怖がりで優しくて、とても恐ろしい人 〜ビビリヤクザに恋人になるよう攻められています〜

りりぃこ

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番外編Ⅱ ☆酔えば何でも喋る②

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 ※※※※ 一方その頃である。

  その日、夜遊び帰りのカンナの眼の前に、随分とガラの悪い男が立っていた。

「ああ、市原さんか」

  目の前のチンピラは、市原だった。
 スーツ姿なのはいつものとおりだが、くわえタバコで手には高アルコールのチューハイを持って、だらしなく歩いている。 

「ああ、マーメイドのキャバか。瑞希の友達の」

  市原はカンナを一瞥すると、チューハイをあおった。 

「カンナです。どうしたんですか?雰囲気違いますけど」

 「別にどうもしてねえよ。ちょっと追い出されただけだ」

 「誰に?」 

「女にだよ」

 「ええ、市原さん彼女いたんですか!?」 
 ショック!皆ショック受けますよ、とカンナは騒ぎ出した。

  市原は面倒くさそうに首を振った。

 「飯食わせて貰ってるだけの女だ」 

「うわ、何そのヒモ……ああ、市原さん、今無給でしたっけ?」 

 カンナの言葉に、市原はギロリと一瞬睨み、そしてふと思いついたようにニヤリと笑った。

 「知ってんなら話は早えな。おい、今日泊まらせろよ」 

「は、はぁ」 

「今更若い衆と一緒に住み込みなんかできるかっつーの……とにかくプライド削ろうとしてきやがる……」 

「はあ、大変ですね」 
 カンナは笑う。
 「まあ、いいですよ。今日マーメイド休みだし。ふふ、うち、市原さんとお近づきになりたかったしー」

  ニヤリとカンナが言うと、市原もニヤリと笑った。 

「おう、金は払えねけど、まあ満足させてやるよ」 

「ふふ、あんな仕事バリバリのインテリヤクザが、こんなエロ親父みたいな事言うとか、ギャップすご」 

「勝手に幻滅すりゃあいい」 

「うち、全然幻滅してないですよ」

  カンナは市原に自慢の人工巨乳をくっつけながら言った。 
「こーんな強気のくせに、あの弱そうな社長にボコボコに蹴られてた事を思い出すだけで、超萌える」 

 カンナの言葉に、市原はあからさまに嫌そうな顔をして呟いた。 

「チッ、これだから水商売の女は一癖あって面倒なんだよな」

  カンナはキャバ嬢の勘ですぐに気づいていた。

 市原は一切自分に鼻の下を伸ばすような様子はない。完全に自分を一晩の宿と食事要因としか見ていないようだ。 なら、たまに本気出してみようじゃん。このチャンス、モノにして見せる。

