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天王星
見たほうがいい
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「そういえば、天王星が好きなんだっけ」
しばらく観測をしたあとに、休憩で缶コーヒーを飲みながら海衣が茉莉にたずねた。
茉莉はコクリと頷く。
「早く言いなー。探してやっから」
「すみません。さっき星図のアプリ起動しようとしたら電波悪いのか起動しなくて。星図無いと見つけるのキツイかなぁって思ってて……」
「おい、俺のことなめてんのか?天王星くらいさっさと見つけてやるよ」
そう言って、海衣は缶コーヒーを片手で潰すと、望遠鏡のところに向かっていった。
「よかった。海衣くんと気が合ったみたいで」
慧は、ニッコリと茉莉に笑いかけた。
「前にも一度友達連れてきたんだけどね、まあその時は男だったんだけど。全然海衣くんと気が合わなくて。
てか、実は全然星に興味ないくせに、天体観測したって言えば女のコとの会話で食いつきいいだろうって思って来たのがバレてもう散々だったんだよね」
慧は思い出したように苦く笑う。
「ま、そういう下心は私も人のこと言えないんだけどね」
「それは、大変でしたね」
全く気の利かないコメントをしてしまい、また茉莉は自己嫌悪に陥る。
しかし慧は全く気にせずに嬉しそうに言った。
「今日は楽しそうな海衣くんて嬉しい。茉莉ちゃんのおかげだ」
「それは、どういたしまして」
しかし、それでいいんだろうか。と茉莉は思った。
恋人になりたいとか、そういう欲は慧にはないのだろうか。
もちろん、茉莉は恋愛に疎いので、なにが正解なのかはわからない。
ただ、なんとなくモヤモヤしたのだ。
「来い!茉莉ちゃん!いたぞ天王星!」
「は、早い。本当ですか?」
「ふん、観測歴十ウン年の海衣様と、この望遠鏡をなめんじゃねえぞ。ほら、追跡機能ついてるけどすぐ逃げるから早く!」
茉莉は、望遠鏡の位置を動かさないように慎重に覗き込む。
小さい小さい蒼い星。
太陽系の惑星の中でも大きい方なはずなのに、私達からはどうやって見ても小さな星だ。
その小さな小さな星を見るたびに、茉莉は何故か泣きそうになるのだ。
「……見たほうがいいです」
茉莉は呟くように言った。
「ん?見たほうがって?」
海衣が聞き返す。
「天野さんも、見たほうがいいです!」
「でも、慧はいつも見ようとしねぇし、見てもふーんみたいな反応で……」
「見てほしいんです!」
茉莉は強くそう言うと、慧を強引に引っ張ってきた。夜だからか手がとても冷たい。
「ま、茉莉ちゃん?」
「天体観測に来ておいて、星を見ないなんて言語道断です」
こんないい望遠鏡を持っている人がいるのに、こんないい場所を知っているのに、こんな素適な技術を持っている人を好きなのに!
茉莉は今、星に興味が無い慧に、好きの押しつけをしているのかもしれない。
それでもいい。こっちの『好き』に土足で踏み込んで来ておいて、そのまま帰るなんぞ許さない。
「強引な人だね」
慧は笑う。あなたにだけは言われたくない、と茉莉は思った。
慧は茉莉に促されて望遠鏡を覗き込んだ。
数秒みてすぐに目を離す。
やはりそこまでの感動はないのだろうか。
「小さいね。輪っかは見えないんだね」
「遠すぎるから輪っかまでははっきりと見えねぇんだよ」
海衣が解説する。
すると慧は少し残念そうに言った。
「そっか。茉莉ちゃんの髪ゴムみたいなの見れるかと思ったんだけど」
そう言って、慧は茉莉の髪をそっと撫でるように触った。とても優しかった。
慧の言葉に、海衣は茉莉の髪ゴムを見つめた。
「天王星だったのか、これ。土星が曲がってんのかと思ってた」
海衣の言葉に、髪ゴム作り直そう……と茉莉は心に決めた。
夜はかなり深くなっていた。
「これからがいい時間だけど、さすがに初対面の女のコ一晩中拘束するわけにもいかねぇからな」
海衣はそういいながら片付け始めた。
大丈夫なのに、と茉莉は不満だったが、もっといたいとねだることは憚られた。
「茉莉ちゃん、また一緒に見ようぜ。結構俺頻繁に観測してっから。いつも一人で観測してるからたまに人がいるとおもしれぇや。連絡先交換するぞ」
「いつも一人なんですか?天野さんは?」
茉莉が携帯をだして連絡先の交換をしながら尋ねると、海衣は曖昧に笑った。
「あー、昔は一緒にやってたんだけど、あぁ、今は全然」
何となく海衣は茉莉に気を使っているように話す。
そういえば、慧は海衣に、茉莉が好きだと話しているのだろう。
茉莉に、慧との関係を誤解されないようにと気を使ってくれているみたいだ。いい人だな。ていうか別にいいんだけどな、と茉莉は思った。
「私には、来なくていいって言うんだよ」
望遠鏡を車に詰め込む手伝いをしながら慧は口を尖らせる。
「いつでも楽しいから付き合うのに。ねぇ、茉莉ちゃん、たのしかったよね」
慧に同意を求められ、茉莉は頷く。
海衣は苦笑いしながら言った。
「そりゃ茉莉ちゃんは楽しそうなのわかってっけどさ。慧は興味無いのに無理に付き合わせる気はねぇよ。今回は茉莉ちゃんに見せてえっつーから一緒に連れてきただけだ」
