怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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別れたみたい

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 ※※※※

 結局ハナは、セイラから罵倒された日からセイラに会うことも無く、ウヤムヤのまま数日が過ぎた。

 近づいたら嫌がらせをしてやる、と言われたとおり、近づくことは無いので嫌がらせはされていない。


 ピンポン、と部屋のインターフォンが鳴った。


 ちょうど出掛ける準備をしていたハナは、すぐにドアを開けた。

「リッツンさん?」

「お、今出掛けるとこだった?」

 訪ねてきたのは、ボーイッシュな私服を着たリッツンだった。

「ごめん、用事あるなら帰るわ」

「いえ、大丈夫です。別に急ぎの用事じゃないので。どうぞ」

 ハナはリッツンを招き入れた。



「リッツンさん、誰かから私の住所聞いたんですか?」

「あー、ナツキから、ハナと話がしたいんだけど連絡先教えてって言ったら住所教えてもらった。あいつの個人情報の概念どうなってんのかね」

「ナツキさん、私の連絡先知らないから」

 ハナは苦笑した。そういえば初めの頃逃げていた癖で、ほとんど誰とも連絡先を交換していなかった。キャストではカンナくらいしか知らない。

「そういえば今更なんだけどさ、私の事リッツンって呼ぶの、ナツキだけだから。私の名前、律子りつこって、言うの」

「律子さんでしたか」

 確かにリッツンって不思議な源氏名だとは思っていた。

 ハナは律子にお茶を出してたずねた。

「それで、何かご用ですか?」

「あー、アンタには言っておこうかと思って」

 律子は少し言いづらそうに切り出した。



「私の友達、連絡取れるようになったんだ。今実家にいるみたいで」

「良かったじゃないですか!」

 心からそう言った。

「心配してましたもんね。実家にいるなら安心……実家?」

 ハナは聞き返した。

「実家っていうのは……つまり?」

「避難してるんだって。池田隼を探してるヤクザに池田と一緒に住んでるアパート見つかって、部屋に嫌がらせすごいされて。で、ヤクザにビビった池田はアパートに帰って来なくなったから、友達はアパート解約して実家に帰ったらしい。今回の件で池田に愛想尽かして別れたみたいなんだ」

「……そうなんだ」

「あー、だからもしかしたら」

「私も、隼の事はもういいんです」

 ハナは律子に笑顔で言った。

「教えてくれてありがとうございます。でも、私も最近吹っ切れたところで」

「そうなんだ」

 律子は明らかにホッとした顔をした。

「もしかしたらアンタの所に池田がまた戻って来るかもしれないと思って。アンタがいいながらいいけど、ヤクザ達本気だから、下手に匿ったりすればアンタの身も危ないだろうから、心配したんだけど。余計なお世話だったね」

「いえ、心配してくれてありがとうございます」

 ハナはにこやかに答えた。



 律子はお茶を飲み干すとすぐに帰っていった。

 本当に、心配してくれて伝えるためだけに来てくれたらしい。

 ハナは、律子が帰ったのを確認すると、へたりとしゃがみこんだ。

 ――隼が、追われている。

 わかってはいたが、こうして実際に聞くとドキリと心臓が跳ねてしまう。


 隼の事は本当に吹っ切れている。今更別に会ったからといってどうこうなるつもりは一切ない。

 ただ、ハナが最近まであれだけ熱を上げていた人だ。

 心配してしまうのは無理がない。

『下手に匿ったりすればアンタの身も危ないだろうから』

 律子の言っていることは全くその通りだ。ただ、もし会ってしまったら。隼が助けを求めてきたら、ハナはそれを拒否できるだろうか。


「とにかく、早くアパート解約しよう」

 ハナはそう決心した。

 元々今日は、明日弦人が助っ人を用意してくれて引っ越しをするので、前のアパートの荷物を少しでも片付けに行こうと思っていたのだ。

 早く、隼の帰る場所を無くして、隼を私の中から追い出さなきゃ。私がぶれちゃいけない。

 ハナは以前のアパートに向った。
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