25 / 68
集団幻覚
しおりを挟む
ワインの試飲会がただの飲み会になってきた頃、カンナの部屋のチャイムが鳴った。
「あ、社長!?」
インターフォン越しに見えた姿に、カンナは慌ててドアを開けた。
そこには、にっこりと微笑む弦人が立っていた。
「こんばんは。皆で宅飲み?楽しそうだね」
「お疲れ様です。昨日社長から頂いたワインを皆で飲み比べしてたんです。ありがとうございましたこんないいお酒」
カンナが丁寧にお礼を言いながら弦人を部屋へ上げようとした。
「喜んでくれたなら何よりだよ。あ、別に部屋には入らないから大丈夫。
ねえ、ハナちゃんもそこにいる?」
「ハナですか?いますよ。そこでヘニャヘニャになってます」
カンナが指差した先には、ナツキの肩に頭を預けて眠そうにしているハナがいた。
「ハナ、社長来たよ」
カンナに言われて、ハナは眠そうな目で弦人を見た。
「今、ハナから社長とのラブラブ話を聞いてたとこなんですよ」
ナツキがハナの頭を撫でながらニヤニヤしながら言った。
「えっ?それは……ハナちゃん何言ってた?」
弦人が不安そうにたずねると、ナツキやミカ達が肩をすくめて言った。
「まだ何も面白い話聞いてないですよ。訪ねてくるときは必ずハナの好物を買ってきて、アーンして食べさせようとするとかくらいしか」
「あと、部屋で映画見てるときにいつもくっついて肩抱いてくれるけど、怖いシーンやビックリするシーンが続くと、完全に抱いてるっていうかすがりついてる状態になってる、とかいう想像通りの話とか」
「恥ずかしい!」
弦人は真っ赤になった。
「お楽しみの所に申し訳無いけど、これ以上恥ずかしい話が出るのも困るから、ハナちゃん連れて行ってもいい?」
弦人が真っ赤な顔のままそうたずねると、「どうぞー」とナツキはハナを引き剥がそうとした。
しかし、ハナはナツキの胸に顔を伏せて、ナツキに抱きついたまま甘えるように言った。
「いやだ弦人さんのとこ行かない。弦人さん、怒ってるもん」
「怒ってる?」
ハナの言葉に、弦人は心底驚いて、オロオロしだした。
「え?何で?怒ってる?俺が?」
「これは、逆に社長が何かハナの地雷を踏んだに違いないですね」
「怒ってるのはハナのほうなんですよきっと」
「何か仕事忙しくて機嫌悪い日とかあったんじゃないですかー?」
口々に言うカンナ達に、弦人はタジタジになってしまった。
しかし、ハナはフルフルと首を振って、ナツキに抱きついたまま言った。
「違うもん。弦人さん、そういうのじゃないもん」
「じゃあどうしたの?ほら、今なら味方がいっぱいいるから言いたい事言っちゃいな」
ナツキが優しく促すと、ハナはチラリと弦人を見て言った。
「だって、あの日以来、弦人さん抱いてくれない」
「何?」
「は?」
「ちょっと?」
カンナ達は、ハナの言葉にキョトンとした。そしてすぐに、ナツキに抱きついているハナを引き剥がし、弦人に押し付けた。ハナはイヤイヤと首を振る。
「やだぁ。みんな何するんですかぁ」
「何じゃないわよ!ほら社長、さっさとハナを連れて行って下さい!」
「何だよ、抱いてくれないって。社長、ガンガンやっちゃって下さい!」
「でも今から隣の部屋でヤんないでくださいよ!気になって飲みに集中できなくなるんで!」
「あ、うん、分かったよ……」
大勢のキャバ嬢達の勢いに圧倒されながら、弦人はハナを片手で持ち上げた。
「あー、じゃあお邪魔しました」
そう言って、イヤイヤと暴れるハナを連れてカンナの部屋を後にした。
「まーったく、えらいバカップル見せつけられたわ」
「本当よねー」
皆次々笑いながら文句を言った。
カンナだけは、ふとハナが恋人がいると言っていた話を思い出して首を傾げたが、まあ後でゆっくりと問い詰めよう、と心に決めて一人頷いた。それよりもどうも気になったことがあり、呟いた。
「ねえ、さっき社長、ハナの事片手でヒョイっと持ち上げてなかった?いくらハナが小柄だからって、成人女性って片手で持ち上がるもの?」
「私もさっき思った……」
「でも、まさか社長がそんな力持ちのはずないよね?」
「じゃあ私達がさっき見たのは?」
「集団幻覚だよ」
「そっか。酔ってるしね。集団幻覚か」
皆そう納得し、また酒盛りを再開するのだった。
「あ、社長!?」
インターフォン越しに見えた姿に、カンナは慌ててドアを開けた。
そこには、にっこりと微笑む弦人が立っていた。
「こんばんは。皆で宅飲み?楽しそうだね」
「お疲れ様です。昨日社長から頂いたワインを皆で飲み比べしてたんです。ありがとうございましたこんないいお酒」
