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―― 第五章 ――
【六十九】今年の執務の開始
しおりを挟む一月も半分が経過した。本日は夏の間に収穫し、乾燥させて保存しておいたハーブと、秋に収穫したクルミで作ったお粥を食べるという祭事があって、それを終えてから僕は、クライヴと共に寝室へとやってきた。
「《続けてくれ》」
寝台の上で僕を後ろから抱きかかえているクライヴの腕の感覚に、僕はうっとりしている。寝間着姿で僕がクライヴの膝の間に収まり、手では本を開いている。来月には、子供に贈り物をする記念日があるから、ノアに本を贈ろうと話していて、今はそれを選びながら、ゆったりと僕は抱きしめられている。
「――こうして月神と黒神は、今もどこかで幸せに暮らしています」
僕は神話の綴られた児童書を読み上げ、最終行を口に出した。DomとSubの神話は他にもいくつかあるが、この本にはSwitchについての記述もあるから、相応しいのではないかと話している。
「めでたしめでたし」
「幸せだろうな、黒神も。俺は負けるつもりはないが」
クライヴはそう述べると両腕に力を込めた。
「ルイス、《そのまま》」
「ん……」
腕に収まっている僕の首元に、クライヴが口づけを落とす。クライヴの甘い《命令》が響いてこない夜は、皆無といっていいほどだ。それが僕は幸せだ。
この夜はそのまま、ずっと抱き合っていて、その後は腕枕をされて僕は微睡んだ。
翌日からは、本格的に執務が始まった。
夏から秋にかけて、僕は主に冬に備え、備蓄の準備を担当してきたから、それらが上手く活用されているかの確認が焦点となる。僕は執務室で、バーナードと共に、王領各地の街の医薬院についての報告書を見ている。本日クライヴは、ルベールの都に視察へ向かった。
僕が主に手掛けた備蓄は、雪や寒さに備えての炭や薪、炎系の魔石や魔導具、毛布といった暖をとる品の他、冬の間の食料、それ以外は魔法薬を主体とした医薬品や、薬草が多い。この王国では、毎年冬には流行性の感冒や紫月病という病気が流行るから、主にそれらに対して、僕は備えるようにした。とはいっても僕は指示を出しただけで、具体的に手配をしてくれたのは、バーナードやその指示を受けた侍従達である。
そんな事を考えていると、バーナードが執務机の上にカップを置いた。
中で揺れている褐色の液体は、珈琲だ。僕は最近、珈琲を好むようになった。
いつかクライヴが話していた通りで、仕事終わりに飲む珈琲は、本当に癖になる。
ノックの音がしたのは、その時の事だった。
「入ってください」
僕が言葉をかけると、バーナードが扉を開けた。すると息を切らせた侍従が一人入ってきた。クライヴと共に街に降りていた使用人の一人だ。
「どうかしたの?」
「大変です、紫月病の罹患者が出ました! ルベールの街中で既に十名以上、各地の街からも報告が上がっています!」
それを聞いて僕は息を飲んでから、バーナードを見る。バーナードもまた僕を見ていた。
「すぐに医薬院の薬の備蓄の配布を」
「畏まりました。そのように指示いたします」
頷いたバーナードは、訪れた侍従と二人で執務室を出ていった。
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