怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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聞き上手

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 車はサービスエリアに一旦停まった。

 市原がたばこ休憩している間に、ハナは車の中で急いで服を着た。

「服が温かい……」

 どうやら服を入れていた紙袋に、湯たんぽも入っていたらしい。どこまでもいたりつくせりだ。


「ハナちゃん着た?トイレ寄っておいた方がいいよ」

 弦人が言うので、ハナは大人しく頷いて車を出た。

 トイレの入口まで弦人は着いてきた。

「別に、こんな所で逃げたりしませんよ。一応今は弦人さんの恋人ですし」

 ハナが言うと、弦人は口を尖らせた。

「監視してるわけじゃないよ。さっきまでヘニャヘニャに酔っ払ってたから、具合悪くなってないか心配してるだけ」

「そう、ですか」

 ハナは拍子抜けして頷いた。


 トイレから出て、再度弦人と一緒に車に乗り込むと、ハナは水を飲みなが呟くように言った。

「隼も、ドライブの時には市原さんみたいにたばこ休憩を入れてました。結構ヘビースモーカーなんですが、私が吸わないから、一応車では吸わないように気を遣ってくれてたんです」

「じゃあ市原と同じだな。俺があんまりたばこ得意じゃないから、必ず離れて吸うんだ」

「弦人さんたばこ吸わないんですね。イメージ通り」

 ハナはクスクスと笑った。

「タバコ休憩のタイミングで私はトイレに行ってたけど、弦人さんみたいに着いてきた事は無かったですね。ていうか、タバコ休憩のタイミングじゃないときにトイレに行きたいなんて言ったら、隼は機嫌悪くなってたな」

 そう言って、ハナは遠くを見つめた。



 市原が戻ってきたので、車は再度出発した。

「ところでどこに行くんですか?山奥って言ってましたけど」

「秘密。もうすぐ着くと思うけど、寝ててもいいよ。まだ眠いでしょ?」

 弦人はハナを撫でながら、さっきまでハナを巻いていたブランケットをかけてくれた。ほんのり暖かく、どうやらさっきまで服を温めていた湯たんぽでブランケットも温めておいてくれたらしい。

「本当に、いたれりつくせり……」

「ふふ、眠くなっちゃうでしょ?」

 弦人はドヤ顔をしてみせた。ハナは、ブランケットを顔まで引き寄せて思い出したように言った。

「隼もね、布団とか温めてくれてたんです」

「そっかぁ、やっぱり布団温かいと気持ちいいよね」

「自分の体温で温めておいてくれて。そして、寝るときにはおいで、って手招きしてくれてた」

「あー、いいなぁそれ。俺も今度したいな。きっとハナちゃんは恥ずかしそうに布団に潜り込んでくるんだろうね。想像しただけで可愛いな」

 そうだっただろうか。ハナはもう一度ちゃんと思い出してみる。

「どっちかって言うと、私、嫌そうに布団に入ってた気がするな……」

「嫌そう?」

「私のタイミングじゃないから……。まだやらなきゃいけないことあるから寝たくないときでもおいでって言われたら行かないと隼は機嫌が悪くなるから」

 ハナはそう言いながらふと考えた。

「私嫌だった?……。ううん、でも……」

 頭が痛い。ハナは頭を抱えて、考えるのをやめた。

 ハナの口に、ラムネが一つ入れられた。口の中で甘酸っぱいものが溶けていく。

「二日酔いの頭痛には効くらしいけどどうかな?ほら、ちゃんと思い出してみてよ」

「ラムネ効かない。頭が痛い。考えたくない」

 ハナはフルフルと頭を振った。


 弦人がその様子を見て、何やらニヤリと笑ったのにハナは気づかなかった。



 車内はしばらく沈黙に包まれた。



 しばらくしてから、ハナがそっと独り言のように言った。

「弦人さんは、聞き上手ですね」

「そう?」

 弦人は遠くをみるような表情で懐かしむように言った。

「まだ若かった頃、俺みたいな性格のヤツは女の相手でもしてろって言われてさ。ソープに売られてきた女のコとひたすらお話しして逃げたりしないように監視してる役目をよくしてたんだ」

 そう言って、ハナを意地悪そうに見つめた。

「ハナちゃんが初めに捕まったマシュマロキャンディにはよく行ったよ。皆泣きながら色々話してくれたなー」

 ハナは、ふとセイラの事を思い出した。セイラも弦人に話を聞いてもらったことがあるのだろうか。セイラはあまり売られたという感じではなく、自分から積極的に仕事をしているようだが。

 でも、もし話を聞いてもらったのだとしたら……。

「そりゃ好きになっちゃうだろうなぁ」

 ハナが思わずそう漏らすと、弦人は急に目を輝かせた。

「え?何?好きになっちゃった?」

「あ、ちょっと違う事考えてて」

「なーんだ」

 弦人は不貞腐れた。

「まあいいや。頭が痛いならゆっくり少し寝てなよ。着いたら起こすから」

 そう言って、ハナの頭にブランケットをかぶせた。

 ハナは大人しく、目を閉じることにした。


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