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私一緒に逃げてないし
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結局隼の事は何も分からずに花水木での仕事を終えた。
ハナはナツキとリッツンと一緒に、送迎の車を待っていた。ナツキは、カバンを必死で漁っている。
「やべ、スマホ無い。どっか置き忘れたかも。取りに行ってくる」
「早く取ってきな。送迎の車すぐ来るよ」
リッツンは呆れたような顔をして言った。
ナツキは急いで店に戻っていく。
「ハナ?だっけアンタ。アンタって、池田隼の知り合い?」
ハナと二人きりになったリッツンは、目を合わせないまま、ポツリと突然言った。
リッツンの口から隼の名前が出てきて、ハナは驚いて一瞬声が出なかった。
「知り合いじゃなかった?さっきトイレの近くで店長に詰められてるとこ見ちゃって。その時にチラッと聞いたんだけど」
ハナが何も言わないので、リッツンは心配そうに聞いた。ハナは首をブンブンと横に振った。
「知り合いです!」
「あんまり大きい声出さないで。この店であの男の事禁句じゃん?」
リッツンは迷惑そうな顔をしたので、ハナは慌てて自分の口を塞いだ。
「ご、ごめんなさい」
まあいいよ、とあっさりと言うリッツンに、ハナは小さい声で答えた。
「私の恋人なんです」
ハナの答えに、リッツンは一瞬目を泳がせた。
「恋人?あー、兄妹とか友達とかじゃなくて恋人?」
「はい」
「あー、そう」
リッツンは動揺したような表情を浮かべた。
ハナはリッツンの話の続きを待ったが、リッツンはそれ以上何も言おうとしない。
「えっと、リッツンさんは隼を知ってるんですか」
「んー、まあ」
「今、隼がどこにいるか知ってますか?」
「いや、知らないよ」
リッツンはキッパリと言った。しかし何か歯切れが悪い。
「あの、何でもいいので知ってる事教えてもらえますか?どんな事でもいいので」
ハナの必死の懇願に、リッツンは困ったような顔を浮かべ、そして小さくため息をついた。
「私が知ってるのは1つだけなの。池田隼は、店の売上金パクって【恋人と逃げている】って事だけ」
ハナは、リッツンの言っている意味が分からず、ポカンとした。
「え?それ、おかしいですよ。だって、私一緒に逃げてなんかいないですし」
ハナが言うのを、リッツンは黙って聞いていた。今度はしっかりとこちらを見つめている。その目には同情心が浮かんでいた。
「それって、噂話ですか?それなら違いますね。だって、だって私、一緒に逃げてるどころか、行方すら知らないし……」
ジワジワと嫌な予感がハナに近寄ってきていたが、ハナは気づかないふりをしながら喋り続けた。
「えっと、あ、一人で逃げてないってことですかね?誰か友達が逃げるのを手伝ってくれてるってことかもしれない……」
「いや、本当に恋人と逃げてるんだよ」
リッツンはハナの言葉を遮って言った。そして大きなため息をついた。
「ごめん、てっきり兄妹とかかと思ってて、こんな事言うべきじゃなかった」
リッツンは頭を抱えた。
「いえ……。教えてください」
ハナは震えながらリッツンに言った。
「どういう事なんですか。何でリッツンさんが知ってるんですか。あの、本当に大丈夫なので、知ってる事教えて下さい」
リッツンはまた辺りを見回して、人がいないことを再度確認してから言った。
「私の友達だから。池田と今一緒に逃げてるのは」
その言葉に、ハナは目を見開いてリッツンを見た。
リッツンは続けた。
「友達は、花水木のキャストだったんだけど、新人黒服の池田と付き合い始めて。キャストに手を出したら黒服罰金だから、友達はバレる前にキャスト辞めて、普通のバーで働いてたんだけど。
ある時、彼氏が店の金に手を出したから一緒に逃げてるって連絡来てさ。
まさかと思ってたら、マジっぽいし。それから連絡も取れなくなるし」
リッツンは、スマホを取り出して、ハナに渡した。
そこには、隼と、ハナの知らない女性がツーショットで写っている写真があった。
「この男で間違いないよね?」
リッツンの問いに、ハナは小さく頷いた。リッツンは申し訳なさそうに言った。
「私も友達の行方知りたかったから、今日のヘルプ自分から行くって言ったんだ。花水木行ったらなんかわかるかな、って思って。
そしてアンタの話聞いて、アンタに話振ったんだけど……うん、ゴメンね」
「謝らないで下さい」
虚しくなるから。ハナはうつむいたままそれ以上何も言えなかった。
「お待たせー。ちょっとスマホ無くしたと思ってて焦ったら、フロアのソファーの隙間に挟まっててさぁ。まだ送迎の車来てないよね?……って、あれ?なんか空気暗くない?二人喧嘩した?」
意気揚々と戻ってきたナツキは、二人の異様に暗い雰囲気に圧倒されて動揺した。
「えっ?何?ハナもリッツンも死にそうな顔して」
「いや、何でもない。あー、さっきハナが厨房でつまみ食いして店長に怒られたのを気にしてたみたいだから励ましてただけ」
リッツンは素っ気なく誤魔化してくれた。
「何?リッツンも聞いてたのそれ。ハナー、別に大した事ないから。そんな死にそうな顔しなくてもいいよ」
「うん」
ハナは何とか顔の筋肉を動かして笑って見せる。
「多分リッツン愛想悪いから、励まし方下手くそだったんでしょ」
「失礼な」
ナツキの言葉に、リッツンは不貞腐れてみせた。
送迎の車が到着した。
その後、ハナはどうやってマンションに戻ったか覚えていない。
