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―― 第二章 ――
【037】神様との再会
しおりを挟む目を開けると、正面には光球があった。千二百年ぶりにみる、自称神様だった。
「魔王業はどう?」
「……その」
「嫌になっちゃった? まぁ、種族とか技能とか、与えた特典とかはもう変えられないけど、魔王はあくまでも職業だからさ、他のことをやりたくなったら、とりあえず魔王のところには名前だけ残して、他のことして過ごしても良いからね。君の十代前の魔王なんて、面倒くさいから一魔術師になりますって言って、魔術師として暮らしてたよ。その後他に魔王になりたいって人がいたから、魔王を辞めてもらったんだけどさ。彼も不老不死だったから、今でもどこかで魔術師をやってるかもね」
自称神様の朗らかな声に、何となく僕は脱力しそうになった。
こんなに簡単に会いに来られるのならば、もっと早くにそうすればよかった。
「やだなぁ、今回は特別だよ。面白いことするみたいだったから、この空間に入らせてあげただけ」
すると笑い声と共に、僕の心を読んだらしく、自称神様が言った。
「『帰還できないこと』と『魔王は悪くない』ことを、これから、あの世界から勇者召喚が行われた時に表示すれば良いんだよね? 基本的にこの空間を経由して、勇者の召喚は行われるから、任せて」
僕は笑顔を浮かべながら、心を読まれないようにする魔術を発動した。
効果があるのかは分からないが。
「――……その勇者達にも、特典はつくんですか?」
「基本的に勇者特典はつくよ。魔王や魔族に対しては、凄い力を発揮するようになる。剣とか魔術とかの力も凄くなるよ。後は一つか二つ、時と場合によってついてる。それが何かは人によるけど」
「もし、二つの条件をのんで、あちらの世界に来る勇者がいたら、もう一つ特典をつけてもらえませんか?」
「ん、聞くだけ聞いてみようか。言うのは自由だからね。君もつれないなぁ、心を読めなくするなんて。相手は僕――神様なのにさぁ」
「不死の魔王アルトを殺すことが出来る」
「うーん、却下だね。何、生きるのに飽きちゃった?」
「……」
「却下の理由はね、基本的に勇者って一人なんだよね。魔王が一人、勇者が一人。召喚された人だろうが、そうじゃなかろうが、各世界に本物の勇者は一人だけなんだ。だから、今後何人も勇者が召喚されるかも知れないけど、その一人一人にそんな特典つけるのは、それも二つの条件で選りすぐった勇者にだけ、その特典を与えるのはさ、結構大変なんだよね。せめて君の世界だけの神様やってるんなら良かったんだけど、ほら勇者や魔王がいる世界は、君の今いる世界だけじゃないし」
「今、僕の所にいる勇者は、本物の勇者ですか?」
「さぁね。どうかな」
「どっちでもいいです。彼に、僕を殺せる能力を授けて下さい」
「神様的には、一人間を依怙贔屓するわけには、行かないんだよね。それに、彼だって勇者だから、勇者の特典は持ってる」
「彼も勇者です。普通の人間じゃない」
「でもさ、彼。アルト君の事、殺すつもり無いみたいだけど?」
「なんとかします」
「確かに君の側の特典を君の側から削ることは出来なくても、相手にその特典を打ち消すって言う特典が有れば、不老不死の君を殺す、っていうのは可能だけどさ……君って結構自分勝手なんだね。君に死なないで欲しいって思ってる人が沢山いるのに、死のうだなんて」
「……」
「じゃあ、こうしよう。君に心から愛する人が出来て、君が死にたくない、ずっと一緒にいたい、と思った時、その時に君を死ねるようにしてあげるよ」
「……え?」
自慢ではないが、千二百年生きてきて、そんなことは一度も無かった。無かったのだ。一体いつ、愛する人など出来るのだろう。全く想像もつかない。
「これが神様の優しさ。最大の譲歩だ。じゃ、条件提示の件も了承したし、もう話は終わりかな」
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