怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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一番怖くて強え

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 弦人が車から倉庫に戻ろうと近づいたとき、中からは怒号が聞こえてきた。

「どうしたのかな?」

 弦人は入口から覗き込んだ。


「正直に話せば許してくれるんだろ!」

 どうやら隼が必死になって騒いでいるらしい。

 随分と痛めつけらてれいるはずだが、気が折れていないのだから大したものだ、と弦人は思いながら倉庫に入り、隼に近づいた。

 ヤクザ達は弦人が来たことに気づき、一旦隼をから離れた。

 弦人はヤクザ達にたずねた。

「正直に言えば許す?誰かそんな事言ったの?」

「いやー、誰も言ってないっす」

 スキンヘッドが相槌を打った。

「あんたが!あんたがいったんじゃないか!」

 隼は弦人に向かって叫んだが、弦人はニッコリと微笑むだけだった。


「まあまあ、池田くん、そんな顔しないで俺の話聞いてくれる?池田くんにとっていい話だよ」

 弦人は隼を見下しながら楽しそうに言った。


「本当はね、池田くんは店の金取ったし、俺の事狙ったし、もう殺されるしかないんだよね」

 ゆっくりと話す弦人の言葉に、隼は絶望的な顔をした。

「本当はね、本当は。
 でも、俺は君に感謝してるんだ。ハナちゃんが俺の所に来たのも池田くんが失踪してくれたからだし、池田くんの思い出を利用してハナちゃんを俺のものにしたってとこもあるし」

「は、はぁ」

「可愛いよね、ハナちゃん。俺メロメロなんだ。そんなハナちゃんが、君を殺さないでって頼むんだよ?これはお願い聞いてあげなきゃだめじゃない?」

 弦人の言葉に、隼の表情が少し晴れた。


「社長、まさかこいつを殺さねえって事ですか?」

 店長が慌てて口を挟んだ。

「うん、殺さない。むしろ病院連れて行ってあげてよ。こんなに顔腫れちゃって可哀想に。俺たちの組の提携病院だけどいいよね?」

 弦人は優しく隼の顔をなでた。

「あ、ありがとう……」

 隼がそう頭を下げると、弦人はウンウンと頷いた。

 一方で、何かを察したヤクザ達は、隼を憐れみの目で見つめだした。


「病院行ったらね、ちゃーんと検査してもらって。きれいな内蔵だといいなぁ」


「な、内蔵?」

 話が読めず、隼は下げた頭を上げてポカンとする。

「うん、内蔵。生命維持できるギリギリまでだと、何個内蔵取れるかな?売れば池田くんが盗んだお金なんてあっという間に返せるしね」

「え?内蔵……まさか……」

「目もキレイだねえ。一個くらい角膜もイケるかな?」

 弦人はうっとりとした表情で、隼の目を見つめた。

「嫌に決まってんだろ!!」
 突然、隼は暴れ出した。

 ギチギチだったはずの拘束は、痛めつけられているうちに緩んでいたらしい。

 縄が外れてしまい、隼は必死に逃げるように暴れると、誰かが持っていたらしい拳銃を奪った。


 まさか、と思っていた一瞬の出来事だったので、皆の反応が遅れた。


「俺は逃げるからな!こいつが……テメェらの親分が殺されたくなかったらそこをよけろ!!」

 隼は、拳銃をもって、弦人を捕らえていた。

 そして、弦人の頭に拳銃を向けていた。


「おい、それは止めておいた方が」

 ヤクザ達が焦ったように隼に声をかけた。


 これはイケる、俺は逃げられる!

 隼が確信したその時だった。


 目の前の景色が逆さまになり、隼は身体を地面に叩きつけられていた。

「かっ!!」

 言葉にならない声が出た。

 次の瞬間、頭を強く踏みつけられ、顔をグリグリと地面に擦り付けられた。


「びっくりしたなぁ。急にそんな事したら怖いからやめてよー。ドキドキするよ」

 弦人は胸を押さえて言った。

 言葉とは裏腹に、その目は冷酷そのものだった。

 投げ飛ばした時に、Yシャツがかなり大きく破れたようで、蒼い入れ墨が目に入る。


 すぐにヤクザ達が隼を取り押さえた。

「気をつけてよ。彼はもう大事な商品なんだから、内蔵1つも潰しちゃうようなマネしないでね」

 弦人はそう言って隼の手から拳銃を取り上げた。

「素人がこんな事したらだめだよ。
 じゃ、皆、彼を今度はしっかり縛って逃げないようにして病院に連れて行ってあげてね。先生にも電話しておいて。生きのいい成人男性手に入ったって」

 そうして弦人は背伸びをして、
「じゃ、俺は仕事終わったし帰るね」
 と言うと、倉庫を後にしたのだった。


 残された隼に、花水木の店長は呆れたように言った。

「大方、社長の事をナヨナヨして弱そうだからイケると思ってたんだろうけどな。よく考えてみろ。俺らみたいなヤクザが、何で大人しくあの人の下についてると思う?」

「……あ……えっと……」

 絶望的な顔で、うまく声も出せなくなっている隼に、店長は諭すように言った。


「あの人が、うちの組で一番怖くて強えからだよ」


 店長の言葉に、隼は絶望的な顔で弦人の後ろ姿を見送るしかなかった。

 破れたシャツからは、恐ろしい鬼がチラリと見えていた。




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