ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【十】親友の話

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 翌日の昼休み、少し遅れて学園に来たセレフィ様が、教室の扉を開けるとすぐに、私をじっと見て声を上げた。

「リリア!」

 何事だろうかと考えて顔を向けると、セレフィ様が私の机の所まで、足早に訪れた。そして両手を机につくと、じっと私を覗き込んできた。

「グレイル卿と夜会に参加するというのは事実なのですか!?」

 大きな声を発しているセレフィ様を、私は人生であまり見た記憶がない。だがそれよりも言葉の内容に硬直してしまった。その一瞬の動揺を、セレフィ様は見逃さなかった。

「事実なのですね……私がいない隙になんという事でしょうか……私のリリアになんという事を!」
「セ、セレフィ様……」

 教室中の視線がこちらに集まっている。それからすぐにそれはざわつきに変わった。

「まぁ!」
「素敵ですね!」
「ついに!」

 そんな声が私の耳に届いた直後から、お祝いの言葉が広がっていき、誰が何を発言しているのか聞き取るのが困難になってしまった。まだ決定ではない、週末に叔父様を交えてお話するのであり……と、言おうかとも思ったが、私は思いのほか動揺してしまっていて、声が上手く出てこなかった。

「丁度お昼休みですね、本日は食堂で昼食をご一緒しましょう。じっくり聞かせて頂きます!」

 セレフィ様はそう言うと、入ってきた扉に振り返った。私も昼食にしようと思っていたので、おずおずと席を立つ。そのまま一緒に教室を出て、私達は中央塔の食堂へと向かった。

「グレイル卿は確かに能力はあります。悔しいですが、認めます。ですが、今までリリア側には全く好意があるようには見えませんでした。一体いつから、何がどうなったのか、具体的かつ詳細に、私に話すように」

 歩きながらセレフィ様に言われて、私は困った。好きか嫌いかなら好きだというのは間違いないが、正直告白されてから意識してしまっただけであり、まだ私は自分の気持ちなどはよく分からない。ただ私は友達に対して、心拍数が煩いほどドキドキする事は無い。とすると、グレイルと一緒にいたり、グレイルについて考えると鼓動が煩くなるようになった現在、私は恋をしている可能性が高いと思う。

「リリア?」
「……一昨日告白されました」
「……そうですか。それで?」
「……」
「……」
「……」
「……もう良いです。真っ赤になっているリリアを見るのは初めてです。そんなに泣きそうになって真っ赤になられてしまっては、あなたの気持ちも分かりました。好きなのですね」

 それを聞いて、私は思わず顔を背けた。

「私はそんなに顔に出やすいのでしょうか?」
「いいえ。普段のあなたは鉄壁の無表情です。無感情にすら思えます。そんなあなたをそこまで変えるのですから、恋とは偉大ですね……」

 恋、と、耳にした瞬間、私の胸の音がより激しくなった。思い浮かんでくるのは、グレイルの事ばかりである。

 その内に、食堂に到着した。私達を見て、給仕の方が扉を開けてくれた。

「姉上、リリア先輩!」

 すると声がかけられた。視線を向ければ、そこには立ち上がって手を振っているエドワード殿下と、座っているグレイルの姿があった。俯いて皿を見ている落ち着いた様子のグレイルを目にしただけで、私はド緊張してこの場から歩き去りたくなった。そんな私の右手を、ギュッとセレフィ様が握った。

「行きましょう。あちらからも話を聞かなければ」
「え……? な、なぜあの二人はここに? いつもお弁当だと聞いておりますが」

 これは近衛騎士団経由で得た情報だ。食堂での毒見の手間を省くために、極力王族の皆様はお弁当としているはずだ。勿論、今日のように不規則的な通学などもあるから、必ずではないし、食堂で食べる権利は生徒にならば誰にでもあるのだが。

「エドワードと私で、あなた達をそれぞれ連れてきて話を聞こうと、朝事態を宰相閣下から伺い、取り決めたからです」
「……」

 仲が悪そうに見えて、意外とエドワード殿下とセレフィ様は意気投合し、一緒に物事に取り組むと絶妙のコンビネーションを発揮するような気がする。そのまま、私はグレイルの前に座らされた。私の隣に、セレフィ様が座る。エドワード殿下も席に着いた。するとグレイルが顔をあげて、真っ直ぐに私を見てから微苦笑した。

