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【第十五話】ワルプルギスの夜会における婚約破棄

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 こうして、ワルプルギスの夜会がやってきた。俺はグレイグと同伴する事になったので、共に会場入りしながら、とても複雑な心境だった。ロイ殿下の事を断り切れなかった様子で、非常に迷惑そうな顔をしながら隣に並んでいるクリフが哀れだから、ではない。

 何処からどう見てもロイ殿下の気持ちは明らかなので、このままではグレイグが婚約破棄されてしまう……。ここ最近の話しぶり的に、グレイグは気にしていない様子でもあるが、内心は分からない。本当は、辛いのかもしれない。好きな相手の幸福を願って、身を引いているだけの可能性もある。

 そう考えていたら、時計の針が、午後七時をさした。すると俺の隣に立っていたグレイグがスッと眼を細くした。

「そろそろか」
「?」

 何気なくそちらを見ると、グレイグが一歩前へと出た。すると正面に立っていたロイ殿下が振り返った。こちらも小さく頷いて、何かを心得たというような顔をしている。

「皆の者、よく聞いてほしい」

 ロイ殿下が良く通る声で言った。それから、ロイ殿下は、真っ直ぐにグレイグを見た。

「――グレイグ・バルティミア。お前との婚約を破棄する」

 そして宣言した。俺はその場の光景に、目を見開いた。これは、紛れもなくゲームと同じセリフだ。

「なお、これは円満な相互了解の元の婚約解消であるが、私には王太子という立場がある故、私側からの解消という形をとらせて頂いた」

 しかし、続いて響いた言葉は、ゲームでは聞いた事のないものだった。ゲームにはそんな設定無かっただろ! と、俺は叫びかけたが、ぐっとこらえた。理由は簡単で、俺の目の前でクリフが貧血でも起こしたかのように卒倒してしまったので、支えていたからだ。

「私は、クリフを愛している。クリフ、私と婚約してくれ!」

 ロイ殿下が続けた。クリフは俺の腕の中で蒼褪めながら笑っている。そして『無理。俺は平穏に生きるって決めたのに。今度の転生こそ、平穏に過ごすって決めたのに』と呟いていた。て、転生? もしかして、クリフは俺の仲間かな?

 そう考えていると、グレイグがやってきて、俺の腕からクリフを奪い、ロイ殿下に向かって軽く突き飛ばした。そしてグレイグは、俺の右手を取った。

「俺もまた、新しい婚約者をここに求める。アンドラーデ男爵弟ライナ、俺と結婚してほしい。生涯幸せにすると誓う」
「えっ?」
「何故驚く?」
「え、え?」
「今後は、正式なパートナーとして、そして婚約者、後の伴侶として、永遠に俺のそばにいて欲しい。愛している」
「えええええええ!?」

 俺は思わず声を上げた。この展開は、予想していなかったからだ。

「――だから、何故驚くんだ? ん?」
「い、いやだって……俺じゃ……なんというか、色々と釣り合わない以前の問題で、グレイグはロイ殿下の事が好きなんじゃ……?」
「俺が? ロイ殿下を? 何処からそんな勘違いが発生したんだ? そんな気配があったか?」
「だ、だって……」

 そう言う設定だったし! 俺はそれを信じていたんだよ!

「政略上の許婚ではあったが、それだけだ。殿下もまた愛を見つけた今、俺は不要。そして俺もまた、愛に生きる」
「!!」
「俺はライナ・アンドラーデを愛している。ライナ、好きだ。俺では不満か?」

 ブンブンと俺は大きく首を振った。それから赤面した。嬉しくて嬉しくて泣きそうだ。

「俺と結婚してくれるか?」
「は、ひゃい!」

 大切な所で、俺はまた舌を噛んだ。だが優しく笑ったグレイグに、そのまま右手を握られ、腕を引かれ、そうして抱きしめられた。するとその場に拍手が巻き起こった。チラッとロイ殿下を見ると半ば気絶しているようなクリフを必死に抱えているだけであり、皆が見ているのは、俺とグレイグだった。な、なんだこれ、恥ずかしいな! そう考えていると、耳元で囁かれた。

「有難う、大切にする」
「……っ」
「さて、周知も済んだ事だ。部屋へと戻ろう。ライナの体も良くなったし、俺は公的にお前を抱く権利を得た。その上、お前も俺を好きだと言ってくれる。こんな幸せな夜は無い」

 こうしてそのまま、俺はグレイグに引っ張られる形で、会場から退場する事になった。向かった先は、俺達の寮の部屋で、ベッドの上だった。

「ずっとこうしたかった」

 グレイグは俺をベッドに座らせると、俺の頬を撫でた。そして唇に、触れるだけのキスをした。頬以外にキスをした記憶が俺には無いので、それだけでビクリとしてしまう。

「お、俺も……」
「ん? どうされたい?」
「っ」
「≪教えてくれセイ≫」
「ぁ……キスしてくれ」
「こうか?」

 グレイグは微苦笑すると、俺の頬に口づけた。それはいつも俺がしている事だ。そうではない。俺はグレイグの服の胸元を思わず掴んで、顔を近づけた。

「さっきみたいに」
「――こうか?」

 すると今度は、唇にきちんとキスが降ってきた。その感触に浸っていると、何度か啄むようにキスされた後、顎を持たれて、より深く口づけられた。俺の口腔を、グレイグの舌が嬲る。息継ぎの仕方を知らない俺は、途中で苦しくなって。必死でグレイグの体を押し返した。結果、クスクスと笑って、グレイグが体を離してくれた。

「それとも、ここか?」

 片手で俺の服を開けながら、グレイグが俺の鎖骨の少し上に吸い付いた。ツキンと疼いて、キスマークをつけられたのだと理解する。瞠目している内に、俺は上着を全て脱がせられた。そして優しく寝台へと押し倒される。

「こちらか?」
「っ!」

 グレイグが俺の胸の突起の唇で触れた。それからチロチロと舌先で舐めた。
 その後、今度は口で吸う。そうされると、ゾクゾクとした感覚が、俺の背を這いあがった。グレイグがその時左手で、俺の陰茎を下衣越しに撫で上げた。

「ひ。っ」
「こちらにもキスをしないとな?」
「ぁ……」

 こうして、俺達の夜が始まった。
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