うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華

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第2章 学園入学編

第22話 鈴木さん

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「鈴木さん。僕が盗賊から解放したサラリーマン風の人ですね」

 鈴木さんは俺が王都に移動した際に壊滅させた盗賊団に捕らえられていた転移者だ。

 詳しい話は聞けなかったが、レジェンドスキルも持っていたし、7人の内の1人と考えてまず間違いないと思う。

「ええ、リョーマにその話を聞いてから私も色々と動いていたの。
 それに、この前聞いた話からすると将来ポチちゃんを助けるためにも、ダンジョンの封印は解く必要がありそうでしょう?」

 俺はリーナさんが配下となった後、俺の転生について全てを話した。ポチの散歩中に死んでしまった事、ポチを追って転生してきた事。そしてポチは恐らく封印されたダンジョンに居る事。ミルクのパートナーとして配下となった今なら裏切られる心配もなく、信頼できる人となったからだ。

「ダンジョンの封印は7人そろわないと解けないからね。近場に居てもらった方が何かと良いと思って動いていたの。
 だけど、残念ながら初動で出遅れてしまって・・・、あのスキルの有用性を軍部に知られてしまったわ」

 そこまで話を聞いた所で、リーナさんがミルクが食べているケーキを羨ましそうに見ていることに気付いたので、さり気無くケーキのお代わりをリーナさんの皿にのせながら続きを促す。

 ちなみに、ミルクは黙々とケーキを食べている。

「お代わり、ありがとう。
 ただの盗賊の被害者と言う扱いだったら、何とかして私の屋敷に執事枠か何かで引っ張ろうと思っていたんだけど・・・。
 スキルの有用性が知られてしまった今となってはちょっと難しいわ」

 さらっと私の屋敷とか言ってるけど、良く考えたらリーナさん王女様だった。配下扱いにしちゃったけど良かったんだろうか・・・。

「リーナさんの実家の権力でもダメなんですか?」

「ああ・・・リョーマにはまだ話して無かったわね。
 ・・・私、妾の子なの。一応、お父様が認知してくれたから扱いは王女になっているし、屋敷も与えられてはいるんだけど、権力はほぼゼロ・・・。お金だけは冒険者として稼いでいるから、少しは持ってるけど・・・。ごめんなさい」

 さっきケーキで上がったテンションが一気に下がってシュンとしてしまった。若干泣きそうな顔になっている。妾の子と言う事で、王族内での扱いもひどかったりするんだろうか・・・。

 何かフォローしないと・・・。と言っても、俺もそんな人生経験がある訳ではないので、こんな時に何て言って良いのか分からない。

「え、いえ、すみません。僕の方こそ、気付かずにプライベートな事に踏み込んでしまって・・・」

「いや、いいのよ。私はもうリョーマの配下なんだから!
 むしろもっと早く伝えるべきだったと思うわ。けど、言い出すタイミングもなくてね・・・」

 それは中々自分の口からは言えないよね・・・。暫しの間、沈黙が流れる。

「リョーマ! ミルクは幸せ過ぎて死にそうなの! もっと食べるの!」

 空気を読んだのか、読めないのかこのタイミングでそう言いながら、お代わりのケーキに顔からダイブするミルク。窒息死しちゃうよ! ・・・でも助かった。

「ちょっとミルク! 本当に死んじゃうよ。ほら、こんなにクリームだらけになって・・・」

 俺はミルクを引っ張り出すと『クリーン』の魔法でミルクをキレイにする。

「あふぅ。ありがとうなの」

「ふふっ。このケーキ本当に美味しいからね!」

 このくだらないやり取りで、何とかリーナさんも持ち直してくれた。

 ミルクには感謝だな。狙ってやってくれたのか、素でやったのかはフィフティー・フィフティーだけど。

「それで、鈴木さんなんだけど・・・」

 リーナさんは真顔に戻ってそこまで言うと、紅茶を一口のんでからまた続ける。

「便利なスキルを持っているし、身元も不明。
 軍の裏では便利な道具として使う方向で動いているようなの。暗部って奴ね。
 今は監禁されているわ。盗賊の時より扱いは良いと思うけど、自由がないと言う意味では何も変わっていないわね」

「そんな! 人権とかないんですか!?」

 俺は思わず立ち上がり、叫ぶ。この部屋が防音で良かった。

 しかし、最近【マップ】で確認してもずっと同じ場所から動かないと思ったら、そう言う事だったのか。

「リョーマもこの世界に生まれ、育ったなら知ってると思うけど、前の世界・・・日本と同じだとは思わない方がいいわ。特に身元が不明の人なんて、人権は有って無いようなものなの。
 もちろん、表向きは正式に雇った兵士として扱われると思うわ。でも、実態は本人の意思とは関係ない。必要な時に必要な場所に派遣されるただの駒でしょうね」

「なるほど、僕の周辺は今まで比較的平和だったので、つい忘れそうになりますけど、貴族とか権力者ってそんなモノですよね・・・。
 平民や平民以下の人達の意思なんて関係ないんですね」

「まあ、そんなところね。だから私も王族も貴族も嫌いよ。みんな自分の事しか考えてないの。国の行く末を考えて政治をしている人なんているのかしら?
 この国は神殿が政治の片翼を担ってくれているお陰で、何とか保っているんだと思うわ」

 まだ俺もこの王国の歴史にそんな詳しいわけではないけど、結構長く続く王国との事でそこそこの良政が行われているんだなと薄っすらと思っていた。

 だけど実状はちょっと違うのかも知れない。

 前にも少し触れたように、この国の主要都市は領主の館と神殿がセットで建っている事が多い。それは王侯貴族と神殿が両輪として政治を行っている為だ。神殿は【神託】により女神の言葉を伝え、王侯貴族はそれを形にする。そんな感じなんだろうか?

「僕の知ってる小説とかでは、基本的に宗教が悪だったりするんですけどね」

「あはは。そうね、普通はそういう認識よね。でもそこはリョーマの方がよく知ってるでしょ? 神殿が悪に見える?」

 まあ、俺の父は大神官だし・・・母は元神殿騎士だからね。そもそも本当に女神様と交信とかできるのに悪いことはできないよね。

「思いませんね。巫女様も含めて、本当に人々の事を考えて動いてるように思います」

「そう。だからこの国は何とかなってるんだと思うわ。
 ・・・って話がそれちゃったわね。ごめんなさい。今は国の話より、鈴木さんね」

 いや、逸らしてしまったのは俺のような気もするけど。

「このままだと鈴木さんは便利な道具としてボロ雑巾のように使いつぶされ、使えなくなったら捨てられるだけじゃないかと思うの。
 だからね・・・」

 リーナさんはそこで一呼吸置くと、

「攫ってしまおうと思います!」

 満面の笑みでそんな事を言うのだった。
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