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―― 第三章 ――
【四十五】D/S専門の通り
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用意してもらった街人風の服を身に着け、その後魔法薬で髪の色を変化させた僕とクライヴ殿下は、ルベールの都のはずれで馬車からおろしてもらい、手を繋いで静かに歩いた。石畳の綺麗な街路には、今もまだ黄色い銀杏の絨毯がある。恋人繋ぎでお互いの手の温もりを感じながら、僕達は何度も視線を交わした。笑顔のクライヴ殿下を見ているだけで、僕の胸がトクンと疼く。
「今日は何処へ連れて行ってくださるんですか?」
「そうだな。ルベールにも、大通りを少し抜けたところに、ダイナミクスに特化した商品や酒場があるんだ。そちらへ行ってみないか? 今は前夜祭の前だから、Usualの恋人同士も多く訪れているようだ」
「……」
それを聞いて、僕は一瞬だけ、過去に王都にいた頃に噂で聞いたプレイバーについて想起し、胸が重くなった。
「ルイス?」
「……クライヴ殿下も、プレイバーには行くのですか?」
「いいや? 俺はルイス一筋だからな、行こうとは思わない」
「……昔は?」
「俺は昔からルイスが好きだ」
まっすぐに言われて、あんまりにも自然に言葉を放たれて、僕は思わず赤面した。
すると立ち止まった殿下が、少し屈で僕をのぞき込んだ。
「嫉妬されたのならば嬉しいが、正直俺は無駄な不安を与えたくはない。嫌なら、行く必要はない。別の場所にするか?」
「だ、大丈夫です! 僕も行ってみたいですし……た、ただ……つい、伺ってしまって……」
「なんでも聞いてくれ。例えば俺は、《命令》の使い方であれば、家庭教師に習ったといった部分から、いつでも話そう。では、行くとしようか。だが『殿下』では目立つ。だから今だけでも、名前で呼んでくれ。出来れば、そのまま名前を呼ぶことに慣れてほしい」
「……はい」
「《呼んでくれ》」
「……クライヴ」
「うん。行こう、ルイス」
こうして僕達は歩みを再開した。
大通りに入り、人混みに紛れて進んだ僕達は、その後目的の特にDomやSubを対象にした専門店街へと足を踏み入れた。街灯には飾り付けがなされている。月神の象徴である銀の星や、黒神の象徴である黒い蝙蝠をモティーフにしたものが多く、時折収穫祭に見かけるカボチャや栗を加工したオブジェなども目に入った。
クライヴ殿下の言葉の通りで、若い二人連れが多い。性差がいずれかは、見ただけではわからないのだが、首輪をしているSubも目立つ。時々、グレアが漏れ出しているDomがいたりもした。
国内にDomとSubの数は、とても少ない。一番少ないのは、Switchではあるが。
けれどこの通りにいると、それを忘れそうになって驚いた。
――Sub大歓迎、Domの方どうぞ、そんな看板も目立っている。
自然と、受け入れられている感覚だ。
「俺が気になっているのは、あの角の店なんだ。噂で名前だけ聞いたことがあってな」
「どんなお店ですか?」
「D/S専門の雑貨店だよ。今は、Usualの客も多いようだが――この前、民が話していたんだ。若者向けの面白いお店だと。だから、ルイスを連れてきたかったんだよ」
それを聞いて、僕は二度大きく頷いた。
雑貨店ならば、一番怖くないような、そんな気がする。
「行ってみたいです」
「ああ。ほら、あそこだ」
クライヴ殿下が視線を向けたので、つられてそちらを見れば、半地下へとつながる階段が伸びていて、木製の樽の上に、看板がかかっていた。D/S専門雑貨店・ホオズキと書かれている。僕達は階段を下りていき、店の扉に手をかけた。
「今日は何処へ連れて行ってくださるんですか?」
「そうだな。ルベールにも、大通りを少し抜けたところに、ダイナミクスに特化した商品や酒場があるんだ。そちらへ行ってみないか? 今は前夜祭の前だから、Usualの恋人同士も多く訪れているようだ」
「……」
それを聞いて、僕は一瞬だけ、過去に王都にいた頃に噂で聞いたプレイバーについて想起し、胸が重くなった。
「ルイス?」
「……クライヴ殿下も、プレイバーには行くのですか?」
「いいや? 俺はルイス一筋だからな、行こうとは思わない」
「……昔は?」
「俺は昔からルイスが好きだ」
まっすぐに言われて、あんまりにも自然に言葉を放たれて、僕は思わず赤面した。
すると立ち止まった殿下が、少し屈で僕をのぞき込んだ。
「嫉妬されたのならば嬉しいが、正直俺は無駄な不安を与えたくはない。嫌なら、行く必要はない。別の場所にするか?」
「だ、大丈夫です! 僕も行ってみたいですし……た、ただ……つい、伺ってしまって……」
「なんでも聞いてくれ。例えば俺は、《命令》の使い方であれば、家庭教師に習ったといった部分から、いつでも話そう。では、行くとしようか。だが『殿下』では目立つ。だから今だけでも、名前で呼んでくれ。出来れば、そのまま名前を呼ぶことに慣れてほしい」
「……はい」
「《呼んでくれ》」
「……クライヴ」
「うん。行こう、ルイス」
こうして僕達は歩みを再開した。
大通りに入り、人混みに紛れて進んだ僕達は、その後目的の特にDomやSubを対象にした専門店街へと足を踏み入れた。街灯には飾り付けがなされている。月神の象徴である銀の星や、黒神の象徴である黒い蝙蝠をモティーフにしたものが多く、時折収穫祭に見かけるカボチャや栗を加工したオブジェなども目に入った。
クライヴ殿下の言葉の通りで、若い二人連れが多い。性差がいずれかは、見ただけではわからないのだが、首輪をしているSubも目立つ。時々、グレアが漏れ出しているDomがいたりもした。
国内にDomとSubの数は、とても少ない。一番少ないのは、Switchではあるが。
けれどこの通りにいると、それを忘れそうになって驚いた。
――Sub大歓迎、Domの方どうぞ、そんな看板も目立っている。
自然と、受け入れられている感覚だ。
「俺が気になっているのは、あの角の店なんだ。噂で名前だけ聞いたことがあってな」
「どんなお店ですか?」
「D/S専門の雑貨店だよ。今は、Usualの客も多いようだが――この前、民が話していたんだ。若者向けの面白いお店だと。だから、ルイスを連れてきたかったんだよ」
それを聞いて、僕は二度大きく頷いた。
雑貨店ならば、一番怖くないような、そんな気がする。
「行ってみたいです」
「ああ。ほら、あそこだ」
クライヴ殿下が視線を向けたので、つられてそちらを見れば、半地下へとつながる階段が伸びていて、木製の樽の上に、看板がかかっていた。D/S専門雑貨店・ホオズキと書かれている。僕達は階段を下りていき、店の扉に手をかけた。
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