ゼーレの御遣い

猫宮乾

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―― 本編 ――

10:振り返る(★)

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 ここのところ過去のことを思い出すことが多いからなのか、一人きりになった教務室で、ぼんやりとルカは机の上に両手を置いていた。ゆるく握った両掌の合間には、十字架がある。

 十字架クロスには、様々な思い出がある。思い出なんてものがルカは嫌いだった。けれど問答無用で訪れた新しい季節ーーそれが巡り、おのれにはたくさんの生徒ができた。そんな新しい日々の中で、いつしか忘れそうになり、けれどーーああ、あの忌々しい出来事はそれでも色褪せない。忘却してくれた周囲の優しさに甘えることがためらわれてならない。

 それでも〝明日〟はやってくる。
 時折自分がどこに立っているのか見失いそうになる。
 そんな時、助けてくれるのが生徒たちなのだとルカは思っている。

「今度こそ、僕は負けない」

 御遣いの好きになんて、ラファエルの好きになんてさせない。
 決意を新たに、ルカは回転椅子を回した。

「!」

 そして立ち上がろうとして硬直した。
 一体いつの間に入ってきていつからそこにいたのかーー笑みを浮かべたラファエルの姿があったからだ。

「どなたと勝負をしているのですか?」
「っ、ぁ」
「まさか私と勝てるはずもない勝負をするつもりではないでしょう?」

 ラフはそう言うとルカの首に手を回し、顔を近づけた。覗き込まれ、唇と唇が触れ合いそうになる。その息遣いを感じるだけでもルカの体は熱くなった。

「ボタンを外しなさい」
「だ、誰が」
「脱がせて欲しいのですか?」

 そう言った端正なラフの手が、ルカのローブをはだけ、シャツのボタンにかかる。
 プチプチと外され、それからあらわになった鎖骨を撫でられた。
 自分とは異なる体温が、ひんやりと首元をなぞって行く。

「止めろ!」

 その手を振り払って突き飛ばし、ルカは後退した。椅子が倒れて軋んだ音を立てる。

「っ」

 しかし唇を引き結んで息を飲んではいたが、すでにその頬は紅潮していた。
 艶を宿した瞳が、悩ましげに歪められている。
 じかに肌と肌が触れ合ったせいで、すでに体の中心には熱が灯っていた。

「ーー冗談です、冗談ですよ、今日に限ってはね」

 そんなルカの様子に、ラフが苦笑交じりに吐息した。

「え?」
「もうじき、全学科共通の、学年単位の校外学習があるではありませんか」
「え、あ、う、うん」

 今だ早鐘を打つ駆動を諌めるように両手を胸に当てながら、垂れてくる汗を実感しつつルカは頷いた。

「次は一学年のみ、最低単位が四人だと人間が決定したと行きいていますが」
「ーー生徒と教員で二、最低二名以上の生徒で構成される班になるから、四人だと決まっているけど……」
「あまり多人数がいて足手まといになっても困るので、お誘いに上がったのです。コールは照れているのか直接エルを誘えないそうで」
「……どういう意味?」
「私とコール、エルと貴方で、班を組みましょう。私がいる限り襲撃など何の問題にもなりませんが、万が一に備えるならばこの学園においては貴方より頼りになる〝人間〟はいない」
「どうして僕があなたなんかとーー」
「それは私情ですね。では返しますが、魔術科の生徒と他の一体誰が班を組むというのですか? それも、時期教皇のコールの誘いを断った相手と」
「それは……」
「私のことが嫌いなのであればそれはそれで結構ですが、職務に私情を挟むのですか?」

 いつになく真摯なラファエルの言葉に、俯きながらきつく唇をルカが噛んだ。

「ーー分かりました」

 このようにして第一学年の校外学習の班わけの一つが決定した。


「それにしても、本当に生徒には甘いのですね」
「え?」

 瞬間、気がつくとルカは、強く腕をひかれ抱きしめられていた。

「あ、あ、あ」

 その体温だけで、背筋を快楽が這い上がって行く。
 びくりとした後弛緩した様子のルカの、はだけた首元に、ラフが唇を落として強く吸う。

「うン、っ」

 白い肌には真っ赤な花びらが散った。その甘い衝撃にくずおれたルカを両腕でだき、ラフもまた座る。そのままするりと下衣の中へと手を差し入れた。

「ひゃッ」

 緩慢に陰茎を撫でられた瞬間、ルカの理性は溶けた。
 焦点が合わなくなった瞳で、ラフを見ている。

「余程私にさわられたかったようですね」
「……っ、そんなはずが」
「では抵抗なさい。今日は、"仕事"の話し合いに来ただけなのですから」

 その言葉にルカは、目に力を込め眉間にシワをよせた。眦からは涙がこぼれる。

「どいて」
「本当に、離れて良いのですか?」
「いいから」

 するとあっさりとラフが体を起こした。そして静かにルカを座らせる。

「我慢、できるのですか?」
「っ、うるさい」
「自分で手淫なさるのですか?」
「う、うるさ……」
「前だけで満足できるのですか?」
「……」
「それとも後ろもご自分で?」

 そう言うとラフが、ルカの腕を引き正面から抱きしめた。それからら耳元へ唇を落とす。

「手伝って差し上げましょうか?」
「う、あ」

 プツン、と。音を立てて、ルカの理性が途切れた。

「や、やぁあ……」

 涙が双眸からこぼれ落ちてくる。

「挿れ……う、ッ」
「いいでしょう」

 その言葉とほぼ同時にルカの体をうつ伏せにし、下衣を強引に取り去る。

「ああああーー! ぅあああ!」

 そしてならすでもなく、ラフが腰を進めた。
 その衝撃がどうしようもないほどに気持ちよすぎて、ルカは背をしならせる。

「あ、ああっ、あああ」

 それでも無意識に逃れようとするかのようにルカが腰を引く。
 ラフはそれを許さないというように、体重をかけてルカの背に顎を置いた。

 水音が響くほど、何度も何度も腰をうちつける。

 その音に羞恥を煽られるというのに、もう真っ白になったルカの思考には、ただの悦楽しか浮かんでは来ないのだった。


 目を覚ますと、仮眠室のベッドの上に横になっていた。
 気だるい体で周囲を一瞥すると、サイドテーブルにラファエルが座っていた。

「おや、お目覚めですか」
「……帰って」
「言われるまでもなくそのつもりでしたよ。ですが起きてそうそう、それほど冷たい言葉をかけなくてもいいのではありませんか?」
「……」
「私も傷つくのです、こう見えて」
「傷つく?」
「戯言です。忘れてください」

 それだけ言うとラフは部屋を出て行った。
 残されたルカはただそれをぼんやりと見送ったのだった。


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