【完結済】小柄で陰キャ、オタクなあいつは、実は‥‥

天知 カナイ

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俺とタカシが跪いているゴミ置き場の奥の細い道からやってきたのだ。手には何やら丸いものを持って、珍しく口角が上がった顔をしていた。
丸いものを持ってにやにやしていた新條は俺と視線が合うと、ん?という顔をした。血だらけの男を抱きかかえているのだからそれは不審に思っただろう。
「笹井?どうしたんだ?」

ヤバい、このままだと新條まで巻き添えにしてしまう。俺はそう思って咄嗟に
「何でもない」
と言った。
だが、俺とタカシに近づいていたいかつい男は、新條に気づいてしまった。
「なんだチビ、お前もこいつらの仲間かぁ?」
いかつい男はそう言って新條の後ろからどんと突き飛ばした。その衝撃で、新條が持っていた丸いものが新條の手から離れ、道路にコロコロと転がって行ってしまった。
「ああ!!」
新條が大きな声を上げる。が、転がっていった先は車道で、あの丸いものはぐしゃりと車に轢かれて潰れてしまった。

「ああああああ!!」
新條は今まで聞いたことのない大声で叫んだ。いかつい男は顔を顰めて新條の襟首をつかもうとした。
「うるせえなチビ‥」
いかつい男は最後まで言い切ることはできなかった。

新條はふっと身体を下げて両手を地面につき、そのまま左足を鋭く振っていかつい男に回し蹴りをかました。ゴッ!と鈍い音がしていかつい男がぐらりとよろけた。
「てめえ、やってくれたな‥」
新條は低い声でそう言いながら立ち上がり、くるりと向きを変えていかつい男の正面に立った。俺は何が起きたのか理解できず、ただただ茫然と新條を見つめていた。
いかつい男は鼻血を出したようだった。それに自分で気づいたのか、いかつい男は顔をどす黒くして新條に「てめえ!」と叫んで殴りかかってきた。新條はひょいとしゃがんでそれを躱し、下から抉るようにいかつい男の腹にパンチを入れた。ドッ!と今まで聞いたことのない音がした。

「おぐっ!!」
いかつい男は腹に受けたダメージが大きかったのか、そのままぐしゃりと地面に座り込んだ。新條はその男の髪を掴んでぐいと持ち上げ、鼻血を噴いている男の顔に自分の顔を近づけた。
「お前あれをゲットするのにどんだけ俺がガチャパトしたと思ってんだ、あ”あ”?」

‥‥新條が怖い。

いかつい男は完全に戦意喪失している。それはそうだろう、いかつい男は俺よりもたっぱがありそうだし筋肉も結構ついてる。それなのにぱっと見ヒョロガリの陰キャ風新條に手もなくやられてしまったのだ。
いかつい男を締め上げている新條の後ろから、細身の男が迫ってきているのが見えた。
「後ろ!」
俺は思わず叫んだ。新條の後ろから膝蹴りをくらわそうとしていた細身の男を、新條は振り向きざま足の膝を踏みつけるようにして蹴り飛ばし、同時に細身の男の鼻に鋭い肘打ちをお見舞いした。
細身の男もよろよろと後ろによろけ、ぶわっと鼻血を出した。
「どうしてくれんだよ、俺の大事なキーチャーム!」
新條はそう言って不機嫌そうにいかつい男を睨みつけた。
いかつい男は腹と鼻を押さえながらよろよろと立ち上がり、細身の男の傍に行った。細身の男も立ち上がって新條を見た。
二対一になる、ヤバい、と思ったが、男二人はそのままくるっと後ろを向いて走って去っていった。
「おいコラ!てめえ!弁償しろ!」
新條はそう叫んだが彼らの足は速かった。
「‥んだよツイてねえな‥」
と言いながら新條はこちらを見て、また俺と視線が合った。そしてまた、ん?という顔をした。
「‥で、笹井は何してんの?」


気づけばあとの二人のメンバーの姿も見えなくなっていた。どこかのタイミングで逃げてしまったらしい。俺はポケットからハンカチを出してタカシの鼻を押さえてやった。
「新條、助かった。俺たちさっきの男らに絡まれてたんだ」
新條はああ、というような顔をして俺とタカシの傍に寄ってきた。そしてタカシの顔を見て、鼻を触り口を開けさせた。タカシは痛かったのか「ひいっ」と悲鳴をあげた。新條はすぐに手を離して言った。
「鼻はちょっと軟骨曲がったかもな。歯も折れてはねえけど念のために歯医者に行った方がいいぜ。行くなら先に鼻の方だ。整形外科でこの辺、今空いてんのは‥大原総合病院しかねえかも。連れてってやる?救急車呼ぶ?」
てきぱきとそう言ってくる新條の姿は、何というか、すごく。

俺の心臓がまたどえらい速さでばっくんばっくん音を立てる。
小柄で、陰キャでオタク気質に見えるのに、実は。

ヒーローみたいじゃねえか。新條。

「‥新條は喧嘩慣れしてんの?」
俺がそう聞くと、新條はぎくりと肩を震わせた。そして小さな声で「やべ‥」と呟き、じっと俺の顔を見た。
「笹井、今日見たことは忘れろ。話すな。俺はお前とは会わなかった。な!じゃな!」
新條はそう言い捨てるや否や、すぐにそこから走り去っていった。


俺はその後、タカシの親に連絡を取り、ざっくりとした説明をして(新條のことには触れず、何とか逃げたことにした)タカシを病院に連れて行き、そこにやってきたタカシの親と合流して家に戻った。
家に戻ったころ、姿を消していた二人の内の一人からSNS伝いに連絡が来たので、とりあえず無事だ、とだけ返しておいた。俺たちを見捨てて逃げておいて今さらなんだ、という気持ちもなくはなかったが、言っても仕方がないことなので特に責めたりもしなかった。

あちこち汚れていたので風呂場に行き、シャワーを浴びた。熱いシャワーがおれの身体と心の中まで響いてくるようだった。

かっこよかった。

新條はたまらなくかっこよかった。
あの男たちに何の危機感も覚えていない様子、俺たちの事情なんか気づいていないのにあっという間に二人を戦意喪失させたこと。
あいつらをボコっている時にちらりと見えた新條の顔。

別にイケメンでも何でもない、普通の顔立ちだったと思う。
ただ、鼻の辺りに薄くそばかすが散っているようだったのとちらっと見えた目がきらきらしていたのが印象的で。

胎の奥がずく、と疼いた。
ふと下半身に目をやれば、ガチガチに勃起して腹を打たんばかりになっているちんこが見えた。
俺は何も考えずにそれを握った。熱い湯が降り注いでくるその下で、夢中になって扱いた。頭の中には色々な新條の姿が浮かんだ。
「ふ、うっ、新條っ」
熱が放たれて途轍もない快楽に浸る。ぼうっとして、その後我に返った。
「‥‥やべえな‥」
放たれたものが流れ落ちる湯にどんどん流されていくのを、俺はぼんやりと見つめていた。

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