婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾

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―― 第五章 ――

【七十】冬に流行する紫月病

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 僕は立ち上がり、本棚から紫月病に関する昨年の、王領での記録を探した。
 いくつかの資料を手に、席へと戻って、報告書を開く。

 紫月病は、この王国で冬に流行するのだけれど、何故冬なのかは分かっていない。例年冬に流行するのは間違いないが、人間はその理由を知らない。どのような病気かというと、まず高熱が主症状だ。咳や鼻水、腹痛といった症状は伴わない。熱だけであれば感冒と区別がつかないようにも思えるが、紫月病には特徴がある。右手の親指の爪に、暗い紫色の半月型の痣が浮かび上がるため、すぐに紫月病だと特定が可能だ。その他の症状として、罹患中は必ず悪夢を見る事も有名だ。今は効果的な魔法薬があるから、それを服用すれば三日から一週間程度で症状も痣も消失し、快癒する。冬の間の、王国内の魔力の変動が一因ではないかという説もある。

 ただ薬を適切に服用しない場合、悪夢に飲まれて、目を覚まさなくなる。また熱も下がらず、命を落とす事もある。そのため、過去には多数の死者を出した事もあるし、今の王国であっても、薬の用意が遅くなれば、命に係わる。僕はその流行を危惧して、早くから備蓄を命じてきた。

 僕はSub dropをしたり、精神的には脆弱な部分があった日々を送ってきたけれど、肉体的には健康優良児で、食事が受け付けないような事はあっても、これまでの人生で風邪や流行病は一度も罹患していない。

 けれど、悪夢の辛さは、よく分かっている。
 それもあって、この病気への備えには気合いを入れた。

「魔法薬は足りるかな……あまり広まらずに、流行がおさまるといいんだけど……」

 僕は両手の指を組んで、机の上に肘をつく。手の上に顎を載せ、静かに祈った。

 ――その夜のクライヴの帰還は遅かったけれど、僕は玄関で出迎えて、おかえりなさいのキスをした。クライヴは僕を両腕で抱き留め、キスを返してくれた。その後は二人でまっすぐに食堂へと向かって歩いた。そうしながら、僕は尋ねる。

「紫月病の様子はどうなの?」
「患者の隔離を医薬院で行って、魔法薬の投与をしている。ただ、原因不明の病気だからな、隔離しても移る事もあるし、厄介だ。どんどん報告数が上がっていて、特に子供達の間で流行を見せている。幼子は家族が面倒を見る事になっているから、そこから大人への感染も広がる可能性が高いだろうな」

 僕は頷きながら聞いていた。小さな子供達は、教会に付属する学び舎で文字などを習うことが多いから、集団で感染しやすいらしい。ただクライヴもいった通りで、罹患する経路は不明である。とはいえ他の流行性の感冒などを考えると、やはり同じ空間にいると移りやすいのではないかとは、言われている。

「明日からは、各地の教会付属の医薬院と連携をとって、報告の経路をもっと整備しながら、ルイスが用意してくれた備蓄を配布する事になる」
「魔法薬、足りそう? それに熱の間は、毛布とかももっと必要になると思うし……」
「今のところは潤沢で、足りすぎているほどだよ。ありがとう、ルイス」

 そんな話をしながら、僕達は食堂へと到着した。
 そしてその場でも、今後の打ち合わせを行った。

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