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―― 第一章 ――

【第七話】客室

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 ゼクスが案内されたのは、地上六階にある客室だった。貧民街のゼスペリア教会の礼拝堂と同じくらい広い。乗船できる人数が限られているというのに、このように広い部屋が用意されている事に、ゼクスは驚いた。その上、小さな祭壇付きの部屋まで付属している。

「ここを俺が使っていいのか?」

 問いかけたゼクスに対し、リビングのソファに座りながら高砂が頷いた。
 吹き抜けのアイランドキッチンで、時東は珈琲を淹れている。

「俺と時東もここで過ごすから、三人部屋だね」
「な、なるほど。でも……お前らって船の設計者なんだろう? どうして俺を迎えにきたり、一緒の部屋で過ごしたりするんだ?」

 おずおずとゼクスが問いかけると、カップを持った時東が戻ってきて、高砂の斜め隣に座った。ゼクスは高砂の正面に腰を下ろす。

「――〝救世主の遺伝子〟の関係だ」

 時東はそう述べると、カップを傾けた。高砂は退屈そうな顔をしている。

「救世主の遺伝子?」

 ゼクスが首を傾げると、高砂が溜息を零した。

「俺と時東は、偶然なのか必然なのか分からないけどね、それぞれ古い家柄の出身で、そこには特定の遺伝子が伝わっていると言われているんだよ。それを、〝救世主の遺伝子〟と呼んでる。理由は、前回の〝大洪水〟を生き延びた、その生き残りの血筋にのみ宿るとされているからなんだ。〝救世主の遺伝子〟の持ち主がいると、〝神の怒り〟が和らぐという伝承がある」

 高砂の言葉に、時東が大きく頷いた。

「俺はあまり非科学的な事は信じたくないんだが、確かに俺と高砂には類似の遺伝子がある。血縁関係なんかは無いんだが。そして今回、ゼクス。お前からもそれが見つかった」
「え?」

 突然の話に、ゼクスは目を丸くする。すると高砂が窓の方を見た。

「神の挙げた乗船リストの一人一人は、密かに身体状態などを受診履歴などからチェックされていたんだよ。恐らく、乗船資格自体にも、この遺伝子が関わっているんじゃないかと言われている」

 最後に病院にかかったのはいつだっただろうかと、ゼクスは回想してみたが、思い出せなかった。貧民街の孤児は貧乏だから、基本的に病院などにはあまり行かない。ゼクスもその例に漏れず、自宅で市販薬を飲む事の方が多かった。もしかしたら最後にかかったのは、義務教育時代だったかもしれない。性差検査よりも前だ。

「この船の中で、〝救世主の遺伝子〟を持つ内、特にその特色が色濃く出ているのが、俺達三人なんだ。要するに、ここで『保護』されるという事になる」

 時東の補足に、ゼクスは困ったように瞳を揺らした。



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