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第一部:私だけの物語
28.本気の彼
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屋敷ではクリスも坊ちゃんなのか。何も間違ってはいないのだけれど、なんだか可愛らしくて私はこっそり笑ってしまった。
「ちょうどいいわ。通してちょうだい」
扉が開けば、眩いばかりの正装に身を包んだ長身がいる。うっかり見惚れてしまいそうになって、私は目を逸らした。
長めの前髪もきちんと整えられていて、青い目が静かに私を捉える。なんだかひどく大人びて見える。これは多分、坊ちゃんどころではない。
クリスは諦めたように一つ大きな溜息を吐いた。
「……どうするんですか、母上。これじゃあ大変なことになりますよ」
どこからどう聞いても不機嫌そうな声が、エステル様をぴしゃりと非難する。
「そうよね……わたしも少し頑張り過ぎちゃったかしら」
「本当ですよ」
「攫われたらどうしましょう」
「そんなこと、おれに言わないでください」
「あの……そんなに似合っていませんか?」
恐る恐る口を挟めば、よく似た銀髪が二人ともはっとした。
「そうじゃないのよ」「そんなわけないだろ」
違うらしい。だったら一体何の話をしているのだろう。
「キャロライン、もうちょっと近寄り難そうな顔をして」
クリスがなんだか変なことを言い始めた。そんなことを言われても、近寄り難そうな顔って、
「どんな顔?」
「もういい。あんたに言ったおれがばかだった……」
クリスは額に手を当ててやれやれと頭を振る。呆れられていることは分かる。けれど、はらりと一房だけ流れた銀髪が妙に色っぽい。
「いい? 何があってもおれのそばから離れないで」
鋭くなった青い目が、食い入るように私を睨みつけてくる。その凄絶さに怯んでしまいそうになる。
「う、うん」
「そういう薄らぼんやりしたところが良くないって言ってるの。返事ははっきり」
「はい」
返事をしてしまってから気づく。
「待って、クリスも一緒に行くの?」
つまり、それはこの幼馴染が私のエスコートをしてくれるということである。
「なに、おれじゃあ不満なの?」
そういうわけでは、ないけれど。
本来ならば、婚約者のいない子女のエスコートは兄や従弟などの身近な男性が務めるのが通例だ。しかしながら、今の私にそれに適した相手がいないのは事実である。
本屋の前で起こった出来事が蘇る。
いや、きっとその比ではないだろう。今のクリスは、なんというか本気だ。これなら、白銀の貴公子と呼ばれているのも頷ける。
そんな彼の隣にいるのは、少し、いやかなり気が引ける。
「だったらおれでもいいだろ」
反論する間もなく手を取られた。
「いってらっしゃい」
見送るようにエステル様がひらひらと手を振っている。
「あ、はい、いってきます」
そうして、私はクリスと夜会に繰り出すことになったのだ。
「ちょうどいいわ。通してちょうだい」
扉が開けば、眩いばかりの正装に身を包んだ長身がいる。うっかり見惚れてしまいそうになって、私は目を逸らした。
長めの前髪もきちんと整えられていて、青い目が静かに私を捉える。なんだかひどく大人びて見える。これは多分、坊ちゃんどころではない。
クリスは諦めたように一つ大きな溜息を吐いた。
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「本当ですよ」
「攫われたらどうしましょう」
「そんなこと、おれに言わないでください」
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恐る恐る口を挟めば、よく似た銀髪が二人ともはっとした。
「そうじゃないのよ」「そんなわけないだろ」
違うらしい。だったら一体何の話をしているのだろう。
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「どんな顔?」
「もういい。あんたに言ったおれがばかだった……」
クリスは額に手を当ててやれやれと頭を振る。呆れられていることは分かる。けれど、はらりと一房だけ流れた銀髪が妙に色っぽい。
「いい? 何があってもおれのそばから離れないで」
鋭くなった青い目が、食い入るように私を睨みつけてくる。その凄絶さに怯んでしまいそうになる。
「う、うん」
「そういう薄らぼんやりしたところが良くないって言ってるの。返事ははっきり」
「はい」
返事をしてしまってから気づく。
「待って、クリスも一緒に行くの?」
つまり、それはこの幼馴染が私のエスコートをしてくれるということである。
「なに、おれじゃあ不満なの?」
そういうわけでは、ないけれど。
本来ならば、婚約者のいない子女のエスコートは兄や従弟などの身近な男性が務めるのが通例だ。しかしながら、今の私にそれに適した相手がいないのは事実である。
本屋の前で起こった出来事が蘇る。
いや、きっとその比ではないだろう。今のクリスは、なんというか本気だ。これなら、白銀の貴公子と呼ばれているのも頷ける。
そんな彼の隣にいるのは、少し、いやかなり気が引ける。
「だったらおれでもいいだろ」
反論する間もなく手を取られた。
「いってらっしゃい」
見送るようにエステル様がひらひらと手を振っている。
「あ、はい、いってきます」
そうして、私はクリスと夜会に繰り出すことになったのだ。
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