五十四歳独身小説家志望が、資料の乙女ゲームのモブ令嬢にTS転生させられてしまいました。

克全

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6話

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「ピィィィィィ」

 音が鳴り響くと、刺客たちが一斉に逃げ出しました。
 不利と悟ったら、次の機会をうかがって撤退するのです。
 その事が刺客たちの練度をうかがわせました。
 引き時を誤らない、恐ろしい相手です。
 
 ですがそう簡単に逃がしはしません。
 一度かかわってしまった以上、最悪の場合を想定しなければいけません。
 今度は俺やアルテイシアを襲ってくるかもしれないのです。
 刺客たちのアジトはもちろん、黒幕も確かめておく必要があるのです。
 俺は使い魔に刺客たちの後をつけさせました。

「王太子殿下、ご無事ですか?
 ヘイグ公爵家のアルテイシアと、ジェリコー伯爵家のリリィが助けに参りました!
 ご無事なら声だけでもお聞かせください。
 ケガをされておられるなら、私とリリィの聖なる魔法で癒して差し上げます」

 ああ、思いやりなんだろうが、困った!
 アルテイシアが、自分だけではなく私まで王太子を救援したと教えてしまった。
 しかも私まで聖の魔法が使えると王太子に教えてしまった。
 これで色々な家から縁談が持ち込まれてしまう。
 下手をしたら、アルテイシアと同じように王太子の妻にさせられてしまう。
 当然伯爵家のような身分なら、正妃や側妃ではなく愛妾でだ。
 これではアルテイシアと幸せな一生を送る計画が台無しだ。

「おお、その声は確かにアルテイシアの声だ。
 パーカー、アルテイシアで間違いないな?」

 王太子が護衛に声をかけて、アルテイシアが本物なのか確認しています。
 憶病なように見えてしまいますが、常に暗殺の危険にさらされている王太子なら、仕方のない警戒なのでしょう。

「はい、アルテイシア様に間違いありません。
 申し訳ないのですが、ジェリコー伯爵家のリリィ嬢の顔は存じておりませんので、ご本人かどうかは確認できません」

「それは大丈夫ですわ、王太子殿下。
 リリィが素晴らしい令嬢なのは、聖なる魔法を見ていただければわかります。
 護衛の方々を癒して差し上げて、証明してみせてあげて、リリィ」

 ああああああああ!
 完全な好意による言動だとは分かっていますが、面倒ごとが増えるだけです。
 だからといって、いまさら隠せるとも思えません。
 どうしたも隠したいのなら、震えて何もしなければよかったのです。
 王太子も護衛も見殺しにすればよかったのです。
 
 ですがそんなことなどできませんでした。
 男の見栄以前に、あそこで協力しなければ、アルテイシアが無理をしていました。
 無理をすれば、アルテイシアが殺されてしまっていたかもしれないのです。
 あの場合は他にやりようなどなかったのです。
 もうここは成り行きに任せるほかありません。

「護衛の方々を癒させていただきます」
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