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約束をはたしてもらうの
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ここがどこなのかは分からなかった。
人気のない暗い倉庫。ドラマのヤンキー殴り合いシーンとかこういう場所だよな、なんて現実逃避な事をハナは考えていた。
潮の匂いがする。海が近いのだろうか。
やっぱり海にしずめられるのだろうか。
ハナは縛られて車に乗せられたままだ。車には鍵がかけられて、中からは開かないようになっているらしい。
隼は別な車で連れてこられて、一足先にこの倉庫に来ていたようだ。
何やら、隼の助けを求めるような叫び声がたまに聞こえてきて、ハナは耳を塞ぎたくなる。
殺されるんだろうな、とハナは思った。
殺される機会は、始めに弦人にナイフを向けた時からあった。あの時は覚悟があった。先延ばしになってただけだ。
ただ、ここ数日、とても楽しくて幸せだった。
仕事もキャストの皆と話すのは楽しかった。店長に色んな料理を教えてもらった。
弦人はいつだって自分を肯定してくれた。優しくしてくれた。
それなのに自分は何も返せなかった。
ただ、隼の存在をハナから追い出してほしいという願いすら、ハナは叶えることが出来なかった。追い出したつもりなのに、結局訳のわからない情に絆されて。
「私、バカみたい」
こんなバカで身勝手な女でごめんなさい。
ただ、どうせ身勝手なんだから、最後にもう1つだけ我儘を言おう。
そうハナは思っていた。
ハナの乗っている車のドアが開いた。
車から降ろされたハナは、隼の近くに連れてこられた。
隼はずいぶんと痛めつけられていたようだ。
「瑞希!!」
隼がハナを呼んだ。ハナは無視した。
「俺は貰った拳銃をこいつに渡しただけだって!殺そうとしたとかそう言うのはこいつが勝手にやったんだって!」
隼が必死になって周りにいるヤクザの男達に訴えていた。
「だとよ。本当かよ」
スキンヘッドのヤクザがハナにたずねた。ハナは力なく言った。
「そんな事、どっちだって同じなんでしょ」
「瑞希!」
「どっちにしろ許してなんかもらえるわけないじゃない」
「こっちの女の方が賢いじゃねえか」
ヒゲを生やしたヤクザが、ハナと隼を見比べて笑った。
「まあ確かに、ここまで来てただの事情聴取な訳はねえよな」
「まあ、死に方のリクエストくらいは聞いてやるよ」
ヤクザ達が嘲笑って言った。
「じゃあお願いがあるの」
ハナは顔をしっかりと上げて、ヤクザひとりひとりを見つめて言った。
「黒部弦人を呼んでください」
ハナの言葉に、一瞬場が静まり返った。
見たことのある男、花水木の店長がハナに近寄ってきて、呆れたように言った。
「馬鹿かテメェは。あのなぁ、今更社長に媚び売ったって無理だぞ。ああ見えて社長は残酷で怖えからな。したことのケジメはキッチリ取らせるぜ」
「知ってる」
ハナはハッキリと言った。
「許してもらおうとしてるんじゃないの。約束したの。隼の事が忘れられなかったら、弦人さんが私を殺してくれるって」
ハナはそう言って、笑顔を作って見せてやった。
「骨一つ見つからないように処分してくれるって言ってた。その約束を果たしてもらうの」
スキンヘッドが静かに言った。
「そいつは贅沢なお願いだな」
タバコを咥えたまま、ハナの顔に手をかけた。
「こっちはあの池田の野郎を捕まえるのに相当手こずっちまってるからな。悪いが、これ以上社長の手を煩わせるわけにはいかねえんだ」
「それはそっちの事情でしょ。これはこっちの事情なの」
平然と言い放つハナを、花水木の店長が面倒臭そうに睨んだ。
「相変わらず可愛くねえ女だ。社長の趣味もどうかしてやがる」
「本人に言ってください」
どうせ殺されるんだし、とヤケクソなハナは憎まれ口を叩く。
「ねえ、連絡してよ。嫌だ、約束したもん」
「うるせえな。別にこいつは盗んだ金の在り処わかるわけじゃねえから拷問する必要ねえし、先にこの女始末するぞ」
ヒゲは、ハナを抱えて倉庫を出ていった。
倉庫の外は、予想通り海だった。
暗い埠頭に波の音だけが聞こえる。
あ、コンクリとか重りとかつけないでそのまま投げられちゃうんだ。
「そんな雑にやるなら、やっぱり弦人さんに殺して貰いたかったな」
ハナが抱えられながらグズグズ言うのを聞いて、ヒゲは
「なんか大騒ぎされるよりやりづれえな」
と呟いた。
そう呟いたにも関わらず、ヒゲは何の躊躇も無く、ハナを埠頭の先から勢いよく海に放り投げた。
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