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―― 第三章 ――
【049】紙芝居
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翌日は、昨日と一変して晴れ空が広がっていた。
和服の上に洋装の外套を羽織り、澪と偲と共に、時生は玄関に立つ。
手袋を嵌めた澪は、左右の手で、それぞれ偲と時生と手を繋いでいる。
「いってきます!」
澪の大きな宣言に、横で偲が微笑しながら、見送りに出た静子を見る。
「行ってくる。留守を頼む」
鶴の姿で羽を揺らし、嘴を動かして静子が頷いた。
こうして三人で外へと出て、濡れた路を歩いていく。
「どこへ行く? おれ、おれ、オモチャが欲しいぞ!」
嬉しそうにニコニコしている澪に視線を落とした偲が、柔らかく笑う。
「そうだな。では玩具店へ行くとしようか」
「うん!」
「時生は行きたい場所はあるか?」
「僕は……」
考えてみたが、特に思いつかず、時生は苦笑したまま言葉に窮した。己が幼い頃は、遊びに連れていってもらうという事が無かったため、本当になにも思いつかない。いつも異母兄の裕介は、新しい玩具を買ってもらったとはしゃいでいたが、時生にとってそれは遠い世界の話だった。
「……お二人が行きたいところに、ついていきたいです」
時生がそう答えると、偲が小さく頷いた。一瞬曇った時生の顔に気づいた様子だったが、偲は何も言わなかった。時生にとっては、追求されないことが優しさに感じられた。
その後角を曲がり、玩具店がある通りに出る。
「あ! あれはなんだ?」
すると子供達が集まっている場所があった。
「ああ、紙芝居だな」
穏やかな声で偲が言う。時生も目を丸くしてそちらを見ると、鬼退治をしている桃太郎の絵が描かれていた。
「少し見ていくとしようか」
偲の提案に、嬉しそうに澪が頷く。こうして三人で輪に加わった。
すると続いて、西洋の御伽噺が始まった。城に住まう吸血鬼の話だった。噛まれた人間は新しい吸血鬼になるのだという。そこに描かれている城が、まるで先日お披露目されたという新鹿鳴館のようで、時生はゾクリとしてしまった。御伽噺だと分かってはいても、紙芝居の絵には迫力があり、次々と人に襲いかかり、新たな吸血鬼を生み出す異国のあやかしの姿は恐ろしい。澪も怯えたように、ギュッと時生の手を握った。だから安心させようと、時生は握り返す。偲を見れば、幾ばくか難しい顔をしていた。
紙芝居が終わってから歩き出した時、偲がぽつりと言った。
「子供向けの噺も、真実を含むことはあるものだな」
「え?」
時生が視線を向けると、偲が前を見たままで続ける。
「あやかしの妖力を流し込まれた人間は、あやかしのようになってしまう事があるんだ。操られているとも言えるが」
静かに時生がそれに頷いた時、目的の玩具店へと到着した。
中には、異国風の飾り付けがされていて、緑の小さな杉に、星や白い綿の飾りがついていた。そういえばクリスマスという行事を聞いたなと、懐かしくなると同時に、時生の胸が僅かに痛んだ。その話をしてくれた結櫻は、今頃どうしているのだろうか。偲が信じろと話していたから、時生は信じると決めている。ただ、だからといって、結櫻が何を考え、どのような行動を選択しているのかを理解できているわけではない。
「お父様、おれこれが欲しい」
「ああ、コマか」
「うん! あとこれも欲しい」
「だるま落としだな?」
「やりたい! お祖父様の家で前にやったぞ!」
楽しそうな澪の声で我に返った時生は、その後は二人の玩具選びに付き合った。
和服の上に洋装の外套を羽織り、澪と偲と共に、時生は玄関に立つ。
手袋を嵌めた澪は、左右の手で、それぞれ偲と時生と手を繋いでいる。
「いってきます!」
澪の大きな宣言に、横で偲が微笑しながら、見送りに出た静子を見る。
「行ってくる。留守を頼む」
鶴の姿で羽を揺らし、嘴を動かして静子が頷いた。
こうして三人で外へと出て、濡れた路を歩いていく。
「どこへ行く? おれ、おれ、オモチャが欲しいぞ!」
嬉しそうにニコニコしている澪に視線を落とした偲が、柔らかく笑う。
「そうだな。では玩具店へ行くとしようか」
「うん!」
「時生は行きたい場所はあるか?」
「僕は……」
考えてみたが、特に思いつかず、時生は苦笑したまま言葉に窮した。己が幼い頃は、遊びに連れていってもらうという事が無かったため、本当になにも思いつかない。いつも異母兄の裕介は、新しい玩具を買ってもらったとはしゃいでいたが、時生にとってそれは遠い世界の話だった。
「……お二人が行きたいところに、ついていきたいです」
時生がそう答えると、偲が小さく頷いた。一瞬曇った時生の顔に気づいた様子だったが、偲は何も言わなかった。時生にとっては、追求されないことが優しさに感じられた。
その後角を曲がり、玩具店がある通りに出る。
「あ! あれはなんだ?」
すると子供達が集まっている場所があった。
「ああ、紙芝居だな」
穏やかな声で偲が言う。時生も目を丸くしてそちらを見ると、鬼退治をしている桃太郎の絵が描かれていた。
「少し見ていくとしようか」
偲の提案に、嬉しそうに澪が頷く。こうして三人で輪に加わった。
すると続いて、西洋の御伽噺が始まった。城に住まう吸血鬼の話だった。噛まれた人間は新しい吸血鬼になるのだという。そこに描かれている城が、まるで先日お披露目されたという新鹿鳴館のようで、時生はゾクリとしてしまった。御伽噺だと分かってはいても、紙芝居の絵には迫力があり、次々と人に襲いかかり、新たな吸血鬼を生み出す異国のあやかしの姿は恐ろしい。澪も怯えたように、ギュッと時生の手を握った。だから安心させようと、時生は握り返す。偲を見れば、幾ばくか難しい顔をしていた。
紙芝居が終わってから歩き出した時、偲がぽつりと言った。
「子供向けの噺も、真実を含むことはあるものだな」
「え?」
時生が視線を向けると、偲が前を見たままで続ける。
「あやかしの妖力を流し込まれた人間は、あやかしのようになってしまう事があるんだ。操られているとも言えるが」
静かに時生がそれに頷いた時、目的の玩具店へと到着した。
中には、異国風の飾り付けがされていて、緑の小さな杉に、星や白い綿の飾りがついていた。そういえばクリスマスという行事を聞いたなと、懐かしくなると同時に、時生の胸が僅かに痛んだ。その話をしてくれた結櫻は、今頃どうしているのだろうか。偲が信じろと話していたから、時生は信じると決めている。ただ、だからといって、結櫻が何を考え、どのような行動を選択しているのかを理解できているわけではない。
「お父様、おれこれが欲しい」
「ああ、コマか」
「うん! あとこれも欲しい」
「だるま落としだな?」
「やりたい! お祖父様の家で前にやったぞ!」
楽しそうな澪の声で我に返った時生は、その後は二人の玩具選びに付き合った。
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