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【八】真っ赤
しおりを挟むグレイルが生徒会室にいる生活が始まって、既に二週間。グレイルは現在までに、一度も欠席していない。たまに眠そうな日があるが、いつも爆速で書類を処理してくれる。私は自分の分をゆったりと片づけながら、何て充実しているんだろうと感動してしまった。セレフィ様はお茶を飲んでばかりになった。なお、お茶を飲みに来るのは、エドワード殿下も同じだ。たまに顔を出して、お茶を飲んでいる。今日もそんな日だ。
「姉上」
「何?」
「生徒会役員の仕事を俺は、姉上からも教わりたい」
「貴方に役員となる資質があるのであれば、教えます」
「俺とグレイル以外の適任者がいるのか? というか、そう言う話ではなく。俺は、姉上が仕事を後輩に教えている姿を見ていないから純粋に疑問なんだ。これまで、リリア先輩が一人で片づけていたのか?」
「っ……さ、昨年まではオズワルド先輩が……」
「オズワルド先輩とやらは、リリア先輩にしか仕事を教えなかったのか?」
「……そ、その……」
「つまり姉上から学ぶことは何もないということで良いんだな?」
にこやかな笑顔でエドワード殿下が言った。セレフィ様が言葉に窮している。
「リ、リリアはどう思います? エドワードは生徒会役員に相応しいと思いますか?」
「主に現在セレフィ様がご担当下さっている司会進行等の行事での役割をお引継ぎ頂く事が良いのではないかと感じております」
「それは……エドワードでなくとも、例えばユイレ嬢やマーサ嬢でも良いのではなくて?」
「ええ、問題ないと思います」
私が静かに頷くと、セレフィ様がホッとした顔つきになった。エドワード殿下は、じっと私を見ると、一瞬だけ鋭い眼差しになった。
「ユイレはダメだ。俺は、ユイレが俺以外の横にいるのは許さない。仮にそれがグレイルであってもダメだ。そういう事ならば、俺とユイレが役員をする」
「決めるのは、あなたではありませんよ、エドワード。では書類はどうするのですか?」
「制度を改革する。役員以外も、現に手伝っているのだから、生徒会補佐を増員し、グレイルに任せる。適材適所だ」
エドワード殿下の言葉に、それはいい案かもしれないと私も思った。ただ、以前セレフィ様は、『私情を持ち込むべきではない』と、何の文脈であったかは忘れていたが口になさっていたのだし、どう思っているんだろう。
「検討しておきます。それはそうとエドワード、確か明日は、あなたも私も揃って公務のはずですが」
「ああ、それが?」
「グレイル卿とリリアが二人になってしまいます」
「何か問題が?」
「リリアが危険です」
「学内に危険があるとは聞かないぞ?」
何を言っているのか分からないという顔で、エドワード殿下が笑っている。実際、現在危険はない。だって私がつきっきりで護衛しているのだから、安全だ。だから私もちょっと何を言っているのか、理解できなかった。
こうして、翌日。
私は一人で生徒会室へと向かった。一人だと、いつもより早く到着する。まだ十六時の手前だ。私は窓際の席で、紅茶を飲みながら、外を眺めた。生徒会室から見える風景が、私は好きだ。小さい鳥が枝にとまっているのが見える。この風景も、卒業したら見る事は出来ないのだなぁと考えながら、鞄から一通の手紙を取り出した。
――叔父様からの手紙だ。
なんでも、宰相閣下のエルディアス侯爵家、つまりはグレイルの家が、夜会を開くらしい。私がデビューする場として、叔父様が招待状を入手してきてくれた。侯爵家同士だし、夜会の名目も丁度良いという事らしい。グレイルが一番目立つから、ひっそりと隅で叔父様とデビューしている分には私が注目される事も無いだろうという話だった。宰相閣下が叔父様を含めて、騎士団長達に招待状を送ったらしい。文武の交流会も兼ねていると、叔父様の手紙にはあった。
その手紙を眺めてから、鞄にしまう。すると丁度扉が開いて、グレイルが入ってきた。グレイルは十六時半より必ず早くやって来るし、送れる場合は昼休みなどに伝言をくれる。律儀だ。
「リリア先輩」
「ごきげんよう、グレイル卿」
「本日の仕事は、これだけか?」
私だったら三日はかかるだろう書類の山を見ながら、グレイルが言った。有能だ。頷き、私は傍らのティーポットから紅茶を新しいカップに注いで渡した。
