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ダサくない?
しおりを挟むすぐに冷たい海面に身体を叩きつけられる……はずだった。
しかしハナは何かに勢いよく足を引っ張られて、海には落ちずに埠頭の地面に転がった。
しかし、海からは、ザバン、何かが落ちる音がした。
「社長!早くこれに掴まって下さい!」
見ると、呆然としているヒゲのヤクザと、慌てて浮き輪を投げて、海から何かを引き上げようとしている市原が見えた。
「弦人……さん?」
市原が引き上げた、ビショビショで情けなさそうにブルブル凍えている男は、弦人だった。
「良かった、間に合った、クシュンっ。慌てたら俺が落ちちゃったけど」
「今、すぐに着替えお持ちします」
市原は、自分のジャケットを弦人に被せると、急いで何処かへ行ってしまった。車に積んである弦人の着替えを取りに行ったのだろう。
「うう、冬の海は、さすがにキツイね」
ブルブルと震えながら弦人はハナに微笑みかけた。
「大丈夫だった?怪我してない?」
「弦人さん!」
ハナは縛られたままなので、身体を捻って弦人に近寄った。
「弦人さん!来てくれたんですね!弦人さんが助けてくれたんですね!」
「うん」
「私を殺しに来てくれたんですね!」
「え?何で?違うよ」
「そんな……違うんですか!?」
絶望的な顔をしたハナに、弦人は困惑した。
「何で?何でショック受けてるの?」
「若頭、何してるんですか!」
ヒゲのヤクザは弦人を見て青い顔で近寄った。
「あはは。ちょっと手違いというか勘違いがあってね。電話しても誰も出ないから焦っちゃったよ。ちゃんと携帯電話は携帯しておいてよね」
弦人はヒゲに文句を言う。
「ちょっと話の食い違いがあったから、一回仕切り直ししよう。倉庫戻ろうか」
弦人は凍えながらも、しっかりとした口調で言った。
弦人に言われて、ヒゲはハナをまた抱えようとした。しかしそれは弦人に止められた。
「ゴメンね、ハナちゃんは俺が連れて行く。もう誰にも触られたくないんだ」
弦人はそう言って、ハナを抱えようと手を伸ばした。
海の水で濡れている弦人の手は氷のように冷たくて、その手に触れられて思わずハナは身体をすくめた。
「あ、そうか」
弦人はハナを、さっき市原に被せられた濡れていないジャケットで包んで抱きかかえた。
「これならそんなに冷たくないよね」
「弦人さんの手、こんなに冷たくて……弦人さんが死んじゃう……」
「死なない死なない」
弦人は笑って言った。
「ごめんねハナちゃん。信じてあげれなくて」
弦人はハナを抱えて倉庫に戻りながら呟くように言った。ハナはよく聞こえなくて顔を弦人に近づけた。
「よく考えたら、別に拳銃は突きつけられたわけじゃなかったし。ちゃんとあの時に話を聞いてあげればこんな事にはならなかった」
弦人の声からは後悔の色が感じられた。
「池田の事を聞いた瞬間に頭が真っ白になって、冷静な判断が出来なかった。ううん、ずっと何となくハナちゃんを信じてあげれなかったから、池田の名前が出てきた瞬間にすぐに疑っちゃったんだ。
ちゃんと信じてあげれなかった俺の弱さが招いた失態だ」
弦人はハナの顔を見なかった。しかし抱える腕にはしっかりと力が入っていた。
「そんな事ない。私がちゃんとしなかったから。私が隼をちゃんと拒否出来ればよかったんです」
ハナは泣きながら言った。
弦人は首を振った。
「ハナちゃんが池田に脅されてたのはもう知ってるよ。だから泣かないで」
冷たい手で、ハナの頭を優しく撫でた。
倉庫の近くで、弦人の着替えを持った市原が待機していた。
「社長、まずは着替えを」
「先に仕事を片付ける」
「しかし」
「お願いだよ。俺のプライドだ」
そう言って、市原の方を見もしなかった。
市原は大人しく着替えを下げると、代わりに巨大化湯たんぽと分厚い毛布をどこからともなく取り出して、ハナを抱えたままの弦人に勢いよく被せた。
「ではせめてこちらをお持ちください」
「え、ええ……」
「ハナさんは私が責任を持って預かります」
「嫌だ」
「お願いします。私のケジメでもあります。絶対にお守りしますし、絶対に変なところを触りません」
「当たり前だよ」
弦人は諦めたようにため息をついて、ハナを市原に抱えさせた。
代わりに弦人は、巨大な湯たんぽを抱えた。
「……なんか俺の見た目、ダサくない?」
弦人は苦笑いをしながら倉庫に入っていた。
ヒゲと、ハナを抱えた市原も続いた。
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