  カンナはそう内心ほくそ笑みながら、市原を自分のマンションに案内するのだった。


 ……しかし、カンナの決意は、マンションについた瞬間見事に崩れることになった。 

「カンナぁ~、今日泊めてぇ~、」

  カンナの部屋の玄関前に、ナツキが座り込んでいる。 

「聞いてよ~うちの彼氏また浮気しやがってさぁ。出てきてやったのよ。とりあえず今日一日泊め……」 

「ナツキ、今日は帰れ」

 「何でよ~」

 「とにかく帰れ」 

「ヒド……あれ?市原さん?」

  ナツキはふとカンナの横に立っている市原に気づいた。 

「ちょっとカンナ!?何で市原さんと一緒にいるの?」 

「何でもいいでしょ!とにかく今日はダメ」

  カンナは必死になってナツキを追い出そうとする。しかしナツキも必死になった。

 「一体どうやって市原さんお持ち帰りしてきたわけ!?抜け駆け禁止だけど!やだ絶対帰らない。私も市原さんと泊まる!」 

「あんた彼氏いるでしょうが!」

 「あんな奴どーでもいいわ」 

「おい」
  カンナとナツキが揉めているのを市原は低い声で止めた。
 「早く入りてえんだけど」 

「あ、はいはい。……ったく、ナツキ、マジであとで覚えときなさいよ」

  カンナはナツキを睨みながら部屋に二人を案内した。

  宅配で適当に夕飯を注文してから、冷蔵庫から酒をだす。 

「シャワー浴びます?元彼のTシャツならありますけど?」

 「ああ、借りる」

  そう言うと、遠慮せずに市原はジャケットを脱ぎながらシャワーに向かった。 

「慣れてるな、あれ」

  ナツキはボソリと呟いた。

「女の家に一切物怖じしてない。あれ、一見さんの女の家に泊まるのに慣れてるでしょ」

 「でしょうね。まあ、仕事きちっとしてる男ほど、プライベートだらしないのはあるあるでしょ」 

 そう言いながらカンナは適当につまみを取り出した。 

「ねえ、マジでナツキ、今日は譲らない?ネカフェ代くらいなら貸すって」 

「いやだ。ズルい。だいたいカンナはハナの隣の部屋なんだし、社長来るついでに市原さんも来るから市原さんに会う機会結構あるでしょ。むしろ私に譲ってよ」 

「だからあんた、彼氏は?」

「彼氏だって浮気したもん」

  ナツキは頬をふくらませる。 カンナは大きなため息をついた。

 「あーもう仕方ない。じゃあ今回は市原さんをモノにするのは諦めて」 

「うんうん」 

「情報収集しよう」

  カンナがそう言うと、ナツキは目を輝かせた。

 「面白そう!市原さん謎多き人物だしね!」

 「そうよ。うち等の呑ませテクさえあれば、ザルだって怖くないわ」

  そう言ってカンナはニヤリと笑って、市原のいるシャワー室に目をやるのだった。



 宅配の食事が届き、3人は缶ビール片手に夕飯を食べた。
 カンナの部屋に来る前にも強めのチューハイを飲んでいたはずの市原だが、全く顔色は変わらない。 
 しかししばらくすると、ずっと平気そうだった市原が、ふと、ビールの空き缶を置く際に一瞬だけフラリと手が揺れた。
 それをカンナとナツキは見逃さず、ニヤリと笑った。 
 ちょっとカタギには使わない手段でを使い、二人は市原を酔わせることに成功していたのだ。

 「ねえ、ところで市原さん、私とナツキ、どっちがタイプ?」

  カンナがとりあえずたずねてみると、市原は即答した。 

「カンナだな。俺はボインが好きだ」 

「えっ!カンナなんてあれ偽物のおっぱいなのに」

 「ナツキ余計な事いうんじゃないわよ!」

  カンナはナツキを睨みつけた。

 「別に本物でも偽物でもいい。俺はボインじゃなきゃだめだ。むしろ、ペチャパイはトラウマだ」

「トラウマ?」
 カンナとナツキは同時に声が出た。

「トラウマとまで……なんかされたんですか?ペチャパイの女に殺されかけたとか」

「俺の初恋だ」

 市原がぼそっとつぶやいたので、二人は身を乗り出して小声で言った。

「は、初恋?やだ、酔っ払ってる市原さん何でも喋りそう」

「今なら組の隠し金庫の場所まで喋りそう」

「言わねえよ」
 聞こえていたらしく、市原はブスリと言った。
「ふん、もう何も言わねえ」

 そう言って背を向けて寝ようとしてしまう。

「やぁだ、市原さん。まだお話しましょうよぉ」

「そうですよぉ。ほら、初恋って、若い時の話でしょ?昔の市原さん、きっと強くてもてもてだったんでしょうねえ」

「社長の秘書してるくらいし、きっと仕事もバリバリしてたんでしょ?カッコよかったんだろうなあ」

 カンナとナツキは、仕事モードになって必死で市原の機嫌をとる。

「市原さんは、仕事ができるってことは、見る目があるんですよ。そのトラウマになったっていう初恋も、多分その相手がひどい人だった、とかじゃなく、理由があるんですよね?悪い思い出じゃないでしょ?」

 カンナが優しくたずねる。

 男が初恋を語ろうとする場合、それは思い出補正がかかってるのよ、と前に先輩キャバ嬢が言っていたことを思い出したのだ。

 カンナの目論見どおり、市原はポツリと話しだした。

「俺が組に入ったばっかりの頃の話だ」
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