NPCのストーカーの件について

草薙翼

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目が覚めたらMMORPG

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ー…かさ、つかさ…ー

ゆらゆらと揺れる夢の中から俺を呼ぶ声が聞こえる。
まだ眠いから煩わしく感じて耳を両手で塞ぎ相手が諦めるまで待つ。
まだ冬休みなのにまた母さん学校に行く時間とか勘違いしてんのか?

ゆさゆさと身体を揺すられて意地でも起きたくなくてギュッと目蓋を閉じた。
いつもは声を一度掛けるだけで母さんが諦めていた。

でも今回はしつこく揺すられていて、俺を起こそうとしている。

やがて振動が消えて、やっと安らかに寝れると安心して再び眠りの世界に旅立とうとしていた。

「起きんか馬鹿者が!」

「ぐえっ!!」

腹に衝撃が走り、あまりの痛さに涙目になりながらむせる。
母さん腹を殴るとかいくらなんでも何考えてんだよ…
抗議のためにキッと声をした方向を睨むが、すぐに変だと気付いた。

俺の目の前には、初老の老人が立っていた。

……あれ?母さん、いつの間に年寄りになった?

まぁそんな事はあり得ないから知らない老人だろう…そもそもお爺ちゃんだし…性別からして違うし…

お客さんを母さんが部屋に入れたのか?…もう、俺にもプライベートがあるんだぞ。
髪がボサボサで、手で雑にとかしながら起き上がる。

「あのー、どっかの遠い親戚の方ですか?勝手に部屋に入られるのは困るのですが…」

「全く師匠の顔を忘れるとは馬鹿弟子を持ってワシは悲しいぞ」

「痛っ!痛っ!」

ちょっ、手に持った木の杖で人の頭叩かないでよ!
頭がぐわんぐわん揺れてちょっと気持ち悪くなる。
凄く暴力的な人だな、初対面の筈なんだけど。

それに師匠とか弟子とかいったい何の話をしてるんだ?
俺が師匠と呼ぶ人は正直誰もいないけどな。

そこでまじまじと師匠と名乗る老人を眺めた。
銀の刺繍がキラキラ光る黒いローブに胸まで長い髭は三つ編みにしていて、白髪で厳しげな赤い瞳。
ちょっと猫背なお爺ちゃんを俺は見た事があった。

それはシャドウナイトの師匠キャラクターだった。
でもそれは、ゲームの俺のプレイヤーキャラクターの師匠だ。

いや、そんな馬鹿な…コスプレ?それともゲームばかりしていたから幻覚?

シャドウナイト内で職業を決める時に同時に付いてきてクエストなんかを出してくれるオスカー師匠が目の前にいた。
…それにしてもクオリティ高いな、この髭とか本物そっくり。

生でコスプレを見た事がなくて、興奮した。

こんな長い髭の奴、海外のびっくり人間でしか見た事ないからつけ髭だと思いグイグイと髭を引っ張ってみる。

「外で熟睡なんてするから脳みそまでカチコチに凍っちまったのかのぅ」

「ぎゃー!!ごめんなさい助けて師匠!!」

師匠はやれやれといった顔をしていたが、怒りが滲み出ていた。

突然師匠の足元に黒い水溜りが出来て、黒い魔法陣が現れる。
これは同じグリモワールだから分かる、使い魔召喚の魔法陣だ。
グリモワールの使い魔は全て呪われていて主に呪で攻撃をする。

師匠の後ろに揺れる大きな影が突然現れた。
師匠の使い魔は大鎌を持った巨大な骸骨の死神だ、勝てるわけねぇ!!
いくら見た目のクオリティが高くてもコスプレでこんな事出来ない。

周りを見てもプロジェクターなんて何処にもない。

そんな、まさか漫画の世界じゃあるまいし…じゃあここは本当に…?

「そうか、これは夢か!…いてっ」

コツンと師匠の杖が飛んできて頭に直撃した。
体が傾き、そのまま後ろに倒れて天井を見つめる。
…痛い夢ってあるのか?現実の俺が頭を打ったとか?

