怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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ワインの試飲会

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 ※※※※

 その日、ハナはマーメイドが定休日なのもあって、気合を入れた夕食を作った。

 マーメイドの店長から教わった、海鮮パスタだ。材料は安い物を使ったのでお店で出すものより格段に味は落ちるが、それでも満足出来る出来になった。

「いっぱい作っちゃったな」

 ハナはそう呟きながら、一息ついた。


 今日は弦人は来るだろうか。ふとそう思いながら湯気の立ったパスタを見つめた。


 ここ数日は忙しいのか来ていないが、弦人はあの日、恋人になると約束した日から毎日のように仕事の合間を縫ってはここに来ていた。

 そして会いに来ては、デロデロに甘やかして行くのだ。

 嬉しそうな声で何度も「ハナちゃん」と呼びかけ、顔を向ければいつも満面の笑みを返してくれる。「ありがとう」「可愛いね」「凄いね」「賢いね」「大好きだよ」と何度聞いたか分からない。

 そんなにしてくれるのに、むしろそうして優しくされるたびに、ハナはどうしても隼の事を思い出してしまうのだ。

 隼もこうして優しく呼びかけてくれたっけ。隼はたまに不機嫌になることもあったな。

 隼はあまり好きっては言ってくれなかったけど、私が好きって言えば、笑ってくれたっけ。

 最悪なのは分かっている。



 ――このまま私は隼のことが忘れられないままなのかもしれない。こんな状況なら、やっぱり死にたい。

 隼に裏切られてたくせに、そんな馬鹿な思考が抜けないのだ。



 その一方で、身勝手な欲求まで生まれていることに、ハナは薄々気づいていた。

 どうして、弦人さんはあの日以来……。

 やっぱり馬鹿な私を怒っているのかもしれない。



 その時、ハナの部屋のチャイムが鳴った。

「本当にハナ、カンナの隣の部屋じゃん、ウケる」

 訪ねてきたのはナツキだ。

「ほら、昨日社長から店に、高級ワイン何種類もお歳暮で送られてきてみんなで分けたじゃん?で、全種類飲み比べしたいよねって話になって、カンナの部屋に持ち寄って飲み比べしようってなってさ」

「楽しそう」

「そ。だからハナもおいで。ハナは何のワイン選んだんだっけ?」

 ナツキに言われて、ハナは台所から、昨日店で貰ってきたワインを持ってきた。

「え?それ?その辺でも売ってる、なんちゃってワインじゃん」

 ナツキがつまらなそうに文句を言ってきたので、ハナは言い訳するように口を尖らせる。

「だって、あんまりお酒が得意じゃ無い人は高級ワインはかえって飲みづらいからって。これなら度数も小さいから、店にお歳暮が届いたらこれを選ぶといいって弦人さんが……」

「なるほどぉ、弦人さんが、ねえ……」

 ナツキはニヤニヤと笑うと、ハナを部屋から連れ出してカンナの部屋に連れてくるなり言った。

「ちょっと!ハナと社長の惚気話ツマミに酒飲もうぜ!」

「ナツキさん!?ちょっと何言ってるんですか!」

「んな甘ったるい話で酒が飲めるかぁ!」

 カンナの部屋からそんな楽しそうな怒号が聞こえてきた。



 カンナの部屋には、マーメイドのキャスト全員ではないものの、5、6人程座っていた。

「あんまり大声ではしゃがないでよ」

 カンナが軽く注意する。

「ハナ、あんまり酒強くないよね?ワインじゃなく、低アルコールのチューハイにしとく?」

「うん、それにしようかな」

 カンナが言ってくれたので、ありがたくその言葉に甘えようとしたのだが、ナツキが遮ってきた。

「そんな事言わないでさ、ほらいいお酒いっぱいあるのよ。少し酔ってくれなきゃ面白い話もしてくれないでしょ」

「ナツキー、アルハラー」

 ナツキと仲のいいミカがからかった。

「キャバ嬢の辞書にアルハラの文字はないの!」

 ナツキの勢いに、ハナは話を変えようと急いで言った。

「そ、そういえば、私今日店長から教えてもらった海鮮パスタ夕食に作ったんだけど、多めに作ったからおつまみに食べませんか?」

「店長直伝?食べる食べる!」

 こうして、カンナの部屋で海鮮パスタをつまみにワインの試飲会が始まった。




 そして結局ナツキは許してくれず、ハナは何度かそこそこ度数のあるお酒を注がれることになった。


 しばらくすると、現役キャバ嬢のみんなはほとんど変わらないのに対し、ハナはちょうどよく酔っ払ってきた。


「そろそろ教えてくもらおうじゃない?社長との惚気でも」

 ナツキがハナに迫ってきた。酔っ払っているハナは、

「いやぁだ、恥ずかしいー」

 上機嫌にクスクスと笑うのだった。

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