではなく兄上に忠誠を誓う者達だ。

 兄上はとても慎重な性格をしておられるようだ。
 春日局と稲葉家が堀田に味方しないと考えながらも、護りに手を抜かない。
 裏で刺客を放ってきた場合でも対処できるようにしている。

 問題は小姓組番頭として組下の連中を使ってきた場合だ。
 小姓番の連中も馬鹿ではないから、将軍家剣術指南役次男の俺を襲わないと思う。
 だが旗本の子弟には、中には信じられないくらい愚かな者もいる。

 それに、堀田が襲う相手を偽る可能性もある。
 拙者の事を将軍家に仇名す者と嘘をつき、組下を操る可能性がある。
 得意の衆道で籠絡した者達を差し向けてくる可能性もある。

 その時の為の登城下城時の共廻りには精鋭を選んでいる。
 侍格の者だけでなく、中間格の者も柳生新陰流の使い手だ。
 父上が領主を務める柳生荘三千石は、領民も新陰流を学んでいる。
 
 一度豊太閤に召し上がられた柳生荘だが、徳川家に仕える事で取り戻した。
 戦国乱世を君臣共に生き抜いてきたのが柳生荘だ。
 当然領民達も生き残るために武芸に励んで来た。

 農民ながら武芸を極めていた者達。
 それが俺に仕える事で武士や武家奉公人に成れたのだ。
 兄上に忠誠を誓っていた者達だが、俺に忠誠を誓うようになって欲しい。

 今は兄上と同じ道を歩んでいるからいいが、将来は分からない。
 兄上と袂を分かった時、彼らが兄上と拙者のどちらに忠誠を誓うのか?
 全ては兄上と拙者の器量にかかっている。

 俺が彼らの力を測っているのと同じように、彼らも俺の力を測っている。
 堀田ごときに後れを取る訳にはいかない。
 兄上に任せてばかりではいけない。

 自分の好みに合わないからといって、避けて通れない事もある。
 堀田が上様の力を借りて拙者を追い込もうとしている。
 ならば拙者も上様の力を使って堀田を追い込む!
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