魔王の求める白い冬

猫宮乾

文字の大きさ
58 / 84
*** 過去:Ⅲ ***

【059】過去――初めての勇者②

しおりを挟む
「そんなのおかしいよ。魔族だろうが人間だろうが、悪は悪だし、正義は正義なのに」
「――魔王様は、死ぬのが恐ろしいですか?」

 その時ロビンが言った。
 だから僕は率直に頷いた。

「怖いよ」
「ですが此処にいる皆は、魔王様のためにであれば、死ねるのです」

 ロビンの言葉に僕は目を瞠った。

「嘘――だよね?」

 掠れた僕の声に、だけど誰も答えてくれはしなかった。

 玉座の間の扉が開かれたのは、丁度その時の事だった。

「此処まで来るのは、長かったぜ! 魔王! 人間を苦しめた責任、絶対とってもらうからな」

 入ってきたのは、勇者パーティだった。
 僕はただ、目を見開くしかない。
 椅子に座ったまま、僕は、剣を抜いた勇者が斬りかかってくる様を眺めていた。

 すると、正面にいたシモンがたち、剣から庇ってくれた。
 僕の顔まで、血が跳んでくる。

「死ね」

 勇者の言葉に、動けないまま、僕はシモンの体を受け止めた。
 シモンの体は徐々に砂へと代わり、宙に溶けるように舞い始める。

「死ぬのはお前だ」

 バルがそう言うと、手を振りかぶった。
 僕は反射的に声を上げる。

「待って、そんなの駄目だよ! 殺さないで」

 するとバルの手が、勇者の首から逸れた。肩口だけを切り裂く。

「優しいフリをするのか? お前のせいでどれだけの人が亡くなったのか、知らないのか!?」

 勇者はそう言うと、僕の喉へと、剣を突きつけた。
 左右から、バルとロビンが駆け寄ろうとする。
 消えゆくシモンの事は、リクスが支えていた。

「お前が、お前さえいなければ――……!」

 勇者はそう言うと、僕の心臓を剣で貫いた。

「魔王様!!」

 ロビンの叫び声が聞こえた。
 僕は傷口に熱を感じながらも、ただぼんやりとしていた。

 僕は、人に何かをした事など無いのに。なのに、どうしてこんなに恨まれているんだろう?



 次に僕が目を覚ました時、僕は寝台に横たわっていた。

「お目覚めですか?」

 どうやらずっと隣の椅子に座っていたらしいロビンに声をかけられた。

「――僕は、不老不死だからね」
「心配いたしました」
「有難うね」
「シモン様の弔いに出て参ります。何かございましたら、早急にお呼び下さい」
「待って。僕にも行かせて」

 僕は、重い体を叱咤して、起き上がった。

「ですがまだご静養された方が……」
「だって、僕を庇ってくれたんだよ」


 こうして僕は、玉座の間へと戻った。
 そこには青緑色の砂がら、宙に浮いていた。

「魔族は、死ぬと砂になるのです」

 ロビンの解説に頷きながら、僕はその砂を手で集めた。

「瓶とか、ある?」

 僕が尋ねると、すぐにロビンが、コルクで蓋のされた小瓶を持ってきてくれた。
 その中に砂を入れてから、僕は振り返った。

「お墓って何処にあるの?」
「ハカですか?」

 ロビンは、訳が分からないといった顔で、首を傾げた。
 だから僕は、小瓶を大切に抱えてから、外に出る事を決意した。

「この前連れて行ってくれた丘に、また連れて行って」

 そしてその丘に、最初の墓標が出来た。
 瓶をおさめた石の扉のすぐ側に、木製の十字架を立てる。

「これはなんですか?」
「お墓だよ」
「ハカ?」
「生き残った人達が、故人を偲んだり、自分自身に決着をつける場かな」

 そんなやりとりをしてから、僕ら戻ったのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

処理中です...