ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【九】家族

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 その夜は全然眠れなかったため、眠気を堪えながら、私は翌日登校した。
 馬車を下りてから、日中は何度か寝そうになった。なんでもご公務が長引いているとの事で、本日もセレフィ様はお休みだった。何とか寝ずに講義を終えてから、私は放課後、ド緊張しながら生徒会室へと向かった。歩きながら勝手に赤面しかかったのだが、私はあまり表情が変わらない自分に感謝してしまった。

 生徒会室にひと気はなく、私は席に座ってすぐ、両腕をテーブルに預けて、その上に顎を載せた。眠い……。そう思ったのを最後に、気づくと私は微睡んでいた。

「ん……」

 すると何かが髪に触れた気がして、目が覚めた。
 どれくらい寝ていたのだろうかと考えながら、何気なく左側を見ると、慌てたように手を引いたグレイルが見えた。

「悪い、起こしたな」

 その言葉に気が付くと、私はタオルケットを背中からかけられていて、それが髪に触れたのだと気が付いた。

「いえ、有難うございます……」
「……綺麗な髪だな」
「有難うございます」
「その……触れてみても良いか?」
「え? ええ」

 私は半分寝ぼけていたので、何気なく頷いた。すると、ゆっくりとグレイルが私の髪に触れた。そして微笑した。

「ずっと触れてみたいと思っていたんだ」
「そうなのですか」
「夢が一つ叶った。さて、仕事をする。先輩は寝ていても構わないぞ」

 それを聞いて、私は――睡魔に従った。ダメだ、眠くて何も考えられない。次にグレイルと会ったらどんな顔をしていれば良いのか迷いすぎて眠れなかった事が原因なのだが、いざ会ってみると大丈夫だった。

 次に揺り起こされたのは、下校を促す鐘の音がした直後だった。

「帰るぞ」
「ええ」
「……俺以外の前では、余り無防備にならないようにな」
「?」

 私は護衛技能の訓練をしているので、正直咄嗟に襲い掛かられても、なんとか出来ると思う。相手が不審者だったら気が付く。私にとって、グレイルの気配は安全なので、気を抜いてしまっているだけだ。

「ほら」

 グレイルが何気なく私に手を差し出した。そして私の手を握った。そのまま手を繋いで、私達は正門まで向かった。時折周囲の視線が飛んできたので、段々意識がはっきりしてきた私は真っ赤になったのだが、今更振りほどく勇気もなく、そのまま帰った。

 馬車に乗って帰宅すると、叔父様が来ていた。

「リリア、宰相閣下から、その――ご子息が私に会いたいので、週末を空けて欲しいと依頼されたのだが、心当たりは?」
「あ……ええ。夜会の件です」
「お誘いされたのか?」
「それをご説明下さるそうです」
「リリアの口から先に聞いてはまずいのかね?」
「いいえ。特にまずい事はありません。お誘いされました」
「そ、そうか。それで? リリアはどうしたいんだね?」
「叔父様に聞いてみるとお答えしました」
「――私に聞かれても……リリアが行きたいのならば、行けば良いし、行きたくないのならば、私が断っておくが?」
「自分でもよく分からなくて困っております」

 私が素直に答えると、叔父様が複雑そうな顔をした。

「いつから付き合っていたんだね?」
「初対面は十二歳の頃で、今は生徒会の関連で親交があります」
「そう言う意味ではなく、恋人同士として」
「恋人ではありません」
「恋人ではない!? じゃあどうしてお誘いされたんだね? 先方はリリアを好きなのではないのかね?」
「……好きだと仰って……その……」

 思い出したら頬が熱くなってきた。最近の私は赤面症気味かもしれない。

「告白されて、何と答えたんだね? リリア、事と次第によっては、次の週末は、君の許婚が決定する」
「許婚? マルスもまだなのにですか?」
「一般的には女性の方がこの国では許婚を早く見つけるものだと思うがね……」
「その、私は……仕事もありますし……」
「ああ……さすがに未来の宰相候補の許婚に危険な仕事を続けさせるのも躊躇われる……が、そこはセレフィローズ様がご結婚なさるまでは、少なくとも学園の大学をご卒業なさるまでは、続けてもらう事となるだろう……」
「頑張ります」
「ありがとう。それで? リリアもまた、宰相閣下のご子息が好きなのかね?」
「好きか嫌いかならば好きです」
「顔が真っ赤で、もう好きだという答え以外は想像していなかったから、特にこれ以上の感想は挟まない事とするが、将来の事なのだから、しっかりと考えるように」

 思わず私は両手で顔を覆った。自分でも真っ赤の自覚はあったが、指摘されると恥ずかしい。

「それでは週末は空けておく。待っているよ」
「は、はい。ありがとうございます」

 その後帰っていく叔父様を、私はマルスと共に見送った。するとマルスが私を見て、満面の笑みに変わった。

「姉上、夜会デビューのお相手が決まって良かったですね。王太子殿下の派閥の侯爵子息だとか」
「え?」
「いやぁ、奇遇だなぁ。僕がおすすめした相手と同じだなんて」
「マルス? マルスは、グレイル卿の事をご存知だったの?」
「王立学園に通う者で、グレイル卿の片想いを知らない人間の方が少ないのでは?」
「え……?」
「少なくとも僕が掌握済みの情報網には、グレイル卿の唯一と言っていい弱点として出ておりましたよ」
「弱点?」
「報われない片想い。いいや、報われたのですから、この弱点も消失しますね。おめでとうございます、姉上。グレイル卿なら、一途ですし申し分ないでしょう」

 マルスが笑みをより深くした。

「無論、問題があると判断したら、僕が責任をもって排除しておきます」

 最近、たまにマルスの笑顔は怖い。私は何も言えなくなった。


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