地球にとってのダイヤモンドの雨、なんてロマンチックすぎる例え

りりぃこ

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天王星

卑怯者なんだし

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 猛スピードの車は、あっという間にはじめに待ち合わせたコンビニに着いた。

「今日は大変ありがとうございました」
 茉莉は車から降りて頭を深々と下げる。
「だから、んな堅苦しくなくていいって」
 海衣は笑う。
「また来いよ。社交辞令じゃないからな。いつでも直接連絡……っつーか、いや、慧を経由して連絡くれてもいいし」
 一応、海衣なりに、慧の恋を応援するふうに笑ってみせた。
「慧も、茉莉ちゃんと一緒なら来てもいいぞ」
「やったー」
 慧は心底ニコニコする。
 海衣には、それが茉莉とのデートができて嬉しい、というふうに見えるのかもしれない。しかし、本当の嬉しい理由は、海衣の天体観測に着いていく許可を貰ったことだろう。

 また行かなきゃ駄目なのかな。
 いや、凄く楽しかったけど。
 海衣さんいい人だったけど。
 天体観測自体はまた行きたいけど。
 だけど、この慧の恋愛に関わるのは面倒そうだ。
 茉莉はふうとため息をついた。


 海衣の車を見送った。
「それでは、天野さんも今日はありがとうございました」
「あ、このまま帰っちゃう?」
 慧の言葉に、茉莉は思わずは?と首をかしげた。
「夜食食べていこうよ。そこのファミレス空いてる」
「いえ、大丈夫です。お腹空いてませんので」
 慌てていう茉莉のお腹が、悪いタイミングでグーっと鳴った。
「ふふ、空いてるじゃん。今日付き合わせたお礼に奢るから」
 さっさと帰らせてもらったほうがありがたいのに!
 茉莉はそう思いながらも、相変わらず強引な慧に連れられて、ファミレスに行くことになった。


 深夜ながら、ファミレスの中のお客さんはまばらにいた。
 お腹は鳴ったけど、あまり深夜に食べると胃もたれしそうなので、小さいアイスだけ注文する。
 慧も、同じものを注文した。
 別に何か食べたいわけではないようだ。
「今日は本当にありがとう。なんか久々に海衣くんと楽しい時間が過ごせた気がする」
 慧の言葉に、茉莉は少し首を傾げる。
 茉莉は楽しんだし、海衣も楽しんでいたようだが、慧自身はずっと見ていただけだったようだが。
「あの、興味、無いんですか。本当に」
「ん?」
 茉莉の問いに、慧は首を傾げる。
 茉莉は言葉を選んでもう一度聞いてみる。
「星、興味無いですか」
「うーん、残念ながら、星だなぁ、くらいにしか思わないんだよね」
「私、その、恋愛とか詳しくないけど、あの、好きな人の好きなものって、興味わいたり、するもんじゃ、ないんで、すか、ね?」
 言ったあと、これじゃあ責めてるみたいに聞こえるだろうか、と茉莉は自己嫌悪に陥る。
 慧は、少し考えて言った。
「そういう人が多いとは思うんだけどね。まあ、人それぞれじゃないかな」
「そう、ですよね」
 茉莉はとりあえず頷く。
「例えばさ、茉莉ちゃんの好きになった相手が、超プロレスマニアだとしてさ、茉莉ちゃんプロレス興味でると思う?」
 慧の言葉に、想像してみるが、まず自分が誰かと恋愛しているのを想像できなかった。さらにプロレスを好き?
「わ、わかりません」
 茉莉は正直に言った。
 慧は笑った。
「ま、実際になってみなきゃわかんないよね。でも、プロレス好きにならなくても、プロレスに熱中する好きな人を見てるのは、楽しいと思わない?」
 茉莉は想像してみる。
「わか、るような。わからないような」
「私は、星に興味は無いけど、星に夢中な海衣くんが大好きなんだ」
 きっぱりと言い切る慧の表情は、とても優しいものだった。
「天王星には、海王星もですけど、ダイヤモンドの、雨が、降るそうです」
 突然、ポツリと茉莉が喋りだした。
「ん?何?」
 よくわからないながらも慧は、聞く体制に入ってくれた。
 茉莉は続ける。
「かなり大粒のダイヤモンドが。バーっと」
「ふうん、凄いキレイだろうね」
「多分、感動だと、思うんです。地球人にとってのダイヤモンドの雨は。でもきっと、天王星からしたら、液体の水が雨で降っている方がキレイだと感じると思うんです。ほら、よく、水がある星って貴重とか言うじゃないですか。私も詳しくないですけど……」
「うん」
「あの、だから、何が言いたいかっていうと……。
立場が変われば、キレイなものって変わるっていうか。私や海衣さんが星をキレイだと思ってる一方で、星なんていっぱいある、そんなものより海衣さんを見ている方がキレイだ、と天野さんが思っても、何ら不思議はないな、と思ったんです。地球人にとってのダイヤモンドの雨は、人それぞれ、かなぁ、と」
 茉莉一気に言った。引かれていないだろうか、寧ろ何いってんだか、自分でもわからなくなってきてしまった。
 茉莉は、言ってしまってからまた凹んだ。
「んと、つまり、私の気持ちわかってくれたってことでいいのかな?」
「まあ、はい」
 茉莉は、いつの間にか運ばれてきたアイスを突きながら頷く。
「まあ、私は天野さんの、星と海衣さんへの気持ちをを、ダイヤモンドと水で理解したわけですけども」
「理解の仕方がロマンチックだね」
 慧に言われて、茉莉は赤くなる。
 確かに、ちょっとカッコつけたかもしれない。
 赤くなった茉莉を、よそに慧はぽん、と手を叩いた。
「よし!じゃあ本題いいかな?早速、次の約束決めよう」
「次の?」
 やっぱりそれが目的でファミレスに誘ったのか!茉莉はクラクラしそうになった。
「と、言いますが、あの、海衣さんが好きなら、私を好きな設定って邪魔になりませんか?」
「え?何で?」
 何でって?そんな簡単な事!
「だ、だ、だって、羽海さん、天野さんが私の事を好きだと思ってるんですよね?本当は海衣さんの事好きなのに。それに、女の子が好きって思われるのもかなり問題なのでは?」
「別に問題ないけど」
「え?」
「ああ、言ってなかったね。私は海衣くんと付き合いたいわけじゃないんだ。海衣くんはもうすぐ他の人と結婚するんだから」