そんなにいつものつまらなそうなのか。もう少し興味があるふりでもすればいいのに、と茉莉は思った。
「さ、乗り込めー」
片付けが終わり、皆で車に乗り込む。
また、法律違反のスピードで車は動き出し、茉莉の脳内は流星群で埋め尽くされるのだった。
しばらく観測をしたあとに、休憩で缶コーヒーを飲みながら海衣が茉莉にたずねた。
茉莉はコクリと頷く。
「早く言いなー。探してやっから」
「すみません。さっき星図のアプリ起動しようとしたら電波悪いのか起動しなくて。星図無いと見つけるのキツイかなぁって思ってて……」
「おい、俺のことなめてんのか?天王星くらいさっさと見つけてやるよ」
そう言って、海衣は缶コーヒーを片手で潰すと、望遠鏡のところに向かっていった。
「よかった。海衣くんと気が合ったみたいで」
慧は、ニッコリと茉莉に笑いかけた。
「前にも一度友達連れてきたんだけどね、まあその時は男だったんだけど。全然海衣くんと気が合わなくて。
てか、実は全然星に興味ないくせに、天体観測したって言えば女のコとの会話で食いつきいいだろうって思って来たのがバレてもう散々だったんだよね」
慧は思い出したように苦く笑う。
「ま、そういう下心は私も人のこと言えないんだけどね」
「それは、大変でしたね」
全く気の利かないコメントをしてしまい、また茉莉は自己嫌悪に陥る。
しかし慧は全く気にせずに嬉しそうに言った。
「今日は楽しそうな海衣くんて嬉しい。茉莉ちゃんのおかげだ」
「それは、どういたしまして」
しかし、それでいいんだろうか。と茉莉は思った。
恋人になりたいとか、そういう欲は慧にはないのだろうか。
もちろん、茉莉は恋愛に疎いので、なにが正解なのかはわからない。
ただ、なんとなくモヤモヤしたのだ。
「来い!茉莉ちゃん!いたぞ天王星!」
「は、早い。本当ですか?」
「ふん、観測歴十ウン年の海衣様と、この望遠鏡をなめんじゃねえぞ。ほら、追跡機能ついてるけどすぐ逃げるから早く!」
茉莉は、望遠鏡の位置を動かさないように慎重に覗き込む。
小さい小さい蒼い星。
太陽系の惑星の中でも大きい方なはずなのに、私達からはどうやって見ても小さな星だ。
その小さな小さな星を見るたびに、茉莉は何故か泣きそうになるのだ。
「……見たほうがいいです」
茉莉は呟くように言った。
「ん?見たほうがって?」
海衣が聞き返す。
「天野さんも、見たほうがいいです!」
「でも、慧はいつも見ようとしねぇし、見てもふーんみたいな反応で……」
「見てほしいんです!」
茉莉は強くそう言うと、慧を強引に引っ張ってきた。夜だからか手がとても冷たい。
「ま、茉莉ちゃん?」
「天体観測に来ておいて、星を見ないなんて言語道断です」
こんないい望遠鏡を持っている人がいるのに、こんないい場所を知っているのに、こんな素適な技術を持っている人を好きなのに!
茉莉は今、星に興味が無い慧に、好きの押しつけをしているのかもしれない。
それでもいい。こっちの『好き』に土足で踏み込んで来ておいて、そのまま帰るなんぞ許さない。
「強引な人だね」
慧は笑う。あなたにだけは言われたくない、と茉莉は思った。
慧は茉莉に促されて望遠鏡を覗き込んだ。
数秒みてすぐに目を離す。
やはりそこまでの感動はないのだろうか。
「小さいね。輪っかは見えないんだね」
「遠すぎるから輪っかまでははっきりと見えねぇんだよ」
海衣が解説する。
すると慧は少し残念そうに言った。
「そっか。茉莉ちゃんの髪ゴムみたいなの見れるかと思ったんだけど」
そう言って、慧は茉莉の髪をそっと撫でるように触った。とても優しかった。
慧の言葉に、海衣は茉莉の髪ゴムを見つめた。
「天王星だったのか、これ。土星が曲がってんのかと思ってた」
海衣の言葉に、髪ゴム作り直そう……と茉莉は心に決めた。
夜はかなり深くなっていた。
「これからがいい時間だけど、さすがに初対面の女のコ一晩中拘束するわけにもいかねぇからな」
海衣はそういいながら片付け始めた。
大丈夫なのに、と茉莉は不満だったが、もっといたいとねだることは憚られた。
「茉莉ちゃん、また一緒に見ようぜ。結構俺頻繁に観測してっから。いつも一人で観測してるからたまに人がいるとおもしれぇや。連絡先交換するぞ」
「いつも一人なんですか?天野さんは?」
茉莉が携帯をだして連絡先の交換をしながら尋ねると、海衣は曖昧に笑った。
「あー、昔は一緒にやってたんだけど、あぁ、今は全然」
何となく海衣は茉莉に気を使っているように話す。
そういえば、慧は海衣に、茉莉が好きだと話しているのだろう。
茉莉に、慧との関係を誤解されないようにと気を使ってくれているみたいだ。いい人だな。ていうか別にいいんだけどな、と茉莉は思った。
「私には、来なくていいって言うんだよ」
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慧に同意を求められ、茉莉は頷く。
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