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―― 第三章 ――
【016】伝説の杖
しおりを挟むぎゅっと抱きしめられたままで、俺はポカンと青年を見上げる。背が高い。俺も低いわけでは無く平均的なのだが、見上げないと顔が見えない。その顔であるが、繰り返すが整っている。この人物に恋人がいたら、間違いなく兄は喜ぶだろう。
「怪我は?」
「あ……だ、大丈夫です。ありがとうございます!」
俺は慌てて体勢を立て直そうとした。すると俺を腕から解放し、青年が微笑する。
「この街の者か?」
「あ……っと、いえ……旅の者です」
異世界から来たとは言いにくくて、俺は濁した。そうしたら、青年が口角を持ち上げた。
「俺も旅をしているんだ。今日この街についたばかりでな。宿を探しているんだ。どこか知らないか?」
「宿……俺達……というのは兄とかが泊まってる宿なら、まだ空室があるみたいだったけど」
「なんという名前だ?」
「【宿屋・柊】です」
「そう畏まった口調じゃなくていい。俺はルカス。お前は?」
「そう? 俺は、陽射」
「ヒザシか。よろしくな。ありがとう、俺はそこに行ってみる。また会おう」
ルカスはそういうと歩きはじめた。振り返って見送ると、あちらも振り返っていて、ひらひらと手を振っていた。俺も反射的に手を振る。確かに宿が同じならば、また会うかもしれない。
「だけど何も無いところで転ぶなんて……なんか風に足を掬われた気がしたんだけどな?」
不思議な気分で、俺は前に向き直る。
そして静かに歩きはじめた。
――たどり着いた衣類店には、ファンタジックな服がたくさんあった。まさにゲームの主人公や脇役が着ていそうな服で、俺は深緑色のサマーニットを手に取ってみる。首元には紐が付いている。下衣は、少しゆるめでだぼ着いているポケットが付いたものを選んでみた。ベルトで止める形で、小さなカバンがついている。色々入れるのに便利そうだ。
試着室があったので着てみてサイズが合うことを確認してから、俺は【神様モード】でも取り出せると確認していたゴールドを取り出し、支払いをした。紙袋に入れて貰って外に出る。
「魔術師を目指すんだし、それっぽい杖も買いたいなぁ」
続いて俺は、武器屋に入った。壁に掛けられていたり、ショウケースに入っていたり、様々な剣や杖がある。一応物理攻撃用の武器もあった方がいいだろうかと、俺は短剣を手に取った。すると、店主のおじいさんが、俺に歩み寄ってきた。
「なにをお探しですかな?」
「杖を探してるんです。初心者用の」
「――儂は魔力の強さが気配で分かるのじゃが、擬装用でなければ、お主が初級杖を作ったらすぐに壊れてしまうと思うがのう。SSSランク用の杖でも耐えられるかどうか……」
「えっ」
ランクというのは、確か冒険者のランクだ。
「SSSSSランクでも耐えられるとされる杖は、この店には一本しか無い。それは五代前の魔王討伐に同行した魔術師が残したという晶竜の鱗から削り出した玉石が嵌まる、伝説の杖だ。お主にならば、託しても構わぬ。他に使える者もいないしの。それに、杖は善悪を選ぶから、お主が悪しき者ならば、持つ事も出来ない」
「な、なるほど……」
俺は別に善き者でもないので、どうなるか不安に思いつつ、店の奥へと案内して貰った。すると床に魔法陣があり、宙に一本の杖が浮かんでいた。
「手に取ってみるがよい」
「はい……」
言われた通りにすると、杖が俺の手に収まった。何故かとてもしっくりくる。
「さすがじゃ! これからも善きことをなすように」
「努力します」
こうして俺は、短剣は普通に購入し、店を出たのだった。
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