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天王星
天国連れてってやるよ
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※※※※
【約束 ドタキャン やり方】
【誘い 断り方 確実】
【約束 キャンセル いつまで】
ネットで検索しても、慧との約束をドタキャンする方法がわからなかった。
AIにも聞いてみたけど、「キッパリと、でも柔らかく断りましましょう。出来たら代替案を提案してみるのもいいですね!」なんて、それが出来たら苦労しないよ!っていう回答しか得ることが出来なかった。
まあ、茉莉だって、人との付き合い方なんてネットで解決できないことくらいわかっている。それでも何かにすがりつきたい!
そんなこんなしているうちに、当日がやってきた。
もう気持ちを切り替えて、天体観測を楽しもう。天気もいいみたいだし。今日はどんな星が見えたかしら。
……なんて思っては見たけれど、時間がたって夜が近づくにつれて、どんどん憂鬱になっていく。
「吐きそう……」
茉莉はうんざりしながらアパートを出た。
深夜、真っ暗な中、近くのコンビニに向かう。涼しい風が心臓を撫でるけど、緊張を解いてくれるほどの力は無かった。
コンビニに、その慧の幼馴染が迎えに来てくれるらしいので、遅刻してはいけない。はやる気持ちは一切無いのに足を急がせる。
茉莉がコンビニに着くと、すでに慧は待っていた。
「こんばんは。今日はありがとうね」
茉莉の気も知らずに、能天気に挨拶してくる。
一応、車も出してもらえるし望遠鏡も使わせてもらう身なので、茉莉は深々とお辞儀をした。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「そんな堅苦しくなくて大丈夫だよ。楽しみだねー」
慧は無邪気に言う。
「天王星好きなんだっけ?今日見れたらいいね」
「天王星、見つけるの難しいですよ」
つい、茉莉は言う。
「遠い星なので。季節によって結構見つけやすいときもあるんですけど。でもいま時期でもなんとか見つけれた時は凄く嬉しくて。私の持ってる望遠鏡ですら、ちっちゃくうっすら見つけられることもあるんですけど。凄く小さくて。でもそれがまた味わいがあるというか、ああ、あの中に雨……」
ハッと茉莉は我に返った。
「ご、ごめんなさい、長々と」
星に興味が無いと言っていた慧にこんな話をしても飽きられてしまうだろう。
気をつけないとすぐに自分の事だけ話してしまう。だから人と上手くお喋りできないんだ、と茉莉は自己嫌悪に陥る。
「謝らなくていいよ。寧ろいいね。それくらい熱のある子を探してたんだから」
慧はニッコリする。
よくわからないが、慧の反応が良かったので茉莉はほっとする。
開幕から変な空気になるのはさすがにつらすぎる。
そうしているうちに、コンビニの前にワゴン車が一台停まった。
「あ、来たみたい」
慧はワゴン車に向かっていった。
「さ、乗って乗って」
慧に促されて、茉莉はワゴン車に乗り込んだ。
「お邪魔します。今日はよろしくお願いお願いいたします!」
少し大きな声で茉莉は挨拶する。
「んな堅苦しい挨拶なんていらねぇよ」
運転席にいた人がぶっきらぼうに茉莉に向かってそう言い放った。
「ご、ごめんなさい」
茉莉は畏縮して慌てて謝った。
「謝んじゃねぇよ、怒ってるわけじゃないんだから。気楽にやろうよーってだけ」
運転席の男の人は、茉莉の方を振り向いて笑う。
ヤンキーだ……!と茉莉は思った。
派手な金髪の短い髪と、細い眉毛。厳つくてギラギラしたスカジャンに、ただのホツレなんだかオシャレなんだか分からないほどにボロボロに穴の空いたジーパンからはパンツがチラ見している。そして口にはタバコも咥えている。
「あ、タバコ駄目?今消すから。車にこびりついちゃってるニオイは我慢しな」
男の人は茉莉の怯えた目線に気づいたのか、サッサとタバコを灰皿にしまう。
「あ、ああ、はい……」
茉莉は圧倒されてうまく反応できなかった。
「海衣くん、茉莉ちゃんを威嚇しないでよ。ただですら圧がつよいんだから」
慧の言葉に、海衣と呼ばれた男はケラケラ笑う。
「悪い悪い。テメエが茉莉ちゃん、だっけ?慧から話聞いたよ。天体好きなんだっけ?俺、水原海衣。よろしく」
「葉山茉莉です。よろしくお願いします水原さん」
「海衣でいいよ」
そう言うと海衣は発車させた。
「まあ、気楽に楽しもうぜ。今夜は天国つれていってやるよ」
そういいながら海衣はスピードを上げた。
スピード違反なんのそのの運転に、茉莉は生きた心地がしなかった。
そういう意味で天国に連れて行かれるんだろうか、と軽く絶望したりもした。
車の中では大音量の音楽が流れていた。ハードロック?パンク?茉莉には全くジャンルが分からない。
茉莉はあまり大音量で曲を聞く趣味は無かったが、猛スピードで走る車の中で大きな音の波を聞いていると、自分が流星群の中に入り込んだような錯覚に陥ってきた。
流星群の妄想中で、ボーッと黙っている茉莉に、不安そうに慧が声をかける。
「大丈夫?車酔いしてない?」
「……私は流星群の中の小惑星……」
「え?」
「あ。いや何でもないです」
茉莉は慌てて我に返る。
「着いたぞー」
海衣は二人に声をかけた。
そこは、ドライブコースの途中の、寂れた休憩所だった。
「寂しい場所だと思ってんだろう?」
茉莉の気持ちを見透かしたように海衣はニヤニヤと言う。
茉莉は慌てて答えた。
「いえ、私、春に大学てこの地域引っ越してきたばっかりだから土地勘わからなくて。ただ、もう少し行ったところに天文台あるじゃないですか?そこは行ったことあるので、その辺り行くのかと思ってて」
茉莉の言葉に、ふ、ふ、ふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「ここはなぁ、知る人ぞ知る穴場スポットなんだぜ」
そう言って先に車を降りる。
茉莉も、車を降りてみて思わず声を上げた。
「なんか、透きとおってる気がする……」
「お、わかるか?」
海衣は嬉しそうに言った。
茉莉が見上げた空には、沢山の星達が空に零れ落ちていた。
天気も味方したのだろう。
透明感のある空気が何も邪魔することなく、星の光を茉莉達に届けているのだ。
「このあたり、あまり夜景がねえんだよ。だからその分、星がキレイにみえる」
茉莉はウンウンと、大きく頷く。
「来てよかった?」
慧が茉莉に尋ねる。日中まで吐きそうなくらい嫌だったをすっかり忘れていた。
悔しいけれど。
「よかったです」
茉莉は答えた。
海衣は車から望遠鏡を取り出して、手慣れた手付きで組み立てていく。横にパソコンもセッティングする。追跡機能とかついているんだろう、いいなあ、と茉莉はよだれを垂らさんばかりにその望遠鏡を見ていた。
「海衣くん、手伝うよ」
慧が声をかけるが、海衣はシッシ、と追い払うような仕草をする。
「素人がやらなくていい。荷物持ちだけ手伝わせてやるから」
茉莉も手伝おうと思ったが、海衣の言葉に動けなくなった。
しかし、海衣はそんな様子を察したのか、茉莉に手招きした。
「茉莉ちゃんは来いよ。望遠鏡触ったことあんだろ?このタイプのやつ、調整してみな?」
「は、はい!」
茉莉は飛び上がって海衣の望遠鏡に近づく。
「で、でも、こ、こ、壊したらどうしよう」
「んなやわじゃねぇよ。ほら、まず月でも土星でも、すきなの見れるように調整してみな。一応パソコン使えば簡単に捉えれるけど、自分で見つけるのも醍醐味だろ?」
「は、はい………」
茉莉は恐る恐る海衣の望遠鏡に手を伸ばし、自分の知識を総動員しながら触ってみる。はじめはおっかなびっくりだったが、触っているとすぐに夢中になった。
「…えっと、こうかな」
「お、早いね。いいじゃん」
「土星を!土星の輪っかが見えるようにできました!」
「いいじゃん!ちゃんと見えるぜ。つーか今日は絶好の観測日和だな。かなり土星の方も調子いいみたいだ」
二人ははしゃいでいた。
ふ、と茉莉はひとり黙って小さな折りたたみ椅子に座っている慧に気づいた。
あんなに強引に茉莉を誘ってまで行きたがっていた海衣との天体観測だ。
星に興味が無いと言っていたが、茉莉が海衣の事を独占してしまっては悪いような気がした。
なので声をかけた。
「天野さんも、どうですか?」
しかし慧は首をふった。
「私はいいんだ。茉莉ちゃんが楽しそうにしているのがいいんだから」
そう言って、心底嬉しそうな顔をした。
『茉莉ちゃんが』と、慧は言った。
しかし、それは、本当は『海衣くんが』と言いたかったのだろうというのは、茉莉にもすぐにわかった。
【約束 ドタキャン やり方】
【誘い 断り方 確実】
【約束 キャンセル いつまで】
ネットで検索しても、慧との約束をドタキャンする方法がわからなかった。
AIにも聞いてみたけど、「キッパリと、でも柔らかく断りましましょう。出来たら代替案を提案してみるのもいいですね!」なんて、それが出来たら苦労しないよ!っていう回答しか得ることが出来なかった。
まあ、茉莉だって、人との付き合い方なんてネットで解決できないことくらいわかっている。それでも何かにすがりつきたい!
そんなこんなしているうちに、当日がやってきた。
もう気持ちを切り替えて、天体観測を楽しもう。天気もいいみたいだし。今日はどんな星が見えたかしら。
……なんて思っては見たけれど、時間がたって夜が近づくにつれて、どんどん憂鬱になっていく。
「吐きそう……」
茉莉はうんざりしながらアパートを出た。
深夜、真っ暗な中、近くのコンビニに向かう。涼しい風が心臓を撫でるけど、緊張を解いてくれるほどの力は無かった。
コンビニに、その慧の幼馴染が迎えに来てくれるらしいので、遅刻してはいけない。はやる気持ちは一切無いのに足を急がせる。
茉莉がコンビニに着くと、すでに慧は待っていた。
「こんばんは。今日はありがとうね」
茉莉の気も知らずに、能天気に挨拶してくる。
一応、車も出してもらえるし望遠鏡も使わせてもらう身なので、茉莉は深々とお辞儀をした。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「そんな堅苦しくなくて大丈夫だよ。楽しみだねー」
慧は無邪気に言う。
「天王星好きなんだっけ?今日見れたらいいね」
「天王星、見つけるの難しいですよ」
つい、茉莉は言う。
「遠い星なので。季節によって結構見つけやすいときもあるんですけど。でもいま時期でもなんとか見つけれた時は凄く嬉しくて。私の持ってる望遠鏡ですら、ちっちゃくうっすら見つけられることもあるんですけど。凄く小さくて。でもそれがまた味わいがあるというか、ああ、あの中に雨……」
ハッと茉莉は我に返った。
「ご、ごめんなさい、長々と」
星に興味が無いと言っていた慧にこんな話をしても飽きられてしまうだろう。
気をつけないとすぐに自分の事だけ話してしまう。だから人と上手くお喋りできないんだ、と茉莉は自己嫌悪に陥る。
「謝らなくていいよ。寧ろいいね。それくらい熱のある子を探してたんだから」
慧はニッコリする。
よくわからないが、慧の反応が良かったので茉莉はほっとする。
開幕から変な空気になるのはさすがにつらすぎる。
そうしているうちに、コンビニの前にワゴン車が一台停まった。
「あ、来たみたい」
慧はワゴン車に向かっていった。
「さ、乗って乗って」
慧に促されて、茉莉はワゴン車に乗り込んだ。
「お邪魔します。今日はよろしくお願いお願いいたします!」
少し大きな声で茉莉は挨拶する。
「んな堅苦しい挨拶なんていらねぇよ」
運転席にいた人がぶっきらぼうに茉莉に向かってそう言い放った。
「ご、ごめんなさい」
茉莉は畏縮して慌てて謝った。
「謝んじゃねぇよ、怒ってるわけじゃないんだから。気楽にやろうよーってだけ」
運転席の男の人は、茉莉の方を振り向いて笑う。
ヤンキーだ……!と茉莉は思った。
派手な金髪の短い髪と、細い眉毛。厳つくてギラギラしたスカジャンに、ただのホツレなんだかオシャレなんだか分からないほどにボロボロに穴の空いたジーパンからはパンツがチラ見している。そして口にはタバコも咥えている。
「あ、タバコ駄目?今消すから。車にこびりついちゃってるニオイは我慢しな」
男の人は茉莉の怯えた目線に気づいたのか、サッサとタバコを灰皿にしまう。
「あ、ああ、はい……」
茉莉は圧倒されてうまく反応できなかった。
「海衣くん、茉莉ちゃんを威嚇しないでよ。ただですら圧がつよいんだから」
慧の言葉に、海衣と呼ばれた男はケラケラ笑う。
「悪い悪い。テメエが茉莉ちゃん、だっけ?慧から話聞いたよ。天体好きなんだっけ?俺、水原海衣。よろしく」
「葉山茉莉です。よろしくお願いします水原さん」
「海衣でいいよ」
そう言うと海衣は発車させた。
「まあ、気楽に楽しもうぜ。今夜は天国つれていってやるよ」
そういいながら海衣はスピードを上げた。
スピード違反なんのそのの運転に、茉莉は生きた心地がしなかった。
そういう意味で天国に連れて行かれるんだろうか、と軽く絶望したりもした。
車の中では大音量の音楽が流れていた。ハードロック?パンク?茉莉には全くジャンルが分からない。
茉莉はあまり大音量で曲を聞く趣味は無かったが、猛スピードで走る車の中で大きな音の波を聞いていると、自分が流星群の中に入り込んだような錯覚に陥ってきた。
流星群の妄想中で、ボーッと黙っている茉莉に、不安そうに慧が声をかける。
「大丈夫?車酔いしてない?」
「……私は流星群の中の小惑星……」
「え?」
「あ。いや何でもないです」
茉莉は慌てて我に返る。
「着いたぞー」
海衣は二人に声をかけた。
そこは、ドライブコースの途中の、寂れた休憩所だった。
「寂しい場所だと思ってんだろう?」
茉莉の気持ちを見透かしたように海衣はニヤニヤと言う。
茉莉は慌てて答えた。
「いえ、私、春に大学てこの地域引っ越してきたばっかりだから土地勘わからなくて。ただ、もう少し行ったところに天文台あるじゃないですか?そこは行ったことあるので、その辺り行くのかと思ってて」
茉莉の言葉に、ふ、ふ、ふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「ここはなぁ、知る人ぞ知る穴場スポットなんだぜ」
そう言って先に車を降りる。
茉莉も、車を降りてみて思わず声を上げた。
「なんか、透きとおってる気がする……」
「お、わかるか?」
海衣は嬉しそうに言った。
茉莉が見上げた空には、沢山の星達が空に零れ落ちていた。
天気も味方したのだろう。
透明感のある空気が何も邪魔することなく、星の光を茉莉達に届けているのだ。
「このあたり、あまり夜景がねえんだよ。だからその分、星がキレイにみえる」
茉莉はウンウンと、大きく頷く。
「来てよかった?」
慧が茉莉に尋ねる。日中まで吐きそうなくらい嫌だったをすっかり忘れていた。
悔しいけれど。
「よかったです」
茉莉は答えた。
海衣は車から望遠鏡を取り出して、手慣れた手付きで組み立てていく。横にパソコンもセッティングする。追跡機能とかついているんだろう、いいなあ、と茉莉はよだれを垂らさんばかりにその望遠鏡を見ていた。
「海衣くん、手伝うよ」
慧が声をかけるが、海衣はシッシ、と追い払うような仕草をする。
「素人がやらなくていい。荷物持ちだけ手伝わせてやるから」
茉莉も手伝おうと思ったが、海衣の言葉に動けなくなった。
しかし、海衣はそんな様子を察したのか、茉莉に手招きした。
「茉莉ちゃんは来いよ。望遠鏡触ったことあんだろ?このタイプのやつ、調整してみな?」
「は、はい!」
茉莉は飛び上がって海衣の望遠鏡に近づく。
「で、でも、こ、こ、壊したらどうしよう」
「んなやわじゃねぇよ。ほら、まず月でも土星でも、すきなの見れるように調整してみな。一応パソコン使えば簡単に捉えれるけど、自分で見つけるのも醍醐味だろ?」
「は、はい………」
茉莉は恐る恐る海衣の望遠鏡に手を伸ばし、自分の知識を総動員しながら触ってみる。はじめはおっかなびっくりだったが、触っているとすぐに夢中になった。
「…えっと、こうかな」
「お、早いね。いいじゃん」
「土星を!土星の輪っかが見えるようにできました!」
「いいじゃん!ちゃんと見えるぜ。つーか今日は絶好の観測日和だな。かなり土星の方も調子いいみたいだ」
二人ははしゃいでいた。
ふ、と茉莉はひとり黙って小さな折りたたみ椅子に座っている慧に気づいた。
あんなに強引に茉莉を誘ってまで行きたがっていた海衣との天体観測だ。
星に興味が無いと言っていたが、茉莉が海衣の事を独占してしまっては悪いような気がした。
なので声をかけた。
「天野さんも、どうですか?」
しかし慧は首をふった。
「私はいいんだ。茉莉ちゃんが楽しそうにしているのがいいんだから」
そう言って、心底嬉しそうな顔をした。
『茉莉ちゃんが』と、慧は言った。
しかし、それは、本当は『海衣くんが』と言いたかったのだろうというのは、茉莉にもすぐにわかった。
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こちらの絵の著作権はまるぶち銀河様にある為、無断転載は固くお断りします。
*この作品は大山あかね名義で公開していた物です。
連載開始日 2019/10/15
本編完結日 2019/10/31
番外編完結日 2019/11/04
ベリーズカフェでも同時公開
その後 公開日2020/06/04
完結日 2020/06/15
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