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企画参加
【おいしいごはんBL】ベッドの中で甘味を食す。(一)
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※ #ルクイユのおいしいごはんBL という素敵な企画に参加させていただきました。
スイーツでも可ということでしたので、かなみず×スイーツです。
(一)はまだ付き合う前です。
「遊佐君はさ、寝ながら食べたことはない?」
ある日の昼休み。クリームパンを食べる彼方が話題を振ってきた。
(まさか枕を食べるとかじゃないよね?)
一瞬過ぎった馬鹿っぽい回答を捨てる。
『俺はない。でも、朝起きたら棒付きアイスとか、米粒のついたお茶碗が洗面器に漬けてあった、という話は聞いたことあるよ』
半分になったハムエッグのサンドイッチを噛んだまま、ノートに書いた答えを彼方に見せた。
「あ、そっちじゃなくてね。こう……ソファに寝っ転がりながらお煎餅齧るとか、映画を鑑賞しつつポテチの袋に手を伸ばすとか」
彼方は笑うが、水樹からすると衝撃的な話なので目を丸める。
『彼方君はあるの?』
「もちろん! 今言った話もそうだし、ベッドでチョコレート菓子やクッキーを食べたこともあるよ!」
機嫌良く得意げに話され、水樹は自分がベッドで食べてみるところを想像してみる。
遊佐家の冷凍庫に常備してあるチョコレートアイス。しかし食べている最中に眠気が襲いかかり、翌朝起きたら枕元と頬を茶色でベトベトに汚す。母の雷が落ち、遊佐家アイス禁止令は間逃れないだろう。
『母さん、チョコレートアイス大好きだから禁止令は回避しないと……』
「な、なんか想像力が豊かだね!?」
「まあ、僕もよく怒られてたよ。太るからって」と苦笑いのフォローが入る。理由は違えど、寝ながら食べるには多少のリスクが伴うことがわかり、話題は呼び出しアナウンスが終了させた。
「あ、どら焼きだー!」
帰り道、どら焼きを売るワゴン車があった。
定番のあんこだけでなく、数種類から選べるクリームたっぷりのどら焼きや、フルーツが入って見映えに惹かれるどら焼きなど種類も豊富だ。
「アニメキャラクターの焼印が入っているものまであるよ! 遊佐君、どれか食べる?」
彼方が指をさした場所にはアニメコラボの旗が靡いており、それを目当てに並ぶ客も多そうだ。
食べないという選択肢はないらしく、無意識なのか頭を動かして流れているBGMのリズムを取っている。
『俺はコラボ商品のあんこにしようかな』
「じゃあ、僕はそれのチョコ味にしよう」
うきうき気分で並んだ水樹達だったが、コラボ商品のチョコ味は一個前の客で売り切れたようだ。長蛇の列ができていたので仕方ない。
彼方もあんこに変更しようとしたが、水樹達の番で最後の一個。
ベンチに並んで座り、どら焼きを割って半分こにする。
「いいの?」
頷くと、彼方は喜んで受け取ってくれた。
「美味しい……。あんこがちょうどいい塩梅で、ふっくらした皮がまたいいね。こりゃあ、コラボじゃなくても買いだ」
頬が緩んでいて、「頬っぺた落っこちちゃうねー」と頬に手を当てていた。
味の感想は披露された食レポ通りだ。中のあんこは甘過ぎず、たっぷりのクリームやフルーツとも相性がいいのだろう。温かさの残る柔らかい皮だから、お年を召した方や小さい子供まで幅広い世代から愛されるはずだ。
「ふふん、美味しいー」
(幸せそうな彼方君を見ると、さらに美味しく感じるな)
普通に食べても美味しいものを、彼方と笑って一緒に食べる。それだけでお腹も心もいっぱいになる。
毎日味わう食の時間を水樹は楽しみにしていた。
(いつか友達同士の大定番、お泊まり会をやってみたい。そうしたら寝ながら食べ……、あっ)
水樹は急いでメモにペンを走らせ、つんつん、と彼方の肩を突いた。
『どら焼きって、お布団みたいだよね』
食べながらじっと見つめられる。説明不足だろうかと水樹は書き足す。
『上の皮が掛け布団で、下の皮が敷布団。ほら、小豆枕だってあるよ』
最後の小豆枕は少々強引だったかもしれない。ぽかんと見つめ返されて正気に戻る。耳の熱さが夕風で冷めることを祈ろう。
「……そう言われてみればたしかに」
彼方は右手に持つどら焼きを後ろへ引き、うんうんと頷く。再び水樹に視線を移動させると、にっこり笑った。
「さぞ温かくて柔らかい布団だろうね。夢があるなー。本当に横になって食べてみたい」
話題に合わせてくれたのかと思ったが、彼方は赤い空を見て「僕なら寝る前に全部食べて、布団の機能なくしてしまいそう」と声の調子を上げて話を膨らませた。
「遊佐君、着眼点がいいね。心をくすぐる素晴らしいアイディアだ」
(ユニークなアイディアを発表する授業じゃないのに……)
この話題自体、昼休みの延長線だ。
食べたら寝れなくなる。聞いた者にイメージを湧かせるような続きも考えていなかった。
(それでも、彼方君に褒められたら嬉しい)
あんこ以上に、水樹は甘い気持ちになって笑った。
スイーツでも可ということでしたので、かなみず×スイーツです。
(一)はまだ付き合う前です。
「遊佐君はさ、寝ながら食べたことはない?」
ある日の昼休み。クリームパンを食べる彼方が話題を振ってきた。
(まさか枕を食べるとかじゃないよね?)
