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第一章

フォレタグ商会

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オリビアが早速料理人に伝えたのだろう。次の日の朝食は量も減り、シンプルなものに変わっていた。それでも、どれも手の込んだ美味しい料理だった。

(テイラー家の料理人はとても腕が良いのね)

マーガレットは朝食を楽しみながら、今日の予定を考えていた。


「午後はフォレタグ商会に行く事にしたわ。会長のフォレスターさんにご挨拶と、刺繍の糸を買おうと思っているの。馬車は準備できるかしら?」

マーガレットがオリビアに聞くと「すぐに確認して参ります」そう言って、もう一人の侍女に目配せをして、侍女が頷き部屋から出て行った。

「すぐに準備ができるそうです。着替えてから商会に向かいましょう」

戻って来た侍女に確認したオリビアは、そう言ってマーガレットを自室まで促した。


屋敷を出て馬車に揺られ、マーガレット達はフォレタグ商会に着いた。

窓から馬車の家紋が見えたのだろう。商会長のフォレスターが出てきてマーガレット達を迎えた。

「マーガレット様。ようこそおいでくださいました」


フォレタグ商会はクラレンス王国の一、二を争うほどの大きな商会で、フォレスターはケナード領出身の商人だった。

世話になったからと、領地を離れた今でもケナード家を懇意にしている。

「突然ごめんなさいね。私の結婚の報告と、刺繍糸を買いに来たの」

マーガレットが申し訳なさそうにフォレスターに挨拶すると、フォレスターは気持ちの良い笑顔で答えた。

「ご結婚おめでとうございます。あんなに小さかったマーガレット様がそんなお年になられて…本当におめでたい事でございます。マーガレット様でしたら大歓迎ですので、気にせずにいつでもお越しください。よりすぐりの刺繍糸をお出ししましょう。さ、こちらにどうぞ」

フォレスターがそう言って、店内の個室にマーガレット達を案内した。


「どれも良い品ね!流石だわ!そうね…今日はこれとこれの二つを頂こうかしら…?」

数ある中から二つ選んだマーガレットに、フォレスターが感心した様に言った。

「やはりマーガレット様の目は侮れないですね。この二つは隣国シルベスタから最近取り寄せたばかりの、とても上質な糸でございます。ところで…もしお時間があればマーガレット様に見ていただきたいものがあるのですが…」

遠慮がちに聞くフォレスターに、マーガレットは笑顔で答えた。

「いつものかしら?勿論よ」


マーガレットの目利きに大きな信頼を寄せるフォレスターは、仕入れに迷った時に必ずと言っていいほどにマーガレットに見てもらい商品を選んでいた。マーガレットが選んだ商品は驚くほどによく売れたからだった。


「こちらの宝石なんですが…」

そう言って、フォレスターはテーブルに三つの宝石を並べた。

並べられた宝石はどれもブルーサファイアだった。

どれも同じくらいの大きさではあるが、色や輝きが異なっていた。素人から見ればどれも同じに見えた事だろう。


マーガレットは並べられた宝石を見て、そして宝石の少し上の方へ視線を動かした。

暫くキョロキョロと視線を動かしてから、一番右にある宝石を選んだ。

「これが良いと思うわ!」

「これは先程の刺繍糸と同じ、シルベスタ帝国のサファイアですね…何故とお聞きしても?」

「なんとなく、かしら…?この宝石が一番キラキラして見えたの。こんな理由でも大丈夫かしら…?」

マーガレットはなんと説明すれば良いのかわからず、曖昧な答えを伝えた。

「いえ、無粋な真似をしました…マーガレット様を信頼しておりますので、この宝石に決めようと思います」

そう言って、フォレスターは他の宝石をしまったのだった。


「いつもありがとうございます。マーガレット様のお目利きにはいつも助けて頂いてます。またいつでもお越しください」

そう言って頭を下げるフォレスターに見送られ、マーガレットは馬車に乗り込みテイラー家の屋敷まで戻ったのだった。


馬車の中で、マーガレットは考えていた。

(私の目利きが良いわけじゃないのよね…私には見えるからそれを選んだだけだ…と言っても、フォレスターさんは信じないでしょうね。それにしても、糸も宝石もシルベスタ帝国のものだったのね。一体どの様な国なのかしら…?)

自嘲しながらマーガレットは目を閉じて、屋敷に着くまで少し休んでいたのだった。
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