カンナが丁寧にお礼を言いながら弦人を部屋へ上げようとした。
「喜んでくれたなら何よりだよ。あ、別に部屋には入らないから大丈夫。
ねえ、ハナちゃんもそこにいる?」
「ハナですか?いますよ。そこでヘニャヘニャになってます」
カンナが指差した先には、ナツキの肩に頭を預けて眠そうにしているハナがいた。
「ハナ、社長来たよ」
カンナに言われて、ハナは眠そうな目で弦人を見た。
「今、ハナから社長とのラブラブ話を聞いてたとこなんですよ」
ナツキがハナの頭を撫でながらニヤニヤしながら言った。
「えっ?それは……ハナちゃん何言ってた?」
弦人が不安そうにたずねると、ナツキやミカ達が肩をすくめて言った。
「まだ何も面白い話聞いてないですよ。訪ねてくるときは必ずハナの好物を買ってきて、アーンして食べさせようとするとかくらいしか」
「あと、部屋で映画見てるときにいつもくっついて肩抱いてくれるけど、怖いシーンやビックリするシーンが続くと、完全に抱いてるっていうかすがりついてる状態になってる、とかいう想像通りの話とか」
「恥ずかしい!」
弦人は真っ赤になった。
「お楽しみの所に申し訳無いけど、これ以上恥ずかしい話が出るのも困るから、ハナちゃん連れて行ってもいい?」
弦人が真っ赤な顔のままそうたずねると、「どうぞー」とナツキはハナを引き剥がそうとした。
しかし、ハナはナツキの胸に顔を伏せて、ナツキに抱きついたまま甘えるように言った。
「いやだ弦人さんのとこ行かない。弦人さん、怒ってるもん」
「怒ってる?」
ハナの言葉に、弦人は心底驚いて、オロオロしだした。
「え?何で?怒ってる?俺が?」
「これは、逆に社長が何かハナの地雷を踏んだに違いないですね」
「怒ってるのはハナのほうなんですよきっと」
「何か仕事忙しくて機嫌悪い日とかあったんじゃないですかー?」
口々に言うカンナ達に、弦人はタジタジになってしまった。
しかし、ハナはフルフルと首を振って、ナツキに抱きついたまま言った。
「違うもん。弦人さん、そういうのじゃないもん」
「じゃあどうしたの?ほら、今なら味方がいっぱいいるから言いたい事言っちゃいな」
ナツキが優しく促すと、ハナはチラリと弦人を見て言った。
「だって、あの日以来、弦人さん抱いてくれない」
「何?」
「は?」
「ちょっと?」
カンナ達は、ハナの言葉にキョトンとした。そしてすぐに、ナツキに抱きついているハナを引き剥がし、弦人に押し付けた。ハナはイヤイヤと首を振る。
「やだぁ。みんな何するんですかぁ」
「何じゃないわよ!ほら社長、さっさとハナを連れて行って下さい!」
「何だよ、抱いてくれないって。社長、ガンガンやっちゃって下さい!」
「でも今から隣の部屋でヤんないでくださいよ!気になって飲みに集中できなくなるんで!」
「あ、うん、分かったよ……」
大勢のキャバ嬢達の勢いに圧倒されながら、弦人はハナを片手で持ち上げた。
「あー、じゃあお邪魔しました」
そう言って、イヤイヤと暴れるハナを連れてカンナの部屋を後にした。
「まーったく、えらいバカップル見せつけられたわ」
「本当よねー」
皆次々笑いながら文句を言った。
カンナだけは、ふとハナが恋人がいると言っていた話を思い出して首を傾げたが、まあ後でゆっくりと問い詰めよう、と心に決めて一人頷いた。それよりもどうも気になったことがあり、呟いた。
「ねえ、さっき社長、ハナの事片手でヒョイっと持ち上げてなかった?いくらハナが小柄だからって、成人女性って片手で持ち上がるもの?」
「私もさっき思った……」
「でも、まさか社長がそんな力持ちのはずないよね?」
「じゃあ私達がさっき見たのは?」
「集団幻覚だよ」
「そっか。酔ってるしね。集団幻覚か」
皆そう納得し、また酒盛りを再開するのだった。
10
あなたにおすすめの小説
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
堅物上司の不埒な激愛
結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。
恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。
次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。
しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる