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―― 第一章 ――
【三】インテリジェンス・デザイン――高校生クイズ(予選)①――
しおりを挟むさて、二時間目は、総合的な学習プログラムの時間だった。
簡単に言ってしまえば、自習の時間である。いつもは皆がダラダラと過ごすのだが、この日は違った。
「えー、本日は、テレビ局の撮影が入ります」
来波の声に、時野は息を飲んだ。見れば、顔なじみのADなどが入ってきた。『インテリジェンス・デザイン』という番組名が入った白い上着を羽織っている。
「班ごとに別れて、クイズに挑戦してもらう。抜き打ちだ」
担任の言葉にクラスがざわついた。いくらなんでも、テレビ局も事務所も仕事が速すぎるだろうと泣きそうになる。その上、班ごとである。好きな相手と、と言う組み分けだったらあぶれる可能性が高いため辛いところだったが、班ごとも今回の席順に限っては同じくらい辛い。
それから時野に気づいたスタッフ達は、お辞儀をしたり手を振ったりした。時野は必死で会釈を返す。その後、テレビ局の人々が、番組について説明した。この学園には時折テレビが入るから、皆がお祭り気分で盛り上がっている。憂鬱な顔をしているのは、ある意味時野だけだ。いいや、よく見渡せば、そんな事は無かった。
「怠っ」
班で机をあわせるため、移動させながら相が呟いた。心底面倒くさいという顔をしていた。座り直した相は、着崩した制服の首元を弄っている。彼も時野の同類だ。
一方、縁は満面の笑みを浮かべていた。
「面白そうですね。私に挑戦するとは良い度胸です」
実に楽しそうだ。内心溜息をつきながら、時野は机を動かした。そして要を見る。
要は笑うでも怒るでも不安がるでもなく、本当にいつも通りの無表情だった。
「全問正解した班には、賞金五十万円です」
響いた声に、どよめきが起こる。縁がスッと目を細くした。
「はした金ですね」
「寿司、良いよな」
しかし相が不意にそんなことを言った。それを見た縁が、頬杖をつく。
「寿司ですか? 貴方は焼き肉派に見えますが。それも庶民が行く典型例の食べ放題」
「俺はなぁ、油ものはあんまり好きじゃねぇんだよ」
答えた相は不機嫌そうに見える。怖い。だが縁に恐れは見えない。
「あなた達は、賞金を何に使いたいのですか?」
縁に問われ、時野は唇を指で撫でた。別に欲しいものはない。要の様子を窺うと、彼は配布されているタブレットを受け取っていた。
「俺はいくらが食べたい」
視線に気づいた様子で要が言う。寿司に行く流れなのかと思案してから、時野も答えた。
「俺は中トロ」
「私は卵一択です」
縁がそう締めくくった時、再びテレビ局スタッフによる教示が入った。
「今からモニターに問題を映します。皆さんは、タブレットに回答を書いて下さい。全部で七問です」
四つ合わせた机の中央に、要がタブレットを置く。
Eというラベルが付いていた。ここは暫定的にE班となった。テレビカメラは他の班も映しているのだが、時野がいるこの班だけ、二台設置されている。
その内に、モニターにデフォルメされたピエロが現れた。
『一問目――国語です』
笑みを含んだ音声が流れるのに合わせて、ピエロの口も動く。
そう言えば全国の高校で行うらしいと時野は思い出した。一般常識クイズか何かなのだろうか。画面を見守っていると、漢字が表示された。
『黄玉――読み仮名を書いて下さい』
時野は目を伏せた。コウギョク? 聞いたことがない。それから目を開けると、縁が難しい顔をしていた。
「キイロダマ? これは、日本語ですか?」
「全然分からない」
要が呟く。あ、一問目で全滅か。時野は、少し気が楽になった気がした。
「トパーズに決まってんだろ」
だが、さも当然だという風に相が言った。ト、トパーズ……? どこをどう読めばそうなるのかさっぱり分からなかったが、確かにトパーズは黄色い石といえないことはない。要が納得したように頷いている。時野が見守っていると、縁がタブレットにトパーズと書いた。少しだけ、ドキドキした。
『正解は、トパーズです。第一問通過者は、A班、B班、E班です』
ピエロが言った。安堵すると同時に、意外とみんなできるんだなと時野は驚いた。
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