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―― 第五章 ――
【080】恋を知る
しおりを挟む翌日からも旅は続いた。
この度の目的は、《聖都:ローズマリー》への勇者の帰還だ。
あと十日ほどで着くのだと、僕は聞いていた。
そんな事よりも、だ。
――何よりもオニキスと体を重ねてしまったことが、恥ずかしくて仕方がない。
いよいよまともにオニキスの顔が見られなくなり、目があったりしただけでも苦しくなって胸が疼く。
その感情は、自分自身が死を選ぶために、と言う理由とは、何処か乖離しつつあった。
もしかしたら、僕は初めて、恋というモノを知ったのかもしれない。
そんな事を考えながら、今日も宿の同じ部屋で、それぞれのベッドに横になる。
体を重ねたのはまだ一度だけだったが、それでも横になる度に、僕は思い出してしまうのだ。オニキスの温度を。寄せ合った体のことを。
今日もきっと何もない――それを僕は分かっていた。
オニキスの優しさを、もう僕は多分知っている。初めての時に僕が狼狽えて困惑して泣いてしまったから、きっと、何もしないんだと思う。
そして僕は、あの温度を確かにまた感じたいと思っているというのに、実際怖くて仕方がないのだ。それは痛みが多少あったからなんかじゃなくて、まるで自分の体が、自分のものではなくなってしまうような感覚が怖いのだ。
気づかれないように溜息をついて、僕はシーツを握りしめた。
そうしていた、時だった。
「――アルト。聞いてもいいか?」
もう既に聞いているじゃないか、なんて軽口を、その時心臓がバクバクと音を立てていた僕は言えなかった。
「何?」
「お前は何度も倒されてきたんだろう? 勇者は、何人来たんだ?」
「三百年に一回くらいだから、四・五人だよ」
「俺の前の勇者は、どんな奴だった?」
「――召喚されて、異世界から来た勇者だったよ」
ただの雑談だと安堵しながら、魔王になって九百年目だったその時のことを思い出す。
「その勇者は何をした?」
「なんだかね、勇者として召喚された弟のお兄さんだったらしくて、弟を救うために僕を倒したんだ。何だろう、巻き込まれ型って言うのかな」
思い出せば苦笑が浮かんでくる。あの頃は既に、勇者が《ソドム》に入った時点で、総員待避を魔族に命じていたから、被害にあった魔族の数は少なかった。
「その前は?」
「転生勇者だった。異世界で生きていた時の記憶を持っていたらしいよ」
淡々と告げたアルトの声に、オニキスが目を伏せた。
「――そいつは、どうしたんだ?」
「最終的にはお姫様と結婚したんだったかな」
確かそれは六百年くらい前の話だった。懐かしいなとアルトは思う。
「そうか……転生、か。やはり転生すると、見目も変わるのか?」
「性別すら変わることがあるみたいだよ」
「――そうなれば、もう、仮に嘗て他の世界があるとして、そこで共に過ごしていても、もう分からないのか?」
「どうなんだろう。他の世界って一口に言ったとしても、様々な土地があるからね。必ずしも同じ時間で近い距離で生きていたとは限らないんじゃないかな」
「そうか。なるほどな」
そんなやりとりをしてから、今度は僕が聞いてみることにした。
「――オニキスが育った村は、どんなところだったの?」
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