「悪いな、リリア先輩。父上のせいで騒ぎになってしまったらしい」
「いえ……」

 私が必死で首を振ると、エドワード殿下とセレフィ様がじーっと私を見た。視線が突き刺さってくる感じがする。

「リリア先輩は、グレイルの何処が好きなんだ? 親友の立場から言わせてもらえば、グレイルはいい奴だが」
「……」
「エドワード殿下。それは俺が直接本人から二人きりの時に聞いておくから、追い詰めるような真似をしないでくれ」
「お待ちなさい、グレイル卿。私も親友としてリリアの気持ちをしっかりと確認したいので、ここで話を続けるべきだと思うのですが?」
「セレフィローズ王女殿下。本当にあなたがリリア先輩の親友なら、食堂中がコチラに注目している状況下で語らせるべきでないと、判断できそうなものだが? 個人的には、無論俺だって聞きたいが」
「結局聞きたいくせに! グレイル卿、あなたまさか、強引に迫って言質をとっただけだなんてことはありませんね?」
「セ、セレフィ様。グレイル卿は、お優しい方です。強引ではありません」

 私が思わず助け船を出そうと口を開いた瞬間、エドワード殿下は目を丸くし、セレフィ様は呆気にとられた顔になり、グレイルだけが嬉しそうに笑った。

「グレイルが優しい……? グレイル、まさかお前は、好きな相手の前では、優しく変貌するのか?」
「エドワード殿下、どういう意味だ? 俺ほど優しい人間は、あまりいないと思うが? そして、リリア先輩の前で、俺の印象が悪くなるような事は二度と言うな」
「いいえ、エドワードの言う通りです。私は、グレイル卿の優しさを目にした記憶がありません……」
「いつもセレフィローズ王女殿下の書類も代わっているだろうが」
「う……」

 セレフィ様が言葉に詰まった。私はタオルケットをかけてくれたりという具体例を挙げようと思ったのだが、居眠りをしていたのが露見してしまうと気が付き、そのまま黙ってメニューを見る事に決めた。今日は何を食べようかな。この食堂のメニューはいずれも美味だ。いつも女子校舎の食堂で食べるので、あまり来た事がないのだけれど、来る度に新しい味に出会っている。じっとメニューを見ている私の前で、三人が会話をしているが、私は料理選びに集中した。

「それで?」
「聞いているのですか?」
「リリア先輩、答える必要はない。王族お二人の好奇心を満たす必要は無い」
「私は鮭のムニエルにします」

 顔をあげて答えると、三人が動きを止めた。それから、エドワード殿下が給仕の者に合図した。

「私はハンバーグにいたします」

 セレフィ様がそう言うと、エドワード殿下が頷いた。そして私の料理とセレフィ様の料理を注文してくれた。既にエドワード殿下とグレイルの前には、料理の皿がある。

「リリア先輩は、魚料理が好きなのか?」

 微笑したグレイルに聞かれて、私は小さく頷いた。
 実は週末に何の料理を食べるかという話をした時も、私は魚を挙げたのだったりする。

「店の予約は済んでいる。あの店の魚料理も絶品なんだ」

 さらりとグレイルが言うと、エドワード殿下とセレフィ様は硬直して、グレイルを凝視した。食堂には一拍ほどの間が訪れた後、何故なのか『素敵だ!』といった声が溢れた。みんな、こちらの話を聞いているらしい……。

「……楽しみにしております」
「俺も楽しみにしている」

 私の言葉に、グレイルが満面の笑みに変わった。するとエドワード殿下が両手で顔を覆った。

「グレイルの顔が融けているだと……幸せそうだな、本当」
「ああ、幸せだ」
「グレイル卿、ご自分ばかり幸せに浸っているのではなく、きちんとリリアの事も幸せにしなければなりませんからね!」
「当然だ。ただ俺は、リリア先輩が隣にいてくれたら、それだけで自動的に幸せになれるんだ」
「っく……グレイル卿の口から……惚気……」
「姉上は上辺の作り笑いが崩れ落ちているぞ」

 指と指の間から、エドワード殿下がチラッとセレフィ様を見てそう言った。
 その後、食事が運ばれてきてからも、放課後の生徒会の仕事中も、私とグレイルは、二人から質問攻めにされたが、ほとんどグレイルが答えてくれたので、あまり私は喋らず、普段通りに過ごす事が出来た。グレイルは、とても頼りになる。


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