地球にとってのダイヤモンドの雨、なんてロマンチックすぎる例え

りりぃこ

文字の大きさ
3 / 9
天王星

天国連れてってやるよ

しおりを挟む
※※※※
【約束 ドタキャン やり方】
【誘い 断り方 確実】
【約束 キャンセル いつまで】
 ネットで検索しても、慧との約束をドタキャンする方法がわからなかった。
 AIにも聞いてみたけど、「キッパリと、でも柔らかく断りましましょう。出来たら代替案を提案してみるのもいいですね!」なんて、それが出来たら苦労しないよ!っていう回答しか得ることが出来なかった。
 まあ、茉莉だって、人との付き合い方なんてネットで解決できないことくらいわかっている。それでも何かにすがりつきたい!

 そんなこんなしているうちに、当日がやってきた。
 もう気持ちを切り替えて、天体観測を楽しもう。天気もいいみたいだし。今日はどんな星が見えたかしら。

 ……なんて思っては見たけれど、時間がたって夜が近づくにつれて、どんどん憂鬱になっていく。
「吐きそう……」
 茉莉はうんざりしながらアパートを出た。
 深夜、真っ暗な中、近くのコンビニに向かう。涼しい風が心臓を撫でるけど、緊張を解いてくれるほどの力は無かった。
 コンビニに、その慧の幼馴染が迎えに来てくれるらしいので、遅刻してはいけない。はやる気持ちは一切無いのに足を急がせる。

 茉莉がコンビニに着くと、すでに慧は待っていた。
「こんばんは。今日はありがとうね」
 茉莉の気も知らずに、能天気に挨拶してくる。
 一応、車も出してもらえるし望遠鏡も使わせてもらう身なので、茉莉は深々とお辞儀をした。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「そんな堅苦しくなくて大丈夫だよ。楽しみだねー」
 慧は無邪気に言う。
「天王星好きなんだっけ?今日見れたらいいね」
「天王星、見つけるの難しいですよ」
 つい、茉莉は言う。
「遠い星なので。季節によって結構見つけやすいときもあるんですけど。でもいま時期でもなんとか見つけれた時は凄く嬉しくて。私の持ってる望遠鏡ですら、ちっちゃくうっすら見つけられることもあるんですけど。凄く小さくて。でもそれがまた味わいがあるというか、ああ、あの中に雨……」
 ハッと茉莉は我に返った。
「ご、ごめんなさい、長々と」
 星に興味が無いと言っていた慧にこんな話をしても飽きられてしまうだろう。
 気をつけないとすぐに自分の事だけ話してしまう。だから人と上手くお喋りできないんだ、と茉莉は自己嫌悪に陥る。
「謝らなくていいよ。寧ろいいね。それくらい熱のある子を探してたんだから」
 慧はニッコリする。
 よくわからないが、慧の反応が良かったので茉莉はほっとする。
 開幕から変な空気になるのはさすがにつらすぎる。

 そうしているうちに、コンビニの前にワゴン車が一台停まった。
「あ、来たみたい」
 慧はワゴン車に向かっていった。
「さ、乗って乗って」
 慧に促されて、茉莉はワゴン車に乗り込んだ。
「お邪魔します。今日はよろしくお願いお願いいたします!」
 少し大きな声で茉莉は挨拶する。
「んな堅苦しい挨拶なんていらねぇよ」
 運転席にいた人がぶっきらぼうに茉莉に向かってそう言い放った。
「ご、ごめんなさい」
 茉莉は畏縮して慌てて謝った。
「謝んじゃねぇよ、怒ってるわけじゃないんだから。気楽にやろうよーってだけ」
 運転席の男の人は、茉莉の方を振り向いて笑う。
 ヤンキーだ……!と茉莉は思った。
 派手な金髪の短い髪と、細い眉毛。厳つくてギラギラしたスカジャンに、ただのホツレなんだかオシャレなんだか分からないほどにボロボロに穴の空いたジーパンからはパンツがチラ見している。そして口にはタバコも咥えている。
「あ、タバコ駄目?今消すから。車にこびりついちゃってるニオイは我慢しな」
 男の人は茉莉の怯えた目線に気づいたのか、サッサとタバコを灰皿にしまう。
「あ、ああ、はい……」
 茉莉は圧倒されてうまく反応できなかった。
海衣カイくん、茉莉ちゃんを威嚇しないでよ。ただですら圧がつよいんだから」
 慧の言葉に、海衣と呼ばれた男はケラケラ笑う。
「悪い悪い。テメエが茉莉ちゃん、だっけ?慧から話聞いたよ。天体好きなんだっけ?俺、水原ミズハラ海衣。よろしく」
「葉山茉莉です。よろしくお願いします水原さん」
「海衣でいいよ」
 そう言うと海衣は発車させた。
「まあ、気楽に楽しもうぜ。今夜は天国つれていってやるよ」
 そういいながら海衣はスピードを上げた。
 スピード違反なんのそのの運転に、茉莉は生きた心地がしなかった。
 そういう意味で天国に連れて行かれるんだろうか、と軽く絶望したりもした。

