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【二十四】人差し指
しおりを挟む結婚式の料理の試食を終えてから、私はグレイルと共に、エルディアス侯爵家の客間の一つへと向かった。本日は、メアリ様と宰相閣下は、領地の視察に出かけているらしい。使用人達が大勢いるから二人きりではないが、宿泊予定の日にエルディアス侯爵夫妻がおられないのは初めてだった。
それだけ私も、この家に慣れてきたという事なのかな? と、考えながら、食後のお茶を飲む。執事達が下がったので、室内には私とグレイルの二人きりだ。長椅子に並んで座りつつ、私はマルスの言葉を思い出していた。魅了魔術の込められた魔石に関してだ。
「グレイル、聞きたい事があるのだけど」
「なんだ?」
「ベアロン男爵令嬢のリズロット嬢をご存知?」
単刀直入に私が切り出すと、グレイルが派手に首を傾げた。
「いいや?」
「そ、そう」
……本当に知らないみたいだ。純粋に疑問だという顔をしている。グレイルとは直接は接触していないのだろうか?
「その方がどうかしたのか?」
「ええと……学園に魅了魔術がこめられた魔石を持ってきていると耳にして」
私が続けると、グレイルが気のなさそうな顔で頷いた。
「ああ。そういえば不可解な魔石を持つ下級生が一人いるな」
「どのような方?」
「靴があっていないのか、度々エド殿下の前で転倒するんだ」
「転倒?」
「そうだ。特に何もない場所で、エド殿下と二人になると、よく転んでいる。エド殿下の護衛が何度も助け起こしているのを目撃した事がある。確か、フォルド殿下は自分で助け起こして、以降……そういえば魅了されてしまったようだとも聞いた。だが、エド殿下との王位争いから勝手に消えてくれる状態になったともいえるから、特に俺やエド殿下が諫める事はしていない。元々愛のない婚約であったから、許婚のレイア様も間接的にその二人の恋愛を煽っている」
つらつらとグレイルが言うものだから、私は少し背筋が寒くなった。
グレイルには魅了された様子はないが、ちょっとフォルド殿下が哀れだ。
「第二王子殿下は、魅了解除の魔導具などはお持ちではないの?」
「さぁ? 俺には王家の所有物については分からない」
「そ、そうですか」
「しかし、どうしてそのような事を?」
「……グレイルが魅了されてしまったらと思ったら、怖かったのが一つです」
「俺がリリア以外に惹かれる事は無い。他にも理由があるのか?」
「近衛騎士団が調査していると聞いたんです」
「なるほど。ならば対処は彼らの仕事となる。リリアが気に病む必要は無い」
きっぱりとそう言われて、私は曖昧に頷いた。確かにもう私は近衛騎士ではないのだから、余計な口出しは不要だろう。マルスだって頑張っているのだし。
「――グレイル、そろそろお風呂をお借りします」
「ああ」
私の言葉にグレイルが頷いたのを確認してから、その後既に道順を知っているので、私は浴室へと向かった。魔導具で常にお湯が張られている白亜の湯舟に浸かり、同様の技法でお湯が出てくるシャワーのような品を見る。科学製品ではないが、機能はほぼ同じだ。じっくりと体を温め、髪や体を洗う。エルディアス侯爵家の石鹸類の香りを、私は気に入っている。入浴後は魔導具で髪の毛を乾かした。この世界、本当に生活に不便は無い。
薄手のナイトドレスに着替え、ガウンを羽織ってから、私は客間へと戻った。するとグレイルが顔をあげた。てっきり自室に戻っているだろうと考えていたから、少し意外だった。ただグレイルの方も着替えていたから、入浴してきたらしいと判断できた。
「リリア」
私が扉を閉めた時、立ち上がったグレイルが、私の後ろに立った。何気なく私が振り返ろうとした直前、そっとグレイルが私を後ろから抱きしめた。最近では、たまにこうして抱きしめられる事がある。私はこの感触が嫌いではない。
「もう少し話がしたい」
「……私も」
グレイルのそばにいたい気持ちは、私も同じだ。
少しグレイルの腕が緩んだので、私は向きを変え、正面からグレイルを見上げた。本当に背が高い。私の頬に触れたグレイルが、そのまま触れるだけのキスを唇に落とした。その後、次第に口づけが深くなる。キスはいつの間にか深くなったから、私はいつからこうした口づけをするようになったのかは思い出せない。
舌を追い詰め、絡めとられる。
甘く舌を噛まれた時、私の肩がピクンと跳ねた。
思わず腰を引こうとすると、力強い腕を回され、グッと抱き寄せられた。
「寝室に行きたい」
「っ」
「嫌か?」
突然の言葉に私は目を丸くしてから、思わず赤面した。
「……嫌じゃないです」
答えた私の声は、とても小さくなってしまった。するとグレイルが綺麗に笑ってから、私をギュっと抱きしめた。こうして、私達は奥の寝室へと移動した。
寝台に座った私の服を、グレイルが静かに乱す。首の筋を舌で舐められ、それから鎖骨の少し上に口づけられた。ツキンと疼いた感覚に息を詰めた直後、私は寝台へと押し倒された。覆いかぶさってきたグレイルを見上げながら、私はどんどん緊張していった。
初夜まで行為はなされないのかと勝手に思っていたのだが、そう言うわけでもなさそうだ。冷静にそう考えてはみるものの、鼓動の音が煩すぎて、すぐに動揺の方が強くなる。
私の左の乳房を手で覆ったグレイルが、端正な唇で私の右胸の乳頭を舐めた。それからゆっくりと唇で乳首を挟むと、チロチロと舌先を動かし始める。最初は慣れないという想いの方が強かったが、次第に私の体はフワフワし始めた。
「ぁ……」
少し強めに乳首を吸われた時、私は思わず声を漏らした。すると気を良くしたようにグレイルが楽しそうな顔をしてから、今度は左手の指先で、私の左胸を愛撫する。暫くそうされてから、口を離したグレイルに、舌で肌をなぞられる内、私の背筋をゾクゾクと未知の感覚が這い上がっていった。
グレイルはそれから、私の秘所に右手の人差し指で触れた。そしてゆっくりとなぞってから、グレイルは喉で笑う。
「濡れてる」
「っ……ぁ……」
「感じてくれるのが嬉しい」
羞恥に駆られて私が視線を逸らすと、グレイルが吐息に笑みを載せてから、右手でベッドサイドにいつも置いてある香油の瓶を手に取った。ずっと置いてあったから、私の中ではすでにオブジェと化していたその瓶の蓋を開け、グレイルが指に甘い香りのする液体をまぶす。そしてぬめる右手の指で、私の秘所を何度もなぞり始めた。
「ぁ……ァ……ッっ……」
暫くしてから、人差し指の先端が、私の中へと差し込まれた。ビクリとして私が体を震わせると、グレイルが気遣うように私を見た。
「痛いか?」
「だ、大丈夫です……っ、ン……」
私が答えた時、グレイルが指をゆっくりと進めてきた。そして人差し指が根元まで入ると、少ししてから弧を描くように動かし始めた。
「ぁ、ぁ……」
次第に私の体から溢れだす愛蜜の量も増えていき、水音が響き始める。ぐちゅりと卑猥な音が響く度、恥ずかしいのだが――そこから快楽が生まれだしたのが分かって、私は嬌声を飲み込む事に必死になった。
「んン」
グレイルの指の動きが少しずつ早くなる。私の体の内側から、全身に気持ち良いという感覚が響き始める。
「少しずつ慣らそう」
「ぁ……ァぁ……」
この夜から、私とグレイルの間には、前戯じみた行為が加わるようになった。
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