NPCのストーカーの件について

草薙翼

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重い愛

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「浮気は許さない、相手は誰だ」

「…そんな事言われて言うわけなっ…」

ゼロは不機嫌そうにムッとした顔をしていた。
何故そんな顔をするんだろう、事実だろうに…

…しばらく考えて、ハッと思いついた顔をする。
今までの行動からしてゼロの事だ、嫌な予感しかしない。

「まさか、記憶喪失か!?」

「なんでそうなるんだよ…」

予想外のゼロの妄想に呆れてため息が零れた。

はぁ…早く帰りたいと思いながら今現在、俺は椅子に座っている。
手に持つのは高そうなティーカップ。
…なんで俺、落ち着いてお茶とか楽しんでるわけ?

仕方ない、影がドアをがっちり固めているし…俺の猫耳フードはいつの間にか脱がされていた。
さっきまで気付かなかったなんて…よっぽどゼロが強烈だったんだな…うんうん。

ゼロはテーブルに乗った籠の中のクッキーを食べる俺をジッと眺めていた。
そんなに見られると怪しいんだけど…え、変なもの入れてないよね。

「…なにか?」

「いや、小さな口を一生懸命開けて俺のを咥えてるのを見ると…な」

「嫌な言い方しないで下さい」

俺のってなんだよ!俺のって!ちゃんと最後まで『俺の作ったクッキー』て言えよ!
自分で言っといてなんかそれもやだな、食べるのを止めた。
紅茶もどうせ俺の淹れた紅茶とか言わないで『俺のを飲んで』とかヤバイ発言しそうだからティーカップを置いた。

俺がもう飲まないのを確認して影が素早くティーカップを回収した。
…なんだあの瞬発力、ミュミュより早い…変態だしろくなのに使わないんじゃ…

まさかあのティーカップ、変な事に使わないよな…と顔を青くする。

「じゃあこれからどうしようか」

ティーカップを持っていった影を目で追いかけていたらゼロが話しかけてきた。
…これからどうする?帰るに決まってんだろ。
そんなキラキラ期待に満ちた顔されてもお前の要望は無理だからな!

これ以上ここにいたら危険だと俺の本能がそう言っている。
どうするか選択肢を与えてくれるなら帰らしてもらえないだろうか。

俺は呟くようにだが、はっきりとゼロに分かるように口にした。

「帰りたい」

「大丈夫、10分もあれば帰りたいなんて思わないから」

おい、その10分で何する気だ?怖いんだけど…
ゼロが俺の腕を掴みぐいぐいとベッドの近くに引きづられそうになるから踏ん張る。

ベッドだけは行ってはならぬ!馬鹿な俺にも分かる、絶対にだ!

ジリジリと近付いてくるゼロから暴れるようにして逃げる…くそっ、さすが最強の男…強い力だ。

しかし俺も己の身を守るために超必死で、狭い部屋の中で追いかけっこを繰り返す。
ゼロはほとんど動いていないのに、なんで離れないんだ!?

ゼロに手をがっしりと掴まれて、負けじと押し返す。
しばらく攻防戦が繰り広げられて、ドアをノックする音と共に終了した。

「おーいゼロー、いるかぁ?」

ドアの向こうから元気がいい明るい声がする。
ゼロの舌打ちが聞こえいきなり力を緩めたからその場で転けた。

なにか大事な話なのか嫌々ドアに近付き、ドアをガードしていた影がゼロの影に戻っていく。
ゼロは俺の方を見ていない、背中だけが見える。

あれ?これ、逃げる最後のチャンスじゃねぇか?

ガチャとドアを開けると金髪短髪の人懐っこい笑みを浮かべた男が立っていた。
えっと確かコイツ見た事あるな、あまり目立たないから名前は忘れたが結婚出来ない普通のNPCだったような…

ゼロと同じ騎士なのか騎士の服に身を包みゼロと会話している。
話の内容からして今度の騎士団の仕事の打ち合わせみたいだ。

すぐに終わりそうもない様子で、ゼロは聞いているのかいないのか相槌も打たずに無言だった。

あの騎士が足止めしてくれるなら、逃げ出す時間がある筈だ。
次に会う時までに好感度下げる薬を見つければ……ふふふっと笑う。
人懐っこい男は部屋の床に座り怪しい笑みを浮かべた俺を見つけたみたいで首を傾げた。

バレないように後ずさっていた足を止める。

「ねぇあれは?」

「俺の恋人、もうすぐ妻になる」

「へー」

平然と嘘をつくゼロに心の中でツッコミを入れる、いやならねぇよ!?
そしてなんで当たり前のように人懐っこい男は受け入れているんだよ。

この世界は男同士でも珍しくないのか?
そんな話ゲームにはなかった筈だし、男のNPCとは結婚出来なかった筈だけど……俺のゲーム画面は変だったけど…

とりあえず「何言ってんだ、コイツは」という顔をしながらゼロを見つめると手をヒラヒラと振っていたからプイッと顔を逸らす。
人懐っこい男は俺に全く興味ないからかすぐに話題を変えた。

俺の方を見た時はヤバいと思ったが、まだ逃げ出すチャンスはありそうだ。

…あれ?そういえばドアばかり気にしていたが、この部屋…窓があるじゃないか。
しかも普通に開く内側の鍵だ、なんで今まで気付かなかったのか。

ゼロがこちらを見ていないかチラチラと確認しながら窓ににじり寄る。
人懐っこい男は楽しそうに笑っているが、ゼロは全く楽しそうではなく変な感じがした。

俺はそっと窓を開けて、最後にゼロ達の方を見て飛び降りた。

「俺達騎士団に挑戦しようとしている冒険者達が待ってるからゼロも早く行こうぜ」

「行かない」

「えっ、何でだよ…城の中にいるのは退屈だっていつも言ってたじゃねーか」

「それはツカサに会う前だ、今のツカサを一人にしておくのは危険だ…変な奴にフラフラ付いて行こうとしているから俺が守らなくては」

「……ツカサってさっきのお前の恋人?」

「だったらなんだ」

「さっき窓から飛び降りたぞ」

「!?」

ゼロは振り返り、開いた窓と風に揺れるカーテンが見えた。
ゼロの部屋は三階で落ちたら無事じゃ済まされないだろう。
ゼロは急いで窓を覗き込むと、下には緑の庭と花壇だけでまっすぐ見ると遥か向こうに人影のようなのが浮いてるのが見えた。

はぁと短くため息を吐いて、窓の向こう側を見つめていた。
ゼロの足元の影は感情に動かされてうようよと蠢いていた。

遅れてのんびりとやってきた人懐っこい男は窓を覗き込んでいた。

「行っちゃったね」

「見てないとすぐに何処かに行ってしまう、俺の気持ち分かったか」

人懐っこい男は何も答えないが、やれやれといった顔をする。
長い付き合いだが、ゼロのこんな幸せそうな顔は初めて見たと珍しいものを見るような目で見ていた。

忘れ物の猫耳フードとブーツを隠していた箱の中から取り出し鼻に押し付ける。
ほんのり甘いにおいがするのは何故だろうと微笑む。
このにおいを嗅ぐと不思議ととても落ち着く。

しかも落ち着くだけではなく、別の部分も元気になるから困り者だ。

でも、やはり布ではなく本物がいい。
やっと手に入れる事が出来たんだ、この手で触れた感触は決して忘れない。

「…絶対に逃がさないから」

こうなったゼロは誰にも止められない、大変な奴に一目惚れされたなぁーと他人事のように思っていた人懐っこい男だった。
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