「宜しくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
「ところで、グレイル卿」
「なんだ?」
「宰相閣下より、叔父が夜会の招待状を頂戴したとの事で、私も叔父と共に参加させて頂きたく思っております。お招き有難うございます」
忘れないうちにお礼を言う事に決めて、静かに私は伝えた。するとグレイルが顔をあげた。いつもは書類をしながら雑談をするので、珍しい。
「リリア嬢」
するといつもは『先輩』と呼ぶのに、グレイルが改まった口調で私の名を呼んだ。
「俺のパートナーとして出席してもらえませんか?」
「え?」
「近衛騎士団長ではなく、俺と共に」
「パートナーが見つからないのですか?」
「いいや。きちんと俺はパートナーを見つけている。そして、直々にお誘いしているつもりだ。リリア嬢、俺と夜会に出て欲しい」
真っ直ぐに見つめられて、はっきりとそう言われた。私の頭は、最初その言葉をうまく理解できなかった。まず真っ先に思ったのは、グレイルの横は一番では無いかもしれないが、二番目に近いくらい目立つだろうという感想だった。私は目立ってはならない。
「……」
第二に考えたのは、パートナーの意味だ。単なる同伴者という判断で構わないのだろうか、そうだよね、と、ぐるぐると考える。考え出すと、頬が熱くなりそうになった。まるで告白されたみたいに思えたのだが、彼は攻略対象なのだから、私ではなく将来的にゲームのヒロインと恋に落ちるはずである。だとすると気の迷いか、今後私がフラれるという未来が待ち受けているのだろうか。それともヒロインは、グレイルを選ばないのだろうか。その場合は、どうなるゲームなのだろう。ミリしらだから、さっぱりだ……。
「わ、私は、まだデビューしていないので、同伴は慣れた方が良いのではないかと……」
「俺は宰相主催パーティーやエルディアス侯爵家が過去に主催した夜会に全て参加していて、リリア嬢をエスコート可能だ」
「な、なるほど……」
「リリア嬢は頷いてくれれば、それだけで良い」
「……叔父様に聞いてみないと分かりません……」
「では今週末、俺も一緒に聞きに行こう。その際、俺が正確に、同伴をお願いした事も俺の口からお伝えする」
「……」
「ついでに食事でもどうだ? 店に予約を入れておく」
不意に柔和にグレイルが微笑した。真面目な顔から一転しての笑顔に、私の胸が激しく高鳴った。
「近衛騎士団長への面会の約束は取り付けておく。それで、構いませんか?」
「は、はい……」
「有難う、リリア先輩」
呼び名が元に戻った瞬間、私の肩から力が抜けた。しかしまだ心臓はバクバクと煩い。そちらに気を取られていたので、私は続いた言葉を最初、聞き逃しそうになった。
「リリア先輩」
「は、はい!」
「俺はリリア先輩が好きだ。だから、お誘いしたのだと、きちんと理解してほしい」
「は、はい! はい……は、はい? え?」
思わず震えながら、私はグレイルを見た。するとグレイルは、楽しそうに万年筆を回しながら、私を見ていた。
「リリア先輩は、俺をどう思っている?」
「え」
「率直に」
今度こそ私は赤面しただろう。頬が熱い。ど、どう、とは? どうとはなんだ。少なくとも、当初抱いていたような書類掃除機といった感想は出てこない。仕事ができる男子だとは思っているが、だが、そういう『どう』では無い気がする。
「好きか嫌いで」
「……二択ですか?」
「二択だ」
「そんなの……好きに決まっています……」
まずい、口に出したら恥ずかしくなってしまい、私は涙ぐんでしまった。思わず俯いて、膝の上でギュッと手を握りしめる。
「……」
するとグレイルが沈黙した。気まずくなって、私はおろおろしていた。そのままグレイルが何も言わないものだから、からかわれたのだろうかと考え始める。今なら、まだ冗談だとして流せるだろうか。そう考えて、恐る恐る私はグレイルを見た。すると――グレイルも真っ赤になっていて、片手で顔を覆っていた。それを見た瞬間、私はさらに真っ赤になってしまった。真っ赤のままな同士で視線が合う。
「嬉しい……想像以上に嬉しい」
「そ、想像ですか……」
そのまま再びグレイルが黙ったので、私も口を閉じた。この日、生徒会室にはその後ペンの音の合間に、食事の行き先の打ち合わせが加わった。
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