大好きな許嫁の弟と結婚することになりました

藤原ライラ

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十二、誰の声

 入浴を終えて用意されていたのは、あの花柄のワンピースだった。

 初夜に着るものとしては、相応しいとは到底思えない。けれど、これ以外に身に纏えるものがなかった。裸でいるわけにもいかず、仕方なく彩恵はワンピースを着た。

 ぺたりぺたりと、裸足の足音がなる。屋敷の一番奥、元は自分の部屋だったところだ。ここで、夫を待つ。

 薄闇に眼が慣れてしまえば、心細さが先に来る。

 彩恵は、本来夫に捧げるべきものを、もう捧げてしまった。この身には何もない。あの時隣の部屋にいた彼が、それを知らないわけがない。

 切れ長の目は彩恵をどんなふうに糾弾するだろう。阿婆擦れと罵るだろうか、それとも。
 きちんと説明しなければならない。互いに望んだ婚姻ではなくても、これからは夫婦となるのだから。

 そう思って立ち上がったところで、名が呼ばれた。

「彩恵」

 その声が一瞬誰のものか、分からなかった。
 この場に尊がいるはずがないのに。それぐらい、よく似ていた。

「どこに、行くんですか」
 ぐっと手首を掴んで引き寄せられる。胸の前で腕が交差して、檻のように閉じ込められた。

「そんなに僕のことが、いやですか」
「そうでは、なくて」

 首筋に、さらりとした黒髪が触れて、項に吐息が落ちる。

「あなたに言わないといけないことが、っあ」

 噛みつくように首筋に口づけられた。そのまま強く吸い上げられる。きっと首元には痕が残っているだろう。

 痛みとそれだけではない何かに体が跳ねる。身を捩っても力強い腕は彩恵を解放してはくれなかった。

「あなたは今日、僕に抱かれるんですよ」

 ホックを外してファスナーが下ろされる。あの人の為に選んだ服を、他の男に脱がされるのだ。

 これは、誰に対してもひどい。
 彩恵にとっても、翔にとっても。

「あなたはそれでっ、いいんですか」

 すとんと、ワンピースを落とされて背骨をなぞられる。場違いに可憐なそれは、畳の上で異様な存在感を放っていた。

「いい? 何が。ああ、この服のことですか」

 大きな手が白い胸を鷲掴みにする。ぴんと、凝った頂きを長い指がぎゅっと摘まむ。すらりとした、この指。傘の柄を撫でていた、翔の指。

「いいなって、ずっと思ってましたよ。脱がしやすそうだから」

 くっと、後ろで笑う気配がした。こんな笑い方をする男を、彩恵は知らない。
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