ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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 ――毎週金曜日。
 入学してから必ずグレイルは、図書館を訪れている。そして窓際のある席で、頬杖を突きながら、いつも適当な本を開いている。自習をすることもあれば、読書に励む事もある。

 なお、その席には、グレイルが入学するまで、約二年、たったの一人も座らなかった。理由は簡単である。その正面の席に、必ず図書委員長が陣取るからだ。書籍貸し出し窓口から一番近いそのテーブル席に、毎週金曜日の一定の時間、リリア・クリソコーラが座る事を知らない者の方が、実に少ない。

 だからある日を境に、グレイルが必ずその正面に座るようになってから、非常に目立ち、即座に噂になった。しかし、独立派と呼ばれるリリアの耳には、誰も噂を入れない。

 チラ、チラ、とグレイルはリリアを見ている。早めの二次性徴を迎えたグレイルは、既に背丈が、細身で長身のリリアよりも高い。学内でも目立っているが――リリアの視界に入っていない事には、誰よりもグレイル自身が良く気づいていた。

 話しかけようと試みるのだが、きっかけがない。リリアは、本から全く顔をあげない。避けられているのかとも思ったが、リリアは本気でグレイルに気づいていない様子なのだ。というのは、ある日、父の補佐としての仕事を手伝っていたグレイルがうっかり腕を組んだまま、瞬きにしては長い間目を閉じていたところ、視線を感じて薄っすらと瞼を開けたら、目が合って、非常に動揺した顔をされた後、言われたからである。

「――ご無沙汰しております。三年ぶりですね」

 ……それは、座り始めて既に一年は経過していた時の事であったから、ああ、気づかれていなかったのだなと、すぐに分かった。また、グレイルの出自である、エルディアス侯爵家ではなく、母方の祖父宅のバイネルネ伯爵家には、『人の嘘を見抜く血脈魔術』が代々伝わっている。そのため、嘘ではないともすぐに判断できた。なお、グレイルが調べた限り、クリソコーラ侯爵家の血脈魔術は、氷魔術だった。もっとも、リリアは戦うようには見えないし、どこからどう見ても深窓のご令嬢としかいえない見た目なのだが。

「お見知りおき頂き光栄です、リリア嬢」
「いえ……――グレイル卿」

 己の名前が可憐な唇から紡ぎ出された瞬間、グレイルは嬉しさでガッツポーズしそうになったがこらえた。余裕ある笑みを取り繕い、にこやかに会話を続けようとし――たが、無情にも、下校を告げる鐘がなった。

「貸出手続きは、あちらのカウンターで行っております」

 無表情でリリアはそう述べると立ち上がり、カウンターの方へと言ってしまった。
 それを見送り言葉を探していると、グレイルの真後ろに、通路を挟んで知らん顔で座っていたエドワードが振り返った。

「本、借りて来いよ」
「なんのだ?」
「――『あなたが好きです』。ほら、用意しておいた。この絵本だ」
「……行ってくる」

 こうして大人向けの絵本を手に、グレイルはカウンターに向かった。しかし事務的に処理したリリアには、何か言われる事もなかった。

 その後、エドワードと共に図書館から出たグレイルが、大きくため息をついた。

「早く婚約したい」
「見合いの話は打診していないのか?」
「保護者変わりだという遠縁の近衛騎士団長宅に、根回しを父に頼んだ。しかし、珍しく父が『自分で努力してからにしろ、後悔が無いように』などという、不効率極まりない事を言ってきたんだ。そこまで言われたら無論――実力で貰いに行く」
「へぇ。がんばれよ」

 二人はそんなやり取りをしながら、下校したのだった。


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