リッツンの言っていた事を何度も何度も反芻して、ふと気づけば自分の部屋にいて、真っ暗な中で何時間も座っていた。
ハナはナツキとリッツンと一緒に、送迎の車を待っていた。ナツキは、カバンを必死で漁っている。
「やべ、スマホ無い。どっか置き忘れたかも。取りに行ってくる」
「早く取ってきな。送迎の車すぐ来るよ」
リッツンは呆れたような顔をして言った。
ナツキは急いで店に戻っていく。
「ハナ?だっけアンタ。アンタって、池田隼の知り合い?」
ハナと二人きりになったリッツンは、目を合わせないまま、ポツリと突然言った。
リッツンの口から隼の名前が出てきて、ハナは驚いて一瞬声が出なかった。
「知り合いじゃなかった?さっきトイレの近くで店長に詰められてるとこ見ちゃって。その時にチラッと聞いたんだけど」
ハナが何も言わないので、リッツンは心配そうに聞いた。ハナは首をブンブンと横に振った。
「知り合いです!」
「あんまり大きい声出さないで。この店であの男の事禁句じゃん?」
リッツンは迷惑そうな顔をしたので、ハナは慌てて自分の口を塞いだ。
「ご、ごめんなさい」
まあいいよ、とあっさりと言うリッツンに、ハナは小さい声で答えた。
「私の恋人なんです」
ハナの答えに、リッツンは一瞬目を泳がせた。
「恋人?あー、兄妹とか友達とかじゃなくて恋人?」
「はい」
「あー、そう」
リッツンは動揺したような表情を浮かべた。
ハナはリッツンの話の続きを待ったが、リッツンはそれ以上何も言おうとしない。
「えっと、リッツンさんは隼を知ってるんですか」
「んー、まあ」
「今、隼がどこにいるか知ってますか?」
「いや、知らないよ」
リッツンはキッパリと言った。しかし何か歯切れが悪い。
「あの、何でもいいので知ってる事教えてもらえますか?どんな事でもいいので」
ハナの必死の懇願に、リッツンは困ったような顔を浮かべ、そして小さくため息をついた。
「私が知ってるのは1つだけなの。池田隼は、店の売上金パクって【恋人と逃げている】って事だけ」
ハナは、リッツンの言っている意味が分からず、ポカンとした。
「え?それ、おかしいですよ。だって、私一緒に逃げてなんかいないですし」
ハナが言うのを、リッツンは黙って聞いていた。今度はしっかりとこちらを見つめている。その目には同情心が浮かんでいた。
「それって、噂話ですか?それなら違いますね。だって、だって私、一緒に逃げてるどころか、行方すら知らないし……」
ジワジワと嫌な予感がハナに近寄ってきていたが、ハナは気づかないふりをしながら喋り続けた。
「えっと、あ、一人で逃げてないってことですかね?誰か友達が逃げるのを手伝ってくれてるってことかもしれない……」
「いや、本当に恋人と逃げてるんだよ」
リッツンはハナの言葉を遮って言った。そして大きなため息をついた。
「ごめん、てっきり兄妹とかかと思ってて、こんな事言うべきじゃなかった」
リッツンは頭を抱えた。
「いえ……。教えてください」
ハナは震えながらリッツンに言った。
「どういう事なんですか。何でリッツンさんが知ってるんですか。あの、本当に大丈夫なので、知ってる事教えて下さい」
リッツンはまた辺りを見回して、人がいないことを再度確認してから言った。
「私の友達だから。池田と今一緒に逃げてるのは」
その言葉に、ハナは目を見開いてリッツンを見た。
リッツンは続けた。
「友達は、花水木のキャストだったんだけど、新人黒服の池田と付き合い始めて。キャストに手を出したら黒服罰金だから、友達はバレる前にキャスト辞めて、普通のバーで働いてたんだけど。
ある時、彼氏が店の金に手を出したから一緒に逃げてるって連絡来てさ。
まさかと思ってたら、マジっぽいし。それから連絡も取れなくなるし」
リッツンは、スマホを取り出して、ハナに渡した。
そこには、隼と、ハナの知らない女性がツーショットで写っている写真があった。
「この男で間違いないよね?」
リッツンの問いに、ハナは小さく頷いた。リッツンは申し訳なさそうに言った。
「私も友達の行方知りたかったから、今日のヘルプ自分から行くって言ったんだ。花水木行ったらなんかわかるかな、って思って。
そしてアンタの話聞いて、アンタに話振ったんだけど……うん、ゴメンね」
「謝らないで下さい」
虚しくなるから。ハナはうつむいたままそれ以上何も言えなかった。
「お待たせー。ちょっとスマホ無くしたと思ってて焦ったら、フロアのソファーの隙間に挟まっててさぁ。まだ送迎の車来てないよね?……って、あれ?なんか空気暗くない?二人喧嘩した?」
意気揚々と戻ってきたナツキは、二人の異様に暗い雰囲気に圧倒されて動揺した。
「えっ?何?ハナもリッツンも死にそうな顔して」
「いや、何でもない。あー、さっきハナが厨房でつまみ食いして店長に怒られたのを気にしてたみたいだから励ましてただけ」
リッツンは素っ気なく誤魔化してくれた。
「何?リッツンも聞いてたのそれ。ハナー、別に大した事ないから。そんな死にそうな顔しなくてもいいよ」
「うん」
ハナは何とか顔の筋肉を動かして笑って見せる。
「多分リッツン愛想悪いから、励まし方下手くそだったんでしょ」
「失礼な」
ナツキの言葉に、リッツンは不貞腐れてみせた。
送迎の車が到着した。
その後、ハナはどうやってマンションに戻ったか覚えていない。
リッツンの言っていた事を何度も何度も反芻して、ふと気づけば自分の部屋にいて、真っ暗な中で何時間も座っていた。
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