36 / 42
【二十三】もしや、乙女ゲームのヒロイン?
しおりを挟む学園を卒業してからは、私は週に二度ほどはメアリ様に招かれて、お茶会の開き方や夜会時の侯爵夫人としての振る舞いなどを教わった。それに他のご令嬢やご婦人にもご紹介頂いた。少しずつとではあるが、大学で学んだ事もいかしつつ、私はグレイルに相応しくなれるよう、努力している。
セレフィ様の結婚式が行われ、ずっとお仕えしてきたセレフィ様が隣国に嫁がれた時はやはり寂しさがあったが、週に一度は魔術便で手紙のやりとりをしている。これが中々楽しい。
他には閨の講義は続いている。
同時に、私自身の結婚へと向けた準備が本格化してきた。まだ式まで二年はあるのだが、招待客の選定や、持参品などの話などが始まっている。主に叔父様夫婦と、メアリ様側が話し合っている段階だが、侯爵家同士の婚姻という事もあって、様々な儀式や手順があるらしい。なおエドワード殿下とユイレ様の結婚式は、私とグレイルの一年後を予定していると聞いた。
私も二十三歳になった。
あと一年もしない内に、【エルディアス侯爵家機密】を聞くのかなと考えながら、この日は予定が無かったので、私は自宅で紅茶を飲んでいた。何事も無ければ、クリソコーラ侯爵家ともお別れだ。マルスや良くしてくれた使用人達と離れるのも正直寂しい。
そんな事を考えていると、丁度馬車が停車する音がして、マルスが高等部から帰ってきたのが分かった。それからすぐに私がいた居室の扉が開いたので顔を向けると、マルスが顔を出した。
「姉上、リズロット嬢という男爵令嬢をご存知ですか?」
マルスは笑顔だったが、目だけは笑っていなかった。
「元々は平民で、ベアロン男爵家の養子となった――現ご夫人の連れ子の」
それを聞いて、私は首を振る。
するとマルスが私の正面の長椅子に座りながら、目を眇めて頷いた。
「その方がどうかしたのですか?」
「今、大学で騒ぎが起きていると耳にしたんです」
「どんな騒ぎ?」
「なんでも、フォルド第二王子殿下と恋仲だとか」
「え?」
驚いて私は目を丸くした。確かに噂話として、フォルド殿下は許婚のレイア様とはあまり親しくないとは聞いた事があった。エドワード殿下とユイレ様のように、許婚から始まった関係でも愛が生まれるパターンもあるわけだが、元々が政略的な許婚関係であるから、上辺だけの婚約者がいるというのは、決して貴族間では珍しい事ではない。
しかし王太子殿下はエドワード殿下だし、王位の継承はほぼ確実だと言われているとはいえ、まだまだフォルド殿下の影響力も無視はできないし、第一王子殿下と第二王子殿下の王位争奪戦は幕を閉じているわけではない。そのそれぞれの後ろ盾ともなっているのが、双方の婚約者である、ユイレ様とレイア様であるともいえる。
「フォルド殿下の前で転倒したリズロット嬢を、殿下が腕で抱き留めた事が契機となって恋が始まったそうなのですが……レイア様を無視して、いいや蔑ろにし、冷たくあたりながら、人が変わってしまったかのようにフォルド様が恋に呆けているそうなのです」
私唖然とした。セレフィ様の同母弟殿下であるフォルド様は、これまではとても優しいお方だという印象しかなかったからだ。
「……恋は、人を変えてしまうのね」
思わず呟くと、マルスが首を振った。
「どうやら違うようなのです」
「え?」
「リズロット嬢は、魅了魔術を封じ込めた魔石を所持している様子で――今、大学内の男子を誘惑し続けているようなのです」
「!」
「幸いにして、そうした魔術を無効化する品をお持ちだったエドワード殿下やグレイル卿は今のところ問題ないようですが、次々と被害者が現れています。姉上、グレイル卿ならば大丈夫だとは思いますが、気を抜かないで下さいね。念のため、グレイル卿にもこの件をお伝えするべきです。今はまだ、近衛騎士団が調査している段階なので」
それを聞いて、私は蒼褪めつつも頷いた。
なおセレフィ様のご成婚を機に、私は隊長職を退き、現在はマルスが隊長をしている。近衛騎士団が対応に当たるのならば事態の悪化は無いだろうが、注意するに越した事は無い。
「でも、リズロット嬢はどうしてそのような事を?」
「モテたいようです」
「――へ?」
「純粋な理由です。男性にちやほやされて、モテたいようなんです」
私は複雑な気分になった。ま、まぁ、それはそれで、そういう動機があっても悪い事は何もないだろう。だが、前世知識と照らし合わせ……さらには、前世で読み漁った悪役令嬢転生ものなどを思い出し、もしかしたらそのリズロット嬢が乙女ゲームのヒロインなのではないかと推測した。とりあえず、グレイルが大丈夫らしいと聞いた事には、ひっそりと安堵してしまったのだったりもする。
なお、私が零部隊を辞める事に関しては、グレイルとも何度か相談した。グレイルは私がやりたいならば意思は尊重するが、危険な目に遭って欲しくないと繰り返し言ってくれた。その気持ちが嬉しかったし、私は別段やりたくてやっていたわけではないので、あっさりと退職したし、叔父様も私が結婚を控えている事もあったのだろうが快諾してくれた。
しかし、魅了魔術の魔石が無ければモテないというのは、一風変わった乙女ゲームだと思う。課金して石を購入するのだろうか? そんな事を考えながら、私は乙女ゲームとは奥が深いのだなと考えたのだった。
31
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる