4 / 42
【三】図書館に関して
しおりを挟む「はぁ……」
私は十五歳になった。葬儀後、なんだかんだで気が付いたら、あっという間に月日が経過していた。月に一度は王立学園中等部に、セレフィローズ様が通学なさるので、私もその日だけは、学園に通学している。
基本的に貴族の子女は、家庭教師に色々習うので、簡単な社交を学ぶ場と言える。あとは、人脈造りだったりするのだろう。私はつかず離れずを徹底されてきていて、それは父が亡き今も、近衛騎士団零部隊の隊長により命じられているので、表向きは別段、第一王女殿下派という素振りではない。
だが、この通学開始に伴い、これまで地方領地で暮らしていたご令嬢達も王都の邸宅で暮らし始めたため、顔を知らない同年代がちょっと増えた。つまり、悪く言うと監視しなければならない対象が増えた。その分派閥も増えた。セレフィ様派は、現在最大派閥である。対抗しているわけではないが、二番目に大きな派閥は、今年の春入学なさった第一王子殿下の、エドワード様の許婚である、レレフィス公爵令嬢ユイレ様の派閥だ。
現王族と未来の王妃様の派閥が、互いをけん制しあいつつ、勢いを増している状況である。大抵のご令嬢は、このどちらかに属している。なお他にも大小さまざまな派閥はあるが、どちらかの流れを汲んでいる事が多い。全く無関係の第三派閥は、まだ息をあんまりしていないが、来年ご入学される第三王子殿下の許婚の伯爵令嬢を擁立する派閥のようだが、中等部は三年制なので、私は卒業するから、直接ぶつかるようなことはない。
ちなみに表向きの私は、独立派と呼ばれている……。
簡単に言うと、これはぼっちの集まりだ。ぼっちをまとめて、独立派と人々は呼んでいる。私はなぜなのか、その筆頭だと思われている。着かず離れずって難しすぎないかな?
侯爵令嬢であるし、中々私より高い爵位の人はいない……。
だからぼっちでも黙認されているし、イジメに遭う事もない。ただこれは、独立派と呼ばれているにもかかわらず、定期的にセレフィ様が私をお茶会に呼んでくれると皆が知っている事も手伝っているのかもしれない。
セレフィ様は、少なくとも三か月に一度は、私をプライベートの場にお招きになる。そして私は、近衛としての職務で半年に五度は、同じ空間にある茶会等に行くため、かなり頻繁に顔を合わせている方だと思う。
本日もそんなこんなで、私は午後三時からのお茶会にお招きいただいている。
「リリア姉上」
私が成長したように、マルスもまた八歳になった。だいぶ背が伸びてきた。アーモンド型の形の良い瞳を見て、私は思わず弟を抱きしめた。分かる、今ならば同期の気持ちがわかる。マルスは可愛い。
「苦しいです」
「一緒に王宮へ行くのでしたね」
「ええ。第三王子殿下のご学友として、共に楽器を学びます」
マルスが頬を持ち上げた。えくぼが可愛い。私にはショタ属性は無かったはずだが、今となってはたった二人の肉親である。可愛くないわけがない。
なお第三王子殿下は、唯一の第一王妃様のご子息である。お血筋としては、最も由緒正しい。ただ、第一王妃様は、第一王子殿下を立てている。ただそれでも、『どうしてもクリソコーラ侯爵家の護衛が欲しい』と、国王陛下にお願いなさったのだという。
私の場合は、初誕生に併せて、クリソコーラ侯爵家で両親が子作りをしたそうだ。そして弟の場合は、第一王妃様の頼みで、子作りがなされたそうだ。クリソコーラ侯爵家の血縁者は、王族と同じ学年になることまで踏まえて作られてきたらしい。
「姉上が頑張りますので、マルスは命を賭してはだめですよ」
「姉上……姉上も命を賭さないで下さい。僕は、王家よりも姉上が大切です……」
「それはなりません」
「……分かっておりますが、姉上……無論僕の命は第三王子殿下をはじめ、王家に差し出しますが……どうか、僕が頑張るので、僕が大人になるまで、生き急がず待ってください」
マルスの言葉に、私は目を丸くした。
「何処でそんな言葉を覚えたのですか? 私がマルスを残して逝くわけが……!」
「約束ですからね」
「……」
「姉上」
「……」
「――はぁ。ほら、馬車にのりましょう」
私はマルスには出来ない約束はしたくないため、何も言えなかった。小さな手で、マルスが私をエスコートしてくれる。そうして乗り込んだのち、馬車が走り出した。暫く無言で進んだ時、マルスが私の体にもたれかかってきた。
「所で姉上」
「何?」
「グレイル卿の事ですが」
「どなた?」
私は咄嗟に聞き返し、それからハタと思い出した。そうだ、そうだった。ここは乙女ゲームの世界で、攻略対象の一人だったはずだ! 宰相補佐官予定のご令息の名前だ。過去に一回だけお会いしたではないか。
「……姉上って、本当に人の話はあんまり聞いてませんし、他者を視界に入れませんよね」
「え?」
「僕の配下の話によると、姉上は、毎週金曜日には学園図書館に行かれるとか」
「ええ。図書委員をしていて……配下?」
「配下は配下です。その際、ご自分でも文献の渉猟をなさっておいでだとか?」
「図書館は本を読む場所だけれど……?」
「いつも正面に座る殿方がおられるとか?」
「そうなのですか?」
図書館の席順などには、これまで気を配ってこなかった。誰か敵対勢力の人間でも座っていたのだろうか。それにしても――なんだその、耳●まみたいなポジショニングは。好きな相手の前に座って気づかれないって、本当哀れだけど萌えるよね!
「姉上は、婚約者を持とうとは思われないのですか?」
「マルスが一人前になって、きちんとこのクリソコーラ侯爵家を背負いたつまでは、見届けるつもりです。私よりも、マルスの許婚探しが急務です」
「……僕は、自分の事は自分で出来ます。姉上、あの……それは、暗に拒否しているのではなく、本当に気づいておられない?」
「何にですか?」
「わー不憫だぁ……! 僕の未来の兄上になるかもしれない方は、不憫だぁ!」
「? マルス?」
そんなやりとりをしていると、馬車が王宮に到着した。
そこから私とマルスは別々に案内されたので、離れて歩く事となった。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる