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【14】謁見

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 その夜は、疲れていたせいなのか、横になるとすぐに俺は寝入ってしまった。

「ん……」

 翌朝、目を覚ましたのは、唇に柔らかな感触がした時の事だった。うっすらと目を開けると、真正面に端正なユフェルの顔があり、俺は抱きしめられていた。

「起こしたか?」
「……眠い」
「ダメだ。謁見の時間がある。起こそうとしてキスをしてる」
「ん……っ!」

 今度は深く貪られて、俺は一気に飛び起きた。慌ててユフェルの体を押し返そうとするが、意外にも力が強い。

「ぁ、ハ」
「おはよう、カルネ」

 漸く唇が離れたので、俺は肩で息をした。真っ赤になっている俺から手を離して、ユフェルが寝台から降りる。その後俺達はそれぞれ着替えて、食堂へと向かった。本日の俺の服は、クローゼットに用意されていた貴族らしい服装である。こんな上質な服を身に纏った事がないので、着心地は良いのだが落ち着かない。

「どうかしたのか?」

 そわそわしていると、パンを食べながらユフェルが俺に言った。

「変じゃないか?」
「何が?」
「服……俺には勿体ないっていうか……」
「よく似合っているが?」
「本当か?」
「ああ」

 ごく自然と頷いたユフェルを見て、俺はそれを信じる事に決めた。
 こうして食後、俺達は揃って家を出た。アーティさん達が見送りに出てくれた。
 王宮の敷地を、城に向かって歩く。
 並んで進んでいると、通行人達が、時折俺達へと視線を投げかけてきた。

「やっぱりユフェルの隣は目立つな」
「今日の視線は倍以上だ。俺の伴侶である君が珍しがられているんだと思うぞ」
「え」
「それに敷地にいる騎士の多くは、マンドラゴラ討伐でもカルネを目にしているからな」
「な、なるほど」

 一気に緊張してきてしまった。
 それから噴水の前を通り抜けて、俺達は城に入った。謁見の間まで、絨毯が続いている。等間隔で甲冑などが並んでいた。絵画や彫刻等の芸術品も多い。

 進んでいき、九時の鐘が鳴り響く頃、俺とユフェルは謁見の間へと入った。近衛騎士達が開けてくれた扉の向こうに、階段があってその上に玉座が見えた。新聞で見た事のある国王陛下が玉座に座っている。右手には、王妃様と第一王子殿下、第一王女殿下、第二王女殿下が並んでいて、左手には宰相閣下の姿があった。

「おはようございます、陛下。王妃様」

 立ち止まると、まずはユフェルが挨拶を始めた。こうして見ると、本当に第二王子殿下という感じである。

「こちらが、俺の伴侶である、カルネ=ドール伯爵子息です」
「は、はじめまして……」

 紹介された俺は、慌てて深々と頭を下げた。ほぼ平民といえる俺に出来る、精一杯の礼である。実際には貴族等には様々なお辞儀の仕方があるようなのだが、残念ながら俺は知らない。

「そうか。君が、か。ユフェルをよろしく頼んだぞ」

 玉座の上から声が響いてきた。ちらりと顔を上げると、顔は全く似ていないが雰囲気はユフェルによく似た国王陛下が、微笑していた。実の親子だと言われても、この空気感ならば俺は信じてしまうだろう。

「は、はい……」
「では、陛下。後の謁見も詰まっているようですので、俺達はこれで」
「ああ。今度ゆっくりと、晩餐を楽しもう」

 国王陛下が頷くと、ユフェルが微笑し、俺の背中を軽く押した。
 本当に一瞬で挨拶は終了した。
 ド緊張こそしたものの、俺はホッとしてしまった。

 謁見の間をあとにして回廊を歩きながら、俺は大きく吐息した。するとユフェルが俺の肩にそっと触れた。

「緊張したか?」
「そりゃあするだろう……」

 声が震えた自信しかない。

「今日はこの後は、夜の伯爵家での夕食会まで時間が出来たな」
「うん……」
「少し王宮の中を案内しようか?」
「例えば?」
「図書館や宝物殿、いくつかの庭園、各騎士団の鍛錬場、俺の執務室――色々な場所がある」

 それを聞いて、俺は唸った。

「入っていいなら、ユフェルの執務室に行ってみたい。普段どんな仕事をしてるのか、ちょっと興味がある」
「俺に対して興味を抱いてくれたというのは嬉しいな」
「そ、そこまで深い意味は無いからな!?」
「今は浅い興味でも構わないさ。今後深めてくれ。行こう」

 ユフェルがゆっくりと歩き出したので、俺はそれに従った。
 回廊を抜けて、長い階段を上り、二階に到着する。その一角に、ユフェルの執務室があった。扉の前には近衛騎士が立っていた。ユフェルは片手をあげ、俺は会釈をしてから中へと入った。

「ここでは王都全域の監視魔術を展開しながら、書類仕事をしているんだ」

 左側の壁に、巨大な魔法陣が刻まれていて、その正面にいくつもの魔術ウィンドウが広がっていた。俺も見たことのあるエリスの森の、恐らくはSSSRランク以外立ち入り禁止の第九区画――竜が闊歩している光景に、まず視線が向かった。他には王都に入る関所等も映し出されている。

「異質な魔力を感知すると、自動的に映し出されるようになっているんだ」
「すごいな……大規模な魔術だ。これを、一人で?」
「ああ。魔族の血には、膨大な魔力が宿るから、俺には一人でも可能だ。だが、俺が帝国に行く場合に備えて――というより、元々は宮廷魔術師が複数人で魔術を展開していたから、俺の不在時にもきちんと動作はするようにしてある」
「そうなのか……」

 それから執務室に座ったユフェルは、俺を応接席のソファに促した。
 執務机の上には、大量の書類がある。
 チラっと見たが、マンドラゴラ討伐に関する報告書類のようだった。

「俺は少し仕事をする。自由に見てくれて良い」
「うん」

 頷き、俺は執務室のあちこちを眺める事にした。奥には仮眠室がついていたり、資料庫があったりもした。その日の昼食は王宮レストランで食べる事になり、俺は朝の緊張も忘れて、物珍しいものの虜になったのだった。


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