ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【六】書類

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 高等部の生活もあっという間だった。オズワルド先輩は卒業して大学に行った。そして今年、入れ替わりに、王太子殿下世代がご入学された。私とセレフィ様は生徒会役員になった。今年の一年生は、女子はユイレ様ともう一名、男子はエドワード様ともう一名だ。

 他の書類仕事で忙しかったが、この二名は、私にとってはセレフィ様の次の護衛対象となるので、すぐに生徒会の場での警備体制を考え直す作業に入った。だから他の一名ずつはあんまり意識していなかった。顔合わせは別の日にあるからと、私はそれとなく席を立ち、緊急時の避難経路を再確認していた。万全だ。この日のためにオズワルド先輩と私でチェックにチェックを重ねたのだから間違いない。一人納得していると、視線を感じたので、私は振り返った。見ればそこには、ユイレ様ともう一名のご令嬢が立っていた。

「ごきげんよう、リリア先輩」

 ユイレ様の声に、私は小さく頷いた。それからユイレ様が隣の少女を見た。

「彼女は、高等部から入学したエンバー伯爵令嬢のマーサです」
「お初にお目にかかります、リリア先輩」

 会釈されたので、私も挨拶を返した。その後簡単に新入生歓迎会の話をしてから、この日は先に帰宅する事になった。王太子殿下達の姿は確認しなかったが、きっと来ていったはずだ。セレフィ様がご対応なさったのだと思う。生徒会室は広い。

 その後馬車で帰宅した私は、マルスと共に食堂へと向かった。マルスも今年で十二歳、中等部に進学した所だ。

「学園はどうでしたか?」
「第三王子殿下の護衛体制は万全です」
「さすがね」
「姉上の弟ですから」

 マルスが両頬を持ち上げた。可愛い。随分と背も伸びた。記憶が戻ってからもう七年以上の歳月が経過している。マルスはどんどん攻略対象らしい姿に近づいていく。

「そろそろ許婚の事を真剣に考えなければなりませんね」
「姉上、再会なさって、ついにご決断を?」
「再会? どなたとですか?」
「姉上は姉上でした。安定していますね」
「?」
「では、僕のお話ですか? 不要です。僕は、自分で必要時に、適宜相手を用意する事で柔軟に対応したいと考えているので」
「そ、そう?」

 どんどんマルスはしっかりしてきた。私よりもよほど頼りになりそうだ。これは身内の目だからでもなく、攻略対象補正でもなく、マルスが本当に優れているからだと私は確信している。

「姉上はどうなのですか? 許婚というよりも、第三学年の内に夜会デビューなさるご令嬢が多いのだと聞いておりますが」
「そうね。叔父様にも勧められているのです」
「同伴者は?」
「無派閥の中で最も爵位が高い人物が望ましいでしょうね。なるべく目立たない方だと非常に助かります」
「……王太子殿下の派閥の中の侯爵家のお方など、僕は個人的におすすめですが」
「私はセレフィ様をお守りする者です。王太子殿下の派閥ではかどが立ちます」
「一生に一度なのですから、楽しまれては?」

 マルスの言葉に、その発想は持っていなかったなと考えてしまった。夜会に楽しそうというイメージが、転生者である私にはあまりないのかもしれない。

「マルスがそういうのならば、楽しむ努力をします。まず、そのおすすめの方を教えてください」

 王太子殿下の派閥には侯爵家のご令息が何名かいるので、ピンとは来ない。

「僕がお伝えしたのでは、楽しくないでしょう。それに年下の同伴者は、許婚でないと困難でしたか……」
「年下? ええ。夜会は慣れている先達に同伴してもらいデビューするか、許婚と共に参加する事が多いようですね」
「――リュース伯爵子息のオズワルド卿は?」
「あの方は、警備のためにご参加なさるでしょうから、同伴者も近衛騎士の中の誰かとなると思います」
「姉上も近衛騎士のお一人では?」
「それはそうですが……あ」
「どうなさいました?」
「叔父様に頼んでみます。近衛騎士団長その人ですもの。身内ですし、カドもたちません」
「それは良い考えですね」

 そんなやりとりをしつつ、私達は仔羊の肉を切り分けて食べた。


 翌日。
 私は家令に叔父様あての手紙を託してから、馬車に乗り込んだ。本日も学園では、生徒会の仕事が待っている。講義後、私は本日は一人で生徒会室へと向かった。行事が忙しいから、時間が惜しい。本日セレフィ様はご公務でお休みだ。私は一人で黙々と書類に向かった。十分、三十分、一時間――と、時が流れていく内に、没頭しすぎて私は書類しか見ていなかった。それが落ち着いたので顔をあげて、私は驚いた。

「……」

 真正面に、攻略対象であるグレイルが座っていたからである。しかも、彼は逆側から書類を片づけてくれていた。

「お久しぶりです、リリア先輩」

 気づいたグレイルに声をかけられて、私は思わず目を丸くした。私の事を認識されているとは思っていなかった。

「……お久しぶりです」

 二次性徴が終わっている様子で、もうどこからどう見ても子供には見えない。最後の記憶では、絵本を読んでいた少年であったが、今は非常に長身だ。背が高いとそれだけで、大人っぽく見える。

「右側の書類は全て完了です。左側にはミスがある」
「まぁ……有難うございます」
「資料がすべてそこにあったので、このくらいは易い」
「頼りになりますね」

 思わず私は笑顔を浮かべてしまった。元々私は書類が好きではないのだが、そんな私以上に現在の生徒会関係者は書類が出来ない。昨年も私とオズワルド先輩で回していたようなものであるが、これからはグレイルがいるのか。と、考えながら、完成した書類を手に取り、完璧であることと速度に驚いた。達筆な字が並んでいる。

「すごい……」

 笑うだけではなく、私は目を輝かせた自信がある。このペースは、私とオズワルド先輩の二人がかりよりもずっと早い。すごい!

「毎日お手伝いさせて頂く」
「有難うございます」
「明日は何時に?」
「そうですね……私はいつも、講義後すぐにセレフィ様と参りますが」
「――では、俺は十六時半を目途に」
「宜しくお願いいたします」

 その後、グレイルは書類関連の生徒会についての質問や、資料についてなどを私に質問してきた。私は必死で説明した。ここで貴重な戦力を逃すわけにはいかない。それに私が卒業した後の書類を担当するのは、絶対に彼で確実だ。覚えてもらわなければ! そんな事をしていると、あっという間に日が暮れた。下校を促す鐘がなる。

「そろそろ帰りましょうか」

 私が声をかけると、静かにグレイルが頷いた。そして並んで生徒会室を出ながら、私は本格的に身長差を意識した。女子にしては私は長身の方なのだが、比較にならないくらいグレイルは背が高い。

「リリア先輩」
「はい」
「今日は沢山話せて、とても有意義だった」
「私もです」
「――俺と先輩は、『お互いに高めあえる間柄』だと感じる」

 歩きながら静かに言われて、私はどこかで聞いたフレーズだなと思ったが、思い出せなかった。

「光栄です」
「……」
「それでは、失礼いたします。ごきげんよう」

 私はそう伝えて、迎えの馬車に乗り込んだ。その後馬車が走り出してから、私は叔父様からは返事が着ているだろうかと考えていた。



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