この場所は王都を出てすぐの草原だった。
初期モンスターが群れているが、ある程度レベルが高ければ襲われないからよく此処で寝落ちするプレイヤーが多い。
俺も確か、ここで寝落ちをしたんだった。

此処で寝たからここからスタートしているのか…しかし、いくらシャドウナイトが好きでもまさか夢に見る日が来るとは思わなかった。
周りを見渡すと、かなりクオリティが高い夢だというのが分かる。
同じ夢を見る可能性は低いし、この際存分に満喫するか!
昨日雨が降っていたのか、地面の窪みに水が溜まっていた。

水を覗き込み映し出されたのはやはり俺のアバターの容姿だった。

黒いローブの上に三角の出っ張りが二個付いている。
これは服装ガチャで当てた男女兼用の猫耳ローブだ。
男が着ても可愛くないが、SSRだったからつい着ている…ちなみに俺に猫耳が生えたわけではない。

そして茶髪に何処でもいるような普通の平凡容姿…あれ?確か俺のアバターの顔カッコ良くしたんだけど、リアルの俺の顔じゃねーか。
…夢だからなのか?ちょっとテンション下がった。

どうせならカッコいいムキムキな俺でいたかった、ゆめなんだからさ。

落ち着け俺、もしかしたらレイチェルちゃんと恋仲になれるかもしれない!夢だし、好きにしていいよね!
ここはシャドウナイトの世界だ、当然レイチェルちゃんがいる筈だ。
高鳴る気分で王都に戻ろうとしたら首根っこ掴まれた。
後ろを振り返って、不満そうに唇を尖らした。

「何ですか師匠、俺…恋に忙しいんですけど」

「何を言っておる、まだ今日のクエストが終わっとらんだろうが!」

「は…?いや、あれ任意じゃん!俺あんまりやってないし…」

「お前を立派なグリモワールに育てると王様に誓ったのに毎回毎回クエストをサボり、酒場に入り浸り…ワシは悲しいぞ」

ぐっ…いつもの日課とはいえ、そう言われたら何にも言えません。
夢の世界なら面倒なクエストを一気に飛ばしてレイチェルちゃんの恋愛イベントまで行かないかな?

恐る恐る振り返り、俺は顔を青ざめて一歩後退った。
俺の背後にまだ一体ゴーストが残っていたみたいで気付かなかった。
そしてそのゴーストを仕留めたのは、ドス黒い家を掴めるほどの巨大な真っ黒い手だった。

ゴーストがジタバタ暴れて逃れようとするが、手が包み込むように握り潰した。

天にのぼる魂をボーッと見ながらミュミュが到着した。
…そっか、ミュミュはゴーストと手を知らせようと駆け付けてきたのか。

しかし、こんな手の呪文なんてあったか?俺が召喚したわけではなさそうだ。
使い魔にもいないはず…新しいモンスターでも現れたのか?
この森にいるモンスターは全て知っている気になっていたから驚いた。

それに、ビリビリ肌が痛いのを感じるほど…強い力を感じる…これ、死亡フラグじゃないよな?
ゲームだと死ぬと自宅のベッドに戻る、これも夢だし…平気、だよな?

足が動かないのは怖くてだと思っていたが、足元を見ると手から伸びる無数の影が足に絡まり動きを止めていた。
まるでホラーゲームのような展開に足を動かしてもがく。

グリモワールなんて職業にしてるけど、ガチのホラーは苦手なんだって!

「た、助けっ…誰か」

こんな時に限って誰もトレーニング場にいない。
さっきゴーストを倒した手がフラッシュバックする。
涙目の俺はただ手が迫ってきているのを見るしかなかった。
死んでも家に帰るだけだと知っていても、怖い。

やがて視界も全て闇に包まれて、真っ暗な空間に放り出された。

…あ、冷たいと何となく思ってたけど意外と暖かい。

何もない空間だし、する事といったら寝る事しかない。
寝心地が良くてすやすやと夢の中に旅立った。
きっと起きたら現実に戻っているだろうが、早くレイチェルちゃんに会いに行かなきゃ…

影……なんか忘れてるような気がするが、まぁいいか。
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