怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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集団幻覚

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 ワインの試飲会がただの飲み会になってきた頃、カンナの部屋のチャイムが鳴った。

「あ、社長!?」

 インターフォン越しに見えた姿に、カンナは慌ててドアを開けた。



 そこには、にっこりと微笑む弦人が立っていた。

「こんばんは。皆で宅飲み?楽しそうだね」

「お疲れ様です。昨日社長から頂いたワインを皆で飲み比べしてたんです。ありがとうございましたこんないいお酒」

 カンナが丁寧にお礼を言いながら弦人を部屋へ上げようとした。

「喜んでくれたなら何よりだよ。あ、別に部屋には入らないから大丈夫。

 ねえ、ハナちゃんもそこにいる?」

「ハナですか?いますよ。そこでヘニャヘニャになってます」

 カンナが指差した先には、ナツキの肩に頭を預けて眠そうにしているハナがいた。

「ハナ、社長来たよ」

 カンナに言われて、ハナは眠そうな目で弦人を見た。

「今、ハナから社長とのラブラブ話を聞いてたとこなんですよ」

 ナツキがハナの頭を撫でながらニヤニヤしながら言った。

「えっ?それは……ハナちゃん何言ってた?」

 弦人が不安そうにたずねると、ナツキやミカ達が肩をすくめて言った。

「まだ何も面白い話聞いてないですよ。訪ねてくるときは必ずハナの好物を買ってきて、アーンして食べさせようとするとかくらいしか」

「あと、部屋で映画見てるときにいつもくっついて肩抱いてくれるけど、怖いシーンやビックリするシーンが続くと、完全に抱いてるっていうかすがりついてる状態になってる、とかいう想像通りの話とか」

「恥ずかしい!」

 弦人は真っ赤になった。



「お楽しみの所に申し訳無いけど、これ以上恥ずかしい話が出るのも困るから、ハナちゃん連れて行ってもいい?」

 弦人が真っ赤な顔のままそうたずねると、「どうぞー」とナツキはハナを引き剥がそうとした。

 しかし、ハナはナツキの胸に顔を伏せて、ナツキに抱きついたまま甘えるように言った。



「いやだ弦人さんのとこ行かない。弦人さん、怒ってるもん」

「怒ってる?」

 ハナの言葉に、弦人は心底驚いて、オロオロしだした。

「え?何で?怒ってる?俺が?」



「これは、逆に社長が何かハナの地雷を踏んだに違いないですね」

「怒ってるのはハナのほうなんですよきっと」

「何か仕事忙しくて機嫌悪い日とかあったんじゃないですかー?」

 口々に言うカンナ達に、弦人はタジタジになってしまった。

 しかし、ハナはフルフルと首を振って、ナツキに抱きついたまま言った。

「違うもん。弦人さん、そういうのじゃないもん」

「じゃあどうしたの?ほら、今なら味方がいっぱいいるから言いたい事言っちゃいな」

 ナツキが優しく促すと、ハナはチラリと弦人を見て言った。



「だって、あの日以来、弦人さん抱いてくれない」



「何?」

「は?」

「ちょっと?」

 カンナ達は、ハナの言葉にキョトンとした。そしてすぐに、ナツキに抱きついているハナを引き剥がし、弦人に押し付けた。ハナはイヤイヤと首を振る。

「やだぁ。みんな何するんですかぁ」

「何じゃないわよ!ほら社長、さっさとハナを連れて行って下さい!」

「何だよ、抱いてくれないって。社長、ガンガンやっちゃって下さい!」

「でも今から隣の部屋でヤんないでくださいよ!気になって飲みに集中できなくなるんで!」

「あ、うん、分かったよ……」

 大勢のキャバ嬢達の勢いに圧倒されながら、弦人はハナを片手で持ち上げた。

「あー、じゃあお邪魔しました」

 そう言って、イヤイヤと暴れるハナを連れてカンナの部屋を後にした。




「まーったく、えらいバカップル見せつけられたわ」

「本当よねー」

 皆次々笑いながら文句を言った。

 カンナだけは、ふとハナが恋人がいると言っていた話を思い出して首を傾げたが、まあ後でゆっくりと問い詰めよう、と心に決めて一人頷いた。それよりもどうも気になったことがあり、呟いた。

「ねえ、さっき社長、ハナの事片手でヒョイっと持ち上げてなかった?いくらハナが小柄だからって、成人女性って片手で持ち上がるもの?」

「私もさっき思った……」

「でも、まさか社長がそんな力持ちのはずないよね?」

「じゃあ私達がさっき見たのは?」

「集団幻覚だよ」

「そっか。酔ってるしね。集団幻覚か」

 皆そう納得し、また酒盛りを再開するのだった。




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