 一瞬宇宙が訪れた。

 慧は、全く悲しい顔をしていなかった。寧ろ、優しい、幸せそうな顔だった。
「それに、『私は海衣くんを絶好好きにならないから安心して。私は女の子が好きなんだもん』ってずっと嘘ついて近くにいさせてもらってた卑怯者なんだし。今さら本当は海衣くんが好き、だなんていうのは反則でしょ」
 慧はいたずらっ子のように笑う。
「いいの。海衣くんは好きな人と結婚する。私はギリギリまで近くにいたい。それだけだし」

 好きな人が、好きな事をしていることが嬉しい。
 好きな人が好きな人と、幸せになることが嬉しい。
 この人の愛は宇宙だ。

 愛も恋もわからないくせに、茉莉はそう思ってしまった

 あの後の事は覚えていない。
 気づけば、次の空いている夜の予定を聞き出されて、「海衣くんと予定合わせたらまた連絡する」と慧に言われて、ファミレスで解散していた。


 茉莉は、布団に入って今日の事を考えた。
 星空はキレイだった。思ったより対人関係はキツくなかった。
 寧ろ、誰かと天体観測をするのは初めてだったが、とても楽しかった。
 それと同時に、なんだか疲れた。
 好きとか、興味とか、こんなに難しいものだったのかな。
 茉莉には全くわからなかった。
 眠れない。
 明日は休みだし、ずっと起きていてもいいのかもしれない。
 茉莉はベランダに出ることにした。

 慧はいつまで続けるのだろうか。
 街のここからでも一応星は見える。いい望遠鏡でみたいなら天文台にでもいけばいい。茉莉が断る技術さえ手に入れれば、いつでも終わらせることはできる。
 海衣と会わなくなるのは少し寂しい気がしたが。
 それでも、この訳のわからない恋愛に関わっているのが、茉莉にとって居心地が悪すぎるのだった。
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