一瞬過ぎった馬鹿っぽい回答を捨てる。
『俺はない。でも、朝起きたら棒付きアイスとか、米粒のついたお茶碗が洗面器に漬けてあった、という話は聞いたことあるよ』
半分になったハムエッグのサンドイッチを噛んだまま、ノートに書いた答えを彼方に見せた。
「あ、そっちじゃなくてね。こう……ソファに寝っ転がりながらお煎餅齧るとか、映画を鑑賞しつつポテチの袋に手を伸ばすとか」
彼方は笑うが、水樹からすると衝撃的な話なので目を丸める。
『彼方君はあるの?』
「もちろん! 今言った話もそうだし、ベッドでチョコレート菓子やクッキーを食べたこともあるよ!」
機嫌良く得意げに話され、水樹は自分がベッドで食べてみるところを想像してみる。
遊佐家の冷凍庫に常備してあるチョコレートアイス。しかし食べている最中に眠気が襲いかかり、翌朝起きたら枕元と頬を茶色でベトベトに汚す。母の雷が落ち、遊佐家アイス禁止令は間逃れないだろう。
『母さん、チョコレートアイス大好きだから禁止令は回避しないと……』
「な、なんか想像力が豊かだね!?」
「まあ、僕もよく怒られてたよ。太るからって」と苦笑いのフォローが入る。理由は違えど、寝ながら食べるには多少のリスクが伴うことがわかり、話題は呼び出しアナウンスが終了させた。
「あ、どら焼きだー!」
帰り道、どら焼きを売るワゴン車があった。
定番のあんこだけでなく、数種類から選べるクリームたっぷりのどら焼きや、フルーツが入って見映えに惹かれるどら焼きなど種類も豊富だ。
「アニメキャラクターの焼印が入っているものまであるよ! 遊佐君、どれか食べる?」
彼方が指をさした場所にはアニメコラボの旗が靡いており、それを目当てに並ぶ客も多そうだ。
食べないという選択肢はないらしく、無意識なのか頭を動かして流れているBGMのリズムを取っている。
『俺はコラボ商品のあんこにしようかな』
「じゃあ、僕はそれのチョコ味にしよう」
うきうき気分で並んだ水樹達だったが、コラボ商品のチョコ味は一個前の客で売り切れたようだ。長蛇の列ができていたので仕方ない。
彼方もあんこに変更しようとしたが、水樹達の番で最後の一個。
ベンチに並んで座り、どら焼きを割って半分こにする。
「いいの?」
頷くと、彼方は喜んで受け取ってくれた。
「美味しい……。あんこがちょうどいい塩梅で、ふっくらした皮がまたいいね。こりゃあ、コラボじゃなくても買いだ」
頬が緩んでいて、「頬っぺた落っこちちゃうねー」と頬に手を当てていた。
味の感想は披露された食レポ通りだ。中のあんこは甘過ぎず、たっぷりのクリームやフルーツとも相性がいいのだろう。温かさの残る柔らかい皮だから、お年を召した方や小さい子供まで幅広い世代から愛されるはずだ。
「ふふん、美味しいー」
(幸せそうな彼方君を見ると、さらに美味しく感じるな)
普通に食べても美味しいものを、彼方と笑って一緒に食べる。それだけでお腹も心もいっぱいになる。
毎日味わう食の時間を水樹は楽しみにしていた。
(いつか友達同士の大定番、お泊まり会をやってみたい。そうしたら寝ながら食べ……、あっ)
水樹は急いでメモにペンを走らせ、つんつん、と彼方の肩を突いた。
『どら焼きって、お布団みたいだよね』
食べながらじっと見つめられる。説明不足だろうかと水樹は書き足す。
『上の皮が掛け布団で、下の皮が敷布団。ほら、小豆枕だってあるよ』
最後の小豆枕は少々強引だったかもしれない。ぽかんと見つめ返されて正気に戻る。耳の熱さが夕風で冷めることを祈ろう。
「……そう言われてみればたしかに」
彼方は右手に持つどら焼きを後ろへ引き、うんうんと頷く。再び水樹に視線を移動させると、にっこり笑った。
「さぞ温かくて柔らかい布団だろうね。夢があるなー。本当に横になって食べてみたい」
話題に合わせてくれたのかと思ったが、彼方は赤い空を見て「僕なら寝る前に全部食べて、布団の機能なくしてしまいそう」と声の調子を上げて話を膨らませた。
「遊佐君、着眼点がいいね。心をくすぐる素晴らしいアイディアだ」
(ユニークなアイディアを発表する授業じゃないのに……)
この話題自体、昼休みの延長線だ。
食べたら寝れなくなる。聞いた者にイメージを湧かせるような続きも考えていなかった。
(それでも、彼方君に褒められたら嬉しい)
あんこ以上に、水樹は甘い気持ちになって笑った。
応援ありがとうございます!
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