怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

文字の大きさ
49 / 68

約束をはたしてもらうの

しおりを挟む

 ※※※※


 ここがどこなのかは分からなかった。

 人気のない暗い倉庫。ドラマのヤンキー殴り合いシーンとかこういう場所だよな、なんて現実逃避な事をハナは考えていた。

 潮の匂いがする。海が近いのだろうか。

 やっぱり海にしずめられるのだろうか。


 ハナは縛られて車に乗せられたままだ。車には鍵がかけられて、中からは開かないようになっているらしい。


 隼は別な車で連れてこられて、一足先にこの倉庫に来ていたようだ。

 何やら、隼の助けを求めるような叫び声がたまに聞こえてきて、ハナは耳を塞ぎたくなる。


 殺されるんだろうな、とハナは思った。


 殺される機会は、始めに弦人にナイフを向けた時からあった。あの時は覚悟があった。先延ばしになってただけだ。


 ただ、ここ数日、とても楽しくて幸せだった。

 仕事もキャストの皆と話すのは楽しかった。店長に色んな料理を教えてもらった。

 弦人はいつだって自分を肯定してくれた。優しくしてくれた。

 それなのに自分は何も返せなかった。

 ただ、隼の存在をハナから追い出してほしいという願いすら、ハナは叶えることが出来なかった。追い出したつもりなのに、結局訳のわからない情に絆されて。


「私、バカみたい」


 こんなバカで身勝手な女でごめんなさい。


 ただ、どうせ身勝手なんだから、最後にもう1つだけ我儘を言おう。

 そうハナは思っていた。


 ハナの乗っている車のドアが開いた。


 車から降ろされたハナは、隼の近くに連れてこられた。

 隼はずいぶんと痛めつけられていたようだ。

「瑞希!!」

 隼がハナを呼んだ。ハナは無視した。


「俺は貰った拳銃をこいつに渡しただけだって!殺そうとしたとかそう言うのはこいつが勝手にやったんだって!」

 隼が必死になって周りにいるヤクザの男達に訴えていた。

「だとよ。本当かよ」

 スキンヘッドのヤクザがハナにたずねた。ハナは力なく言った。

「そんな事、どっちだって同じなんでしょ」

「瑞希!」

「どっちにしろ許してなんかもらえるわけないじゃない」

「こっちの女の方が賢いじゃねえか」

 ヒゲを生やしたヤクザが、ハナと隼を見比べて笑った。

「まあ確かに、ここまで来てただの事情聴取な訳はねえよな」

「まあ、死に方のリクエストくらいは聞いてやるよ」

 ヤクザ達が嘲笑って言った。


「じゃあお願いがあるの」


 ハナは顔をしっかりと上げて、ヤクザひとりひとりを見つめて言った。


「黒部弦人を呼んでください」


 ハナの言葉に、一瞬場が静まり返った。

 見たことのある男、花水木の店長がハナに近寄ってきて、呆れたように言った。

「馬鹿かテメェは。あのなぁ、今更社長に媚び売ったって無理だぞ。ああ見えて社長は残酷で怖えからな。したことのケジメはキッチリ取らせるぜ」

「知ってる」

 ハナはハッキリと言った。


「許してもらおうとしてるんじゃないの。約束したの。隼の事が忘れられなかったら、弦人さんが私を殺してくれるって」

 ハナはそう言って、笑顔を作って見せてやった。

「骨一つ見つからないように処分してくれるって言ってた。その約束を果たしてもらうの」


 スキンヘッドが静かに言った。
「そいつは贅沢なお願いだな」

 タバコを咥えたまま、ハナの顔に手をかけた。

「こっちはあの池田の野郎を捕まえるのに相当手こずっちまってるからな。悪いが、これ以上社長の手を煩わせるわけにはいかねえんだ」

「それはそっちの事情でしょ。これはこっちの事情なの」

 平然と言い放つハナを、花水木の店長が面倒臭そうに睨んだ。

「相変わらず可愛くねえ女だ。社長の趣味もどうかしてやがる」

「本人に言ってください」

 どうせ殺されるんだし、とヤケクソなハナは憎まれ口を叩く。

「ねえ、連絡してよ。嫌だ、約束したもん」

「うるせえな。別にこいつは盗んだ金の在り処わかるわけじゃねえから拷問する必要ねえし、先にこの女始末するぞ」

 ヒゲは、ハナを抱えて倉庫を出ていった。


 倉庫の外は、予想通り海だった。

 暗い埠頭に波の音だけが聞こえる。


 あ、コンクリとか重りとかつけないでそのまま投げられちゃうんだ。


「そんな雑にやるなら、やっぱり弦人さんに殺して貰いたかったな」

 ハナが抱えられながらグズグズ言うのを聞いて、ヒゲは
「なんか大騒ぎされるよりやりづれえな」
と呟いた。


 そう呟いたにも関わらず、ヒゲは何の躊躇も無く、ハナを埠頭の先から勢いよく海に放り投げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

お客様はヤの付くご職業・裏

古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。 もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。 今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。 分岐は 若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺) 美香による救出が失敗した場合 ヒーロー?はただのヤンデレ。 作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。 恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。 次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。 しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

処理中です...