 車の中では大音量の音楽が流れていた。ハードロック?パンク?茉莉には全くジャンルが分からない。
 茉莉はあまり大音量で曲を聞く趣味は無かったが、猛スピードで走る車の中で大きな音の波を聞いていると、自分が流星群の中に入り込んだような錯覚に陥ってきた。
 流星群の妄想中で、ボーッと黙っている茉莉に、不安そうに慧が声をかける。
「大丈夫?車酔いしてない?」
「……私は流星群の中の小惑星……」
「え?」
「あ。いや何でもないです」
 茉莉は慌てて我に返る。

「着いたぞー」
 海衣は二人に声をかけた。
 そこは、ドライブコースの途中の、寂れた休憩所だった。
「寂しい場所だと思ってんだろう?」
 茉莉の気持ちを見透かしたように海衣はニヤニヤと言う。
 茉莉は慌てて答えた。
「いえ、私、春に大学てこの地域引っ越してきたばっかりだから土地勘わからなくて。ただ、もう少し行ったところに天文台あるじゃないですか?そこは行ったことあるので、その辺り行くのかと思ってて」
 茉莉の言葉に、ふ、ふ、ふ、と不敵な笑みを浮かべた。
「ここはなぁ、知る人ぞ知る穴場スポットなんだぜ」
 そう言って先に車を降りる。
 茉莉も、車を降りてみて思わず声を上げた。
「なんか、透きとおってる気がする……」
「お、わかるか?」
 海衣は嬉しそうに言った。
 茉莉が見上げた空には、沢山の星達が空に零れ落ちていた。
 天気も味方したのだろう。
 透明感のある空気が何も邪魔することなく、星の光を茉莉達に届けているのだ。
「このあたり、あまり夜景がねえんだよ。だからその分、星がキレイにみえる」
 茉莉はウンウンと、大きく頷く。
「来てよかった?」
 慧が茉莉に尋ねる。日中まで吐きそうなくらい嫌だったをすっかり忘れていた。
 悔しいけれど。
「よかったです」
 茉莉は答えた。

 海衣は車から望遠鏡を取り出して、手慣れた手付きで組み立てていく。横にパソコンもセッティングする。追跡機能とかついているんだろう、いいなあ、と茉莉はよだれを垂らさんばかりにその望遠鏡を見ていた。
「海衣くん、手伝うよ」
 慧が声をかけるが、海衣はシッシ、と追い払うような仕草をする。
「素人がやらなくていい。荷物持ちだけ手伝わせてやるから」
 茉莉も手伝おうと思ったが、海衣の言葉に動けなくなった。
 しかし、海衣はそんな様子を察したのか、茉莉に手招きした。
「茉莉ちゃんは来いよ。望遠鏡触ったことあんだろ?このタイプのやつ、調整してみな?」
「は、はい!」
 茉莉は飛び上がって海衣の望遠鏡に近づく。
「で、でも、こ、こ、壊したらどうしよう」
「んなやわじゃねぇよ。ほら、まず月でも土星でも、すきなの見れるように調整してみな。一応パソコン使えば簡単に捉えれるけど、自分で見つけるのも醍醐味だろ?」
「は、はい………」
 茉莉は恐る恐る海衣の望遠鏡に手を伸ばし、自分の知識を総動員しながら触ってみる。はじめはおっかなびっくりだったが、触っているとすぐに夢中になった。
「…えっと、こうかな」
「お、早いね。いいじゃん」
「土星を!土星の輪っかが見えるようにできました!」
「いいじゃん!ちゃんと見えるぜ。つーか今日は絶好の観測日和だな。かなり土星の方も調子いいみたいだ」
 二人ははしゃいでいた。
 ふ、と茉莉はひとり黙って小さな折りたたみ椅子に座っている慧に気づいた。
 あんなに強引に茉莉を誘ってまで行きたがっていた海衣との天体観測だ。
 星に興味が無いと言っていたが、茉莉が海衣の事を独占してしまっては悪いような気がした。
なので声をかけた。
「天野さんも、どうですか?」
 しかし慧は首をふった。
「私はいいんだ。茉莉ちゃんが楽しそうにしているのがいいんだから」
 そう言って、心底嬉しそうな顔をした。
 『茉莉ちゃんが』と、慧は言った。
 しかし、それは、本当は『海衣くんが』と言いたかったのだろうというのは、茉莉にもすぐにわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子
恋愛
短大を卒業して地元の税理事務所に勤める25歳の西田結衣。 結衣はある事がきっかけで、中学時代の友人と連絡を絶っていた。 そんなある日、唯一連絡を取り合っている由美から、卒業十周年記念の同窓会があると連絡があり、全員強制参加を言い渡される。 指定された日に会場である中学校へ行くと…。 *作品途中で過去の回想が入りますので現在→中学時代等、時系列がバラバラになります。 今回の作品には章にいつの話かは記載しておりません。 ご理解の程宜しくお願いします。 表紙絵は以前、まるぶち銀河様に描いて頂いたものです。 (エブリスタで以前公開していた作品の表紙絵として頂いた物を使わせて頂いております) こちらの絵の著作権はまるぶち銀河様にある為、無断転載は固くお断りします。 *この作品は大山あかね名義で公開していた物です。 連載開始日 2019/10/15 本編完結日 2019/10/31 番外編完結日 2019/11/04 ベリーズカフェでも同時公開 その後 公開日2020/06/04 完結日 2020/06/15 *ベリーズカフェはR18仕様ではありません。 作品の無断転載はご遠慮ください。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

処理中です...