ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【七】仕事の速度

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 叔父様からは、『日時と適切な夜会を探して調整しておく。急な仕事が無い限り、同伴可能』というお返事が着ていた。有難い事である。

 さて翌日、私は放課後になってから、セレフィ様と共に廊下を歩いていた。

「昨日はどうでした?」

 するとセレフィ様が私をチラリと見た。私は腕時計を見て、現在十六時五分である事を確認した。今日から、グレイルが来てくれるはずだ。

「グレイル卿が書類を手伝ってくださる事になりました」
「まぁ……私が不在の所を狙うなんて」
「問題がありましたか?」
「問題だらけです。リリアは私の大切な親友です。変な虫からは守らなければ!」

 お守りするのは私の仕事であるし、グレイルは虫ではない。

「とはいえ、リリアの気持ちが固まったのならば、応援致します」
「私はぜひ彼に書類を任せたいと考えて、気持ちを固めております」
「そう言う事ではなくて」

 そんな話をしている内に、生徒会室へと到着した。中に入ると既にグレイルがいて、書類を――!? 終わらせていた。

「これは」
「片づけておいた。他には?」
「すぐに次の書類をお持ちします」

 私は感動して思わず両頬を持ち上げた。すごい、本当にすごい。なんて有能なんだ。将来の宰相補佐官様、すごい! 私は慌てて資料棚から、本日片付ける予定だった仕事の資料を取り出した。

「さすがに優秀なようね。ところで、エドワードは? 本日は公務は無いはずです。何故あなただけ?」
「俺が個人的にリリア先輩のお手伝いをすると申し出たからです」
「そう。期待しているわ。ただし私情を生徒会の仕事に持ち込む事は良くありません」
「心得ております、セレフィローズ第一王女殿下」

 私の後ろで何やら怖い眼を向けあいながら、口元にだけ笑みを湛えている二人に、私は沢山の書類を抱えて振り返った。そして本日分を机にのせた。三分の二をグレイルの前においた。きっと彼にならできる。残りの三分の一は、私とセレフィ様の間においた。出来る方が片づけていくスタイルだ。

「どうぞよろしくお願い致します」

 頭を下げてから、私も着席した。こうして三人での書類仕事が始まった。私は時折、グレイルの様子を窺ったが、彼は表情一つ変えずに、高速で処理していく。真剣な眼差しが、資料を追いかけ、長い指先で万年筆を操る姿が本当に絵になっている。私は転生後はじめて胸がキュンとするという感覚を味わった。仕事ができる男子とは、本当に素敵だ。この調子で、私が卒業するまでお手伝いをしてほしい。私のこの気持ちは間違いなく固まっている。しかしセレフィ様はあまり快くないのだろうかと、視線を向けると、何と唖然としておいでだった。信じられないものを見る顔つきで、ポカンとして、グレイルを見ている。キュンとしているといった表情ではない。不審物を見る顔だ。

「あ、あなた、本当に仕事が出来るのね」
「この程度、中等部入学前の俺にでも出来る。日々どれほどの宰相補佐の仕事をしていると思っておいでですか?」
「一言多いです、口に気をつけなさい」
「口の悪い男は嫌いですか?」
「あまり好きではありませんね! 黙って仕事を片付けなさい」
「絡んでくるのはセレフィローズ殿下だと思うが? それに打ち合わせをしながら書類を片付ける事など多々ある。この程度で気が散るほど、軟弱な集中力は持っていない。それと、殿下ではなく、俺はリリア先輩の見解を伺いたいのだが?」

 するとセレフィ様が沈黙してから、私を見た。

「リ、リリア。あなたは口が悪い男性をどう思いますか?」
「もっと書類をお任せしたいと強く感じております」
「そ、そう言う事では無くて」
「いくらでも片づけますよ。実際、終わるまでにそう時間はかからない。次の仕事の準備をしておいてもらえると助かる限りだ」
「用意しておきます」

 私は頷き、立ち上がった。なんて幸福な日々の幕開けなんだろう。これで私の放課後に、余裕が生まれるのは確実だ。その後明後日の分までの仕事の準備をして席に戻ると、既に仕事が私とセレフィ様の分も含めて完璧に処理されていて、セレフィ様は呆気にとられたようにグレイルを見ていた。麗しい唇が、半開きだ。

「宜しくお願いします」

 仕事を追加してから、私は席に着いた。すると紅茶のカップに触れながら、セレフィ様が複雑そうに私を見た。

「確かにこの速度なら、気持ちも固まるでしょうね」
「ええ。グレイル卿は、来季から書類仕事を担ってくれると確信しております」

 セレフィ様が引きつった顔で笑った。頷いている。他に適任者もいないし、これで良いだろうと私は考えていた。



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