地球にとってのダイヤモンドの雨、なんてロマンチックすぎる例え

りりぃこ

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天王星

一緒に天体観測行ってくれない?

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 ※※※※
 数日後、茉莉は家電量販店で、目の前の商品とスマホとにらめっこしながら唸っていた。
「やっぱりネットが一番安いよね……ネットオークションでもこれか……」
「それが狙い目?」
「あ、いえ……」
 店員に話しかけられたと思って、思わず茉莉は逃げようとした。
 しかし、話しかけていたのは、あの天野慧だった。
「こんにちは。先日はごめんね」
「いえ、こちらこそ」
 茉莉は慌てて首をふる。
「これ狙ってるの?天体望遠鏡?」
 慧は、茉莉の目線の先にある、なかなか高価な天体望遠鏡を指差す。
 茉莉は首をふる。
「見てるだけです。さすがにちょっと高すぎて」
 ふーん、と慧は軽く相槌を打った。
「私は全然こういうの詳しくないからかわかんないんだけどさ、やっぱり高いとよく見えるの?」
「いえ、安くても十分です。ただ、やっぱり遠くの星をキレイに見たいってこだわるとどうしても。あと、これ追跡機能とか付いてるから興味があって」
 茉莉の答えに、慧は少し笑ってみせた。
 何で笑ったんだろう。また、なんか変なこと言っちゃったんだろうか、と茉莉は身構えた。 
 しかし、慧から次に出た言葉は意外なものだった。
「いい望遠鏡で、見せてあげようか?」
「え?」
 思わず茉莉は、目を輝かす。
「い、いい望遠鏡っていうのは……?」
「いい望遠鏡なのかどうか私にはわかんないんだけど、近所の人がね。なんか二十万以上する天体望遠鏡持ってるんだ。それっていいやつなんでしょ?」
「わ、私も詳しくありませんが……。アマチュアからすると、かなりいいやつだと思いますけど」
 無意識に声が震える。
「それで見せてあげれるけど、今度一緒に天体観測行ってくれないかな?」
「は、えっと……」
 正直茉莉は悩んだ。いい望遠鏡での天体観測は凄くやりたい。ただ、人見知りの茉莉にとって、ほぼ会話したことのない人と一緒に行くなんて、地獄のような時間だ。
 というか、なぜ彼女は、茉莉を誘っているのだろうか。茉莉は警戒した。
 茉莉の警戒を察したのか、慧は慌てて言った。
「ごめんね、突然だとビビるよね。うん、こうやって誘ってるのは、ちょっとお願いがあってね。星とかそういうのに興味のある子を探しての」
「そういうのに、興味が、ある、子?」
 茉莉はオウム返しに答えた。
 なんだろう。ネズミ講みたいに怪しい物でも売りつけられるんじゃないだろうか。
 茉莉はさらに警戒を強めた。
 茉莉の警戒はどこ吹く風、というふうに慧は続ける。
「大学で君を見かけたとき、いつも髪ゴムは土星……じゃなくて天王星だっけ?だし、いつも読んでる本も、惑星の写真が入ってるやつだし、いじってるスマホ覗いたら、天体望遠鏡のショップ見てるし。適任だと思ってね」
 ……ちょっと待てよ、と茉莉は思った。髪ゴムの件はまだしも、読んでる本も見られてた?っていうか、スマホ覗かれてる!?
 この人、こんな爽やかな顔して、結構ヤバい人なんじゃない?
 すぐにでもこの場を立ち去ったほうがいい、と茉莉は判断した。
「えーっと。よくわかりませんが、あ、あまり私はお役に立てないと思いますので……」
「まあまあ、話だけでも聞いてよ。あ、下のショップでコーヒーでも飲まない?奢るよ」
 慧はニコニコしながらもなかなか強引だった。
 コミュ障の茉莉には、強引な誘いを断る技術を持っていない。
 あれよあれよと言う間に下のショップでコーヒー片手に話を聞く羽目になってしまった。


「一応、きっかけ作ろうと思って話しかけた日、わざと学生証落としたんだよね。君に拾ってもらって、その流れで話しようと思って。でも学生センターに届けちゃうんだもんなー。参ったよ」
 慧は、楽しそうに話す。紙コップのコーヒーまでも楽しそうに揺れている。しかし茉莉は全く楽しくない。
 早く帰りたい。それだけをずっと思っていた。
「えーっと……。ところで話とは」
「あ、そうだね。来週末、私の知り合いが天体観測に行くんだけど、私はそれに付いていきたいのね。だけど私は全然星とか興味無くて。
 で、その知り合いは、興味無いなら来なくていいの一点張りでさ。だから、興味ある子を連れて行くっていう体で行きたいの」
「はあ」
 全然わからない。茉莉は混乱した。
「えっと……星に興味無いのに、何で付いていきたいんですか?」
「いい質問だね」
 慧は嬉しそうに言う。
「その知り合いっていうのが、私の幼なじみの男の人でね。私はその人の事が好きなんだ。だから一緒に行きたいの」
「はあ」
 茉莉はさらに混乱した。
「あの、じゃあかえって、余計な人が一緒に付いていくのは良くないのでは?邪魔でしょう」
「いいの」
 慧は綺麗な顔で短く答えた。そして続ける。
「さらになんだけど、私が君の事が好きで、アタックしている最中ってことにしてほしいんだ。で、君に気に入られたいから天体観測に連れて行きたいっていう体で」
「む、無理です!」
 茉莉は慌てて即答した。
 普通の人付きあいすらままならないコミュ障の茉莉だ。そんな演技なんて無理に決まっている!
「……ていうか……私女子ですし!!」
「大丈夫だよ。彼、そういう細かいこと気にしないタイプだから」
「こ、細かい……?」
「それに、別に君は普通にしてていいんだよ。恋人のふりじゃないんだから。私が密かに君に片想い中って事で、君は知らないって事でいいんだから」
 茉莉は上手く言えなくて無言で首をふる。
 なぜ望遠鏡借りるのにそんな、面倒な事をしなくてはいけないのだ!
 それなら借りなくてもいい。
 星が見たくなったら、天文台にでも行けば、プロ仕様の望遠鏡でみれるんだから!
「ごめんなさい、ちょっと私には無理そう」
 小さな声で茉莉は断った。
 茉莉の小さな断りの言葉が聞こえていたはずなのに、慧は一切気にせずに言った。
「えー、大丈夫大丈夫。難しいことないよー。ちなみに、来週のこの日の夜予定空いてる?」
「え、えっと。予定はないですけど……」
「よし、じゃあ決まりね。あ、名前と連絡先教えて」
「え?私さっき断ったんですけど……」
「ラインでいいかな?ほら、携帯出して」
 あれよあれよと、茉莉は慧と連絡先を交換して、来週の天体観測にいく約束を取り付けられてしまった。

 ――きっと彼女は優秀な悪徳営業マンになれる。そして私みたいなカモをいっぱい引っ掛けるんだ。
 茉莉はクラクラしながらそう思った。
「えっと、じゃあ葉山ハヤマ茉莉ちゃん。また連絡するねー」
 そういうと、さっさと慧は立ち去ってしまった。
 なんて強引な人なんだろう。
 そんな押しが強いなら、その好きな男の人に直接アタック出来そうなものを!なぜわざわざ面倒臭い事をするのだろうか。
 茉莉は、大きなため息をついた。
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