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―― 第二章 ――

【040】新聞

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 カルタをした夜は楽しくて、穏やかだった。
 翌日は休暇だったので、普段よりゆっくりと起きた時生は、部屋で欠伸をした。今日は偲も休暇日だが、昨日の今日で出かけるという話にはならず、本日は各々が礼瀬家で団欒の一時を過ごすこととなっている。

 時生は食後、控えの和室で黒い卓の上に新聞を広げた。
 軍への勤務を始めてから、時生は意識して新聞を読むようにしている。
 本日の一面には、新鹿鳴館がついにお披露目されたと書かれていた。明治に造られた鹿鳴館は既に解体されていて、今回は新しく建設されていたものが、お披露目されたかたちだ。帝都の一角に建築された新鹿鳴館は、以前の西洋館とは異なり、まさに西洋風の城の姿形をしている。写真でその外観を眺めながら、時生は日本の城とはだいぶ異なるなと考えていた。

 異国語に触れているとは言え、文化や実物を知っているわけではないから、海外由来の物事はまだまだ珍しい。

 その後は自室に戻り、仕事でも使うあやかし関連の用語が記された辞書を読んで過ごした。
 そして翌日からは、また軍本部へと顔を出す。
 偲と共に室内に入ると、結櫻が笑顔で挨拶してくれた。そこへ黎千が歩みよってきた。

「礼瀬副隊長」

 彼女は凛とした眼差しを偲に向けると、深々と溜息をつき、腰に両手を当てた。

「透明人間が、今度は無断で映画を鑑賞したという訴えが」
「そうか。それはなんとも立件が難しいな」

 真面目な顔で偲が答えると、虚ろな目をして黎千が頷いた。綺麗な黒髪が揺れている。

「一応、透明人間をひっぱってきたので、隣の聴取室に顔を出して頂けると助かります」
「わかった、今行く」

 偲はそう言うと細く息を吐いてから出て行った。
 その場を見守っていた時生は、黎千を見て、珍しいなと考える。あまり大正のこの世では、女性が軍に所属するという印象が無いからだ。すると視線に気づいた様子で、黎千が振り返った。

「どうかした?」
「あ、いえ……女の方が珍しいなと、その……」

 素直に考えた事を口にした時生を見ると、黎千が目を丸くした。それから小さく笑った。

「あやかし対策部隊では、女性の勤務も珍しくないのよ。特に私のような黎千の――四将の家の者だと、力を持って生まれたら、そもそも所属が生まれつき決定されているようなものだしね。私の弟も、今は士官学校に行っているから、じきにこちらに配属されるもの」
「そうなんですね」
「ええ。弟は時生くんと同じ歳だから、今後会うこともあるでしょう。宜しくね」

 黎千はそう言って笑うと、本部対策室を見た。

「結櫻。私は灰野を連れて、巡回に行ってくるわ」
「はいはい。気をつけてね、黎千」

 結櫻が頷いたのを確認してから、黎千は灰野を呼びに行った。そして出てきた灰野を連れて本部を出て行った。入れ違いに青波が入ってくる。

「結櫻、偲は?」
「今、透明人間の聴取を取ってるけど。どうしたの?」
「ほら、前に澪くんが襲われた事件。あれの死神の残滓の解析が終わったと、鑑識班から連絡が入ったんだ。今、俺が確認してきたんだけどな、それについて情報を共有したいと思ってな」
「ああ、それなら僕が聴取を代わることにして、呼んでくるよ。ちょっと待ってて」

 立ち上がった結櫻が出ていく。すると青波が、じっと時生を見た。

「時生くんも当事者なんだから、気になるよな?」
「は、はい」
「じゃ、一緒に話をしよう。な?」

 笑顔の青波に向かい、緊張した面持ちに変わった時生は、唾液を嚥下してから頷いた。


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