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番外編:ジェラルド視点

1.近衛騎士は見た

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 王太子シルヴィオが侯爵令嬢のリリアーナと婚約した。
 これはもう、紛れもない慶事である。国中がその祝いに沸いていた。

 さて、しかし残念ながらまだ一点看過できない事態が残っている。
 金と銀の冷戦である。分かりやすく言うと、兄妹げんかだ。

 色々あって、王女ロジータは兄であるシルヴィオとここ最近一切口を利かない。朝食を取る時に顔を合わせても、夜会に同席しても、そうである。なんだか知らないが、拗れに拗れているらしい。父王は早々に仲裁の匙を投げたという話だ。

 王宮に仕える皆々は動向をつぶさに見守っていたが、どうにも進展がない。“王宮の赤い薔薇”と呼ばれるロジータは常にむくれた顔でシルヴィオを睨んでいる。対する彼は平然と氷の名をほしいままに涼しい顔をしている。

 仲が悪いわけではないんだけどなぁ。
 ジェラルドも例に洩れずそんなことを思っていた。

 一応これでもやんわりと進言したこともあるのだが、

「ねえ、ジェラルド。わたくしは何か謝らないといけないようなことをしたのかしら?」

と彼女にしてはやや神妙な顔をしてそう呟いた。ロジータはロジータとして正しいことをしていると思うし、それを咎めてしまえばジェラルドがこよなく愛する彼女の良さが消える。ロジータはロジータらしくあってほしい。
 ジェラルドは何の返答も出来ずに押し黙った。

 ということで、目下冷戦は終わる気配が全くない。
 薔薇の花の陰る王宮はどこか寂しさに満ちていた。

「チェリーパイを焼いたんです。ロジータ様も一緒に食べませんか?」

 リリアーナがロジータを誘ってきたのは、そんなある日のことだった。何を隠そうロジータは甘いものに目がない。義理の姉妹となる二人の間に果たしてどれだけの面識があるのか内心ジェラルドは不安だったのだが、ロジータは二つ返事で頷いていた。

 リリアーナは、

「わたし、家に引きこもっていた期間が長くて。特にすることがないのでこういうことばかりしていたんですよね」

とパイを運んでくる。ふわりと広がるバターと果物の甘い香り。これは確かに美味しそうだ。

「はい、どうぞ」
 慣れた手つきで切り分けたそれを、リリアーナがシルヴィオとロジータの皿に入れる。一口頬張ると、ロジータの青い瞳が輝いた。

「お義姉ねえ様は天才なの……?」
「そんなに褒めて頂けるなんて光栄です」

 はむはむとパイを食べるロジータにリリアーナはにこりと微笑みかける。その隣で、シルヴィオも美しい所作でパイを食べていた。

 この人がお菓子を食べているところなんて初めて見た。
 絵にはなるが、なんだか不